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 サム・ゲンデル(サムゲタンみたいだ)の「AUDIOBOOK」のうちの確かWXに半ば叩き起こされるような形で起床。CIAが例えばグロッグなんかをガンホルダーから素早く引っこ抜き、弾倉の18発(ググったところ正確には17発+1発らしい。1発を銃身に前もって装填しておかなければならない)をフルオートですべて撃ち切ってしまい、スペアのマガジンを装填するに至るまでの厳しい訓練の影がうかがえる動作を彷彿とさせるような、目にもとまらぬ速さでスマートフォンを開き、Spotifyを開き、ライブラリを適当に下にスクロールし、ちょうど親指がある位置に止まったアルバムを再生する。寝ぼけた頭はほとんど信用ならないのでもしかするとその動作は全然速くなかったかもしれない。アート・ペッパーの「On Savoy」の中の「Deep Purple」だ。ライブラリに保存しておいて恥ずかしながら初めて聴く曲だ。ディープパープルと聞いて真っ先に思い浮かぶのはヘヴィメタルのバンドの曲だが、この場合は全然違う。ペッパーのディープパープルはむしろそれとはほとんど真逆と言っていいほど穏やかで優しくて薄味な曲だ。おそらく両者の色に対する感性がまるで違うのだろうと思う。日本人にとっての青と緑が、どこかの森の中の民族にとっては青と水色程度の差しかないといった話を思い出す。それと同時に、アメリカ式飲み会というのは、ハッピーアワー(17〜18時)のうちにさっと飲んでしまって食事も少なめでさっと終わらせるのだ、といった内容の日本人が投稿したインスタのリール動画を思い出した。こいつらにはいつまで奴隷根性が染み付いているんだ、「アメリカでは」に対するカウンターはすでにピチカート・ファイヴがこしらえたというのに、とかその時は思ったりしたものだ。しかしながらそういうムーヴメントはいつの時代も後を絶たないものなので仕方ない。仮にアメリカで、「日本では「アメリカでは」という話題が後を絶たないらしい」という話題が持ち上がったとして、そうなった場合、「アメリカでは「日本では「アメリカでは「日本では「アメリカでは「日本では「アメリカでは「日本では「アメリカでは「日本では…」」」」」」」」」」といった、いかにも「ラッシュ・アワー(ハッピーアワーにちなんで)」を思わせるCIAモノ映画のような銃撃戦に火を付けることになってしまうかもしれない。あるいは、永遠に終わらない(百年戦争程度じゃ効かない)、それでいて決して休戦状態というわけでもない、記号と文字の上で激しく繰り広げられる戦争。円周率と同じ長さ。ゾッとする悪夢だ。もし僕が数学に長けていたとしたら気の利いた記号でも用いて無限を表現したいところだが、あいにく僕はド文系なのでそれはできない。

 駅でクラフトボスのブラックとカロリーメイトのフルーツ風味のものを買う。菊地成孔がしょっちゅうカロリーメイトを食うらしいのでそのせいで。だいたい僕は何から何まで影響を受けすぎる(括弧書きがやたら多いのも菊地成孔から受けた影響だ)。マイケル・ジャクソンに魅せられてムーンウォークの練習を始めるのは通過儀礼のように誰もが通る道であるのは当たり前として、僕の場合口調や振る舞いまでもミメーシスされてしまうのでこれは困ったものだ。ミメーシスが行き過ぎた結果知り合いからダサいキモいバカアホなどと手痛い仕打ちを何度となく受けてきた。しかしこの馬と鹿を体現する男は、それもすべてひっくるめてミメーシスなのだ、とメタなミメーシス論を展開してしまうので、これはもっと困ったことだ。

 いつも駅などを歩くときは基本イヤホンをしているが、ついに嫌気がさしてイヤホンを思いっ切り投げ捨てたいところをぐっと我慢してケースにしまい込んでポケットに入れる。僕も含めたこの奇妙な根暗民族は幾重にバリアを貼れば気が済むのだ。イヤホン、前髪、メガネ、目線、それからマスク。あいにく僕には前髪を上げたヘアスタイルが似合わないのでそこはパスさせてね?トビー・マグワイアもたまに前髪作ってるし。かわいいじゃんね?
 自己愛性パーソナリティ障害にはメガネを掛けた人が多いのではないかという仮説を僕は過去に立てたことがあったが、あのときの僕はかなり冴えていたんじゃないかと思う。

 友達が日帰りで滋賀に行ってきたらしい。彼は滋賀で彼の友達に5000円の借金を作って帰ってきたのだそうだ。もういっそのこと女作って帰ってくればよかったのに、と思う。旅館の娘さんなんかといい感じのムードになって、そんでとんとん拍子に話が進んでって、最終的に結婚まで決まればよかったのだ。旅館なので両親がすぐそこに居るわけなので話も早い。彼って結構頼もしい所あるし。でも1日で結婚まで持ってけるのってすごいよな。かなりの凄腕か、もしくは相手からの結婚詐欺か。でも金持ってるわけでもない大学生を結婚詐欺にかけて何を搾り取るんだろうな。魂とか?それなら筋は通るかもしれない。旅館の娘さんが駄目なら観光地でたまたまナンパした女性と結婚すればよかったのに、と思う。どちらにせよ馬鹿げた話だ。あともうこれ結婚ハラスメント、通称マリハラだよな。なんかマリファナみてえだな。

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