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ハンバーグ

「ハンバーグってさ、特別な料理って感じ、するよね?」
ゲームに向かうトモキに私が話しかけると、「あー、そうね。」と空返事が返ってきた。

日曜日の午後、カーテン越しの日差しは、柔らかく二人を包む。
トモキがゲームに夢中になる横で、私はスマホ片手にレシピを調べ続ける。同じように作ってあるようで、実は全然手順が違っていたりする。

「じゃあ、ひき肉買って来ようかな。」

さて、材料が揃ったので、玉ねぎのみじん切りから始める。
サク、サク、サク…。つん、と、匂いがする。これを耐熱容器に入れて、レンジでチン。
これを冷まさないと、ハンバーグが失敗する。

トモキの方をチラッと見ると、また別のゲームをしている。その顔は、子どもに戻ったかのようだった。

私はそっと結婚指輪を外した。
愛がなくなった訳ではない。これからハンバーグをこねるのに、指輪が汚れてしまうからだ。
そっと両手を見て、手のシワが増えたなぁと思う。10年前のトモキに出会った頃に比べたら、カサカサになり、指が太くなり…美味しい料理を作る手になってきたぞ。

よし、やろう。
材料を全て、ボウルに入れて、こねる、こねる、こねる。
粘り気が出るまで、こねる、こねる、こねる。
ゲームの音楽がリビングから聞こえる。
そうだ、私は今、ひき肉星人と戦っているのだ。
ひき肉星人は、だんだん卵やパン粉や玉ねぎにやられて、ネバネバしてきた。勝った!

ボウルの中で、やっつけたひき肉を四等分すると、そのうちのひとつを小判形に丸めて、フライパンに並べる。
四回繰り返して、火をつけると、間もなく肉の焼ける匂いがキッチンに広がる。

「美味しそうな匂いがしてきた。」と、トモキ。

そうよ、今日は美味しいハンバーグよ。
だって、あなたが昇進した、お祝いですもの。

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