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蛇飼いたい

蛇を飼いたいという欲望が最近ふつふつと湧き出している。

もともと爬虫類は好きだったのだが、先日地元の博物館に行く機会があり、そこではく製の蛇を見て以来彼らのことが気になって仕方ない。

死してはく製にされた蛇たちはとぐろを巻いて、僕をじっと睨んでいた。
僕もその目を見つめ返した。蛇の目は丸く、瞳孔は刃物で裂いたように細く、黒い。
褐色の瞳に開いた黒い隙間に、僕は吸い寄せられるような気がした。この感覚には覚えがあった。早朝、朝日に照らされて目を覚ますと、その瞳はいつも僕の枕元にあった。

猫だった。蛇たちの瞳は猫にそっくりだった。
だからかと思った。瞳を見た瞬間、どきりと矢に射抜かれるような緊張と、愛らしさを感じたのは。

彼らのことをもっと知りたいと思った。猫に似た瞳を持つ彼らのことを。

そこで僕は図書館に行き『小学館の図鑑 NEO 両生類 はちゅう類』という大型の図鑑本を借りた。図鑑を読むのなんて小学校以来だった。懐かしさと共に図鑑をめくる。そして目に飛び込んできた十人十色、千差万別の蛇たち。

小学館

https://www.amazon.co.jp/dp/4092172060/?tag=shogakukanonl-22

頭と胴の間に境目のない、ミミズのような蛇。
退化した小指の先ほどの小さな足を持つ蛇。
ワニを飲み込むほどに巨大な蛇。
虹色に輝く鱗を持つ蛇。

なんと様々な蛇がいることか。

とっても綺麗だ。気付けば嘆息しながら図鑑を眺めている自分がいた。宝箱の中身を眺めるように僕は目を輝かせていた。

僕は恍惚としながら、ページをめくっていたのだが、解説文の終わりに✖がつけられている蛇がいることに気づいた。

その✖のついた蛇たちを追っていくとそこに共通点があることが分かった。
マムシ、ヤマカガシ、ハブ……皆毒蛇である。


蛇は皆美しく、愛くるしいのだが、バラに棘があるように彼らには毒がある。
マムシの毒は出血毒と呼ばれ、出血が止まらなくする作用や細胞を殺す作用があるそうだ。
ヤマカガシの毒は目に入ると失明する危険性を持っている。
ハブも発達した毒牙を持っていて、かみつくときに長い毒牙が上あごから飛び出すようになっている。攻撃性も高い。

だが、図鑑によると日本本土にいる毒蛇はマムシ、ヤマカガシの二種だけなのだそうだ。だからきちんと毒の有無を判別できれば、本当は必要以上に怖がることはないのだ。棒で打ったり、石を投げたりするんじゃなくて、ただ彼らを怖がらせないよう静かにその場を離れるだけでいい。蛇は自分の身に危険が迫っていると感じない限りは、自分から人間に襲い掛かることはない。

もしこれから自分が蛇を飼うのならどんな蛇を飼おうかしらん。
日本では毒蛇は飼えないと決まっているので、むろんそれ以外の蛇だ。
出来れば長い蛇がいい。
巻きついてじゃれあっても平気な蛇。
確か中国の子どもだったと思うが、身の丈の何倍もあろうかというニシキヘビを彼は飼い、寝食を共にしていた。僕が猫の背に顔をうずめるように、彼も蛇の体鱗に頬ずりしていた。僕はそれを見てまるで兄弟みたいだと思った。
蛇を飼うなら、それくらい親密な関係になりたい。

ここまで猫と目がそっくりだからという随分とアバウトな理由で蛇を飼いたいとのたまってきたが、実際のところ僕は彼らのことをまだまだ知らない。恋愛で言えばまだ、ひとめぼれの段階だ。
知るべきことはたくさんある。

いつか蛇との麗しい同居生活が始まるその日まで、彼らの魅力を語っていこうと思う。彼らのことを知れば知るほど、語れば語るほど僕は彼らを好きになっていくだろう。それこそ恋愛と同じように。

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