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ショートショート

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ショートショート:アナウンス・ノスタルジー

ショートショート:アナウンス・ノスタルジー

「今日もお前か」
操縦室に乗り込めば、旧車掌席に置いてある機械が話し出す。きっと顔がついていたのなら、怪訝そうに眉を寄せていたのだろう。
「悪いね、きみの役割を奪ってしまって」
「物好きだなあお前も。別にそんなことしなくたって給料もらえるだろ」
「まあ、それでも僕はこの仕事が好きだから」
カバンから折り畳みの椅子を出し、機械の横に座る。既に使わなくなったマイクのスイッチを入れて、口元へ。
「本日も

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ショートショート:キッチン交響曲第1番

ショートショート:キッチン交響曲第1番

キッチンは騒がしい。よく分からない業者から買ったドライイーストが悪いのだと妻は言うが、原因はよく分からない。とにかく、つい一ヶ月前から、何を作っても料理が笑い出すのだった。賑やかな方が好ましいので、特に気にはしていない。今日もまた、けたけた、げらげら、と笑い声が響くオーブンを開けてみれば、その中に一つだけ、どこか控えめに笑みを浮かべるパンが一つ。

お題:半笑いの パン

ショートショート:用法・用量をお守りください

ショートショート:用法・用量をお守りください

引いたカード:道に落ちていたアレルギー

落ちている“それ”に妙に惹かれた理由は分からない。気づいたらひとつ、ふたつ。両手の中にいっぱいになった”それ”。まだ欲しいような気がして、またさらにひとつ。ころりと溢れた瞬間、”それ”がどうにも恐ろしいものに見えてしまって手を離したくなるけれど、”それ”はがっちりと私の手を握りしめて離さない。ゲホ、と咳が一つ出たとき、”それ”は満足げに微笑んで、私を見つめ

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ショートショート:茶箪笥端会議

ショートショート:茶箪笥端会議

お題:しゃべるコップ

「ねえ、みて」あいつの一言に、隣のコップと目を合わせる。始まったわね、始まったわよ。「今日はぶどうジュースが入っているのよ、素敵じゃない?」誰も答えやしないのに、びっしょりかいた汗にも気づかずあいつは得意顔。
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