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「幕臣たちの明治維新」読了

「幕臣たちの明治維新」 安藤優一郎
(講談社現代新書)

この本は、明治維新後の幕臣がどのような生活をしたかについて書かれている。

薩長土肥による「新政府」が誕生してから、幕臣たちは生活の糧を失った。そして、彰義隊や榎本の幕府脱走艦隊に加わる者は少数で、大半は帰商・帰農したり無禄移住など、悲惨な生活を強いられた。彼らの拠り所であった徳川家の移封された静岡藩も、明治4年には消滅する。

不満を抱えた彼らは、ある者はジャーナリズムの道を進み、またある者は下級官吏になった。
西郷隆盛が西南戦争を起こしたときには、江戸では西郷が人気者となり、その後は自由民権運動が彼らの心を掴んだ。

この本を読んで、「勝者は歴史を語り、敗者は物語を語る」という言葉を思い出した。
新政府は「正史」を紡ぐべく人材を集めたが、その一方で幕臣たちは不平不満をくすぶらせながら在野で新聞を編集したり、西南戦争に夢を託したりしている。明治22年の空前の「江戸ブーム」も、かつての徳川の治世に対する懐古であったりする。

著者は、幕臣たちが残した記録を元に「幕臣たちにとっての明治維新」を語っている。これは、「正式な歴史」(新政府の語る歴史)を補完する、大切な記録だ。

そういえば、内村鑑三(高崎藩士の子ども)も、明治30年頃の日記や手紙で薩長土肥に対する悪感情を隠さず記録している。
内村鑑三全集に掲載されており、今思い出しても興味深い。

ところでこの「空前の江戸ブーム」は、形を変えて現在でも続いている。土方歳三の人気は、坂本龍馬に匹敵する。
現代の江戸ブームは、何を物語るのだろうか。

これは私見だが、明治から昭和初期の世界を「理想のもの」として語りにくくなった事が背景にあるのではないか。明治以降、日本は富国強兵を目指す一方で、琉球処分にはじまり「物語にしにくい事」を行ってしまった。
幕臣から明治の官僚となった榎本武揚も、メキシコのチアパスに「殖民」をしようとして、失敗していたりする。
明治以降の日本の歴史は、娯楽として漫画やアニメや小説にするにあたり、「不都合な部分」でもあったりする。不都合に目を向けるよりは「土方歳三カッコいい」と言っていた方が物語としてカタルシス効果も得られる。

現代の「江戸ブーム」は、実は、不都合から目を背けるための目眩しになっていないだろうか。(と、言いつつ、私も「ファンタジーとしての江戸」を享受しているのだが。)

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