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ある男

「僕はメガネを3本持っている」
そんなくだらない自慢話をしたのが大学一年生になってすぐの頃。

どんなサークルに入ろうか悩んでいたとき、先輩たちがメガネの話を振ってくれた。この話題なら自分も対等にみんなと会話できるだろうと息巻いて、メガネの本数を自慢してしまったのだ。

今思い出すと本当に意味のわからない自慢だと思う。
これは後から聞いた話だが、そんな僕の意味のわからない自慢に対して、
「俺は五本持ってるし」
と心の中で発していたのが、リョーマという男である。
僕はこの男がとても好きだ。

高校からテニスをやっていた僕は、テニスができるサークルに入ろうと思い、大学で一番強いテニスサークルに入ることにした。
この男と僕は、別のサークルの新歓でも何度か顔を合わせていた。そして結果として同じサークルに属することになった。

僕にとって彼は、しばらくの間、嫉妬の対象でしかなかった。

リョーマという男は、よく笑う。
どんな人とでも気さくに話をすることができ、いつも真ん中にいるような男だ。新歓時代からその力を遺憾なく発揮した彼は、同じサークルに僕らが入った頃も中心的な存在になっていた。かたや、メガネの本数を自慢してしまうようなコミュニケーションしかできない僕は、やはり真ん中にはいられないと感じていて、どこか距離を感じるとともに、羨ましいなといつも思っていた。そして何より、彼はかっこいいのだ。
外見ももちろんだが、筋が通った男で、家族や恋人、友人を大切にし、それでいて自分の想いも貫く。かっこいい男なのである。


二人とも属していたサークルにおいて僕らは、そこまで深くは関わらなかった。それは僕が嫉妬していたからに他ならない。あくまで、ある一定の仲良しグループのうちの二人という感じでしかなかったのだ。

そんな嫉妬の対象でしかなかった彼と深く関わるようになったきっかけは、二人して、サークルを途中でやめたことだったと思う。

二人してサークルをやめてしばらくしてから、話すことも遊ぶことも増えた。そこからは僕が住んでいたアパートに呼んで酒を飲んだり、くだらないことをLINEで話したりした。

大学4年生になって、みんなが思い出作りしようと必死に遊んだり、お酒を飲んだりする姿が想像できないという話とか、彼女ができた話とか、僕らってメンヘラなのか?とか、叶いもしなかった卒業旅行の話とか、二人してよく行く古着屋さんの話とか。そんなくだらないことをたくさん話した。

どれも楽しかった。彼とは四六時中一緒にいるというほど近い距離では接していなかったが、僕は何か人に話したいことがあると、決まってこの男に話したくなり、連絡をしてしまう。そして彼はLINEで文字のやり取りをしていても、よく笑っていた。彼と次第に仲良くなるにつれて唯一変わったのは、僕が抱えた彼に対する嫉妬がどこかに消え去ってしまっていたことである。

しかし、そんな彼と最近はあまり連絡を取れなくなってしまった。
僕が仕事に追われてしまっていることが原因だ。
一度連絡する習慣がなくなってしまうと、そこからは悪循環である。連絡しづらいなと思って、結局連絡できないという状況を繰り返す。時間ばかりが流れていった。

その後彼と連絡を取ったのは、7月末。
Instagramに僕がタグづけされたと通知が来たのがきっかけだ。
彼は僕が作ったイラストがプリントされたTシャツを、購入してくれた。
そしてそのことを、かなり遠回しに、タグづけという形で僕に伝えてくれたのだ。僕はあの連絡が来たことを忘れないだろう。金銭という高いハードルがあった上で自分の作ったものが、自分の好きな人の手に届いたのは、これが初めてだったからである。

感謝を伝えると彼は、「よい!!!!!!!!」とエクスクラメーションマークマシマシで僕に一言連絡をくれた。そして、次会うとき着ていくと、また文字の上で笑っていた。
リョーマという男は、よく笑う男である。

今度は僕から連絡して、久しぶりに飲みに行きたいところである。

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末吉
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雨野よわ

絵を描く駆け出しコピーライター。 ゆとりど真ん中世代。書きます。もがきます。
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