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あい〜をん

制服の子、私服の子、なんちゃって制服の子、茶髪、金髪、頭に大きなレースのリボンを付けた子、ぬいぐるみを背負ってる子、女の子だけれどメンズスーツをカッコ良く着こなす子、、、本当に色々なスタイルで誇らしげな顔をしたティーネイジャーたちが入場してきた。息子の高校の卒業式だった。

息子の通った高校には、校則がない。子どもたちの自由意志が尊重され、その自由を使って自分たちで何が出来るのかを考えて行動することがこの学校の教育理念と目標なのだ。
校則もない代わりに、用意された部活もないし、コロナ禍だったことから、学校主催のイベントもほとんどなかった。要は学校が与えてくれるものが極端に少ないし、あったとしてもそこに強要は全くない。
けれど、子どもたちが自分で発案したことは出来る限り実現させてくれるから、同好会は入学した時から倍近くの数になっている。子どもたちが署名を集めて発案した校外イベントも実現した。
リーダータイプの子が引っ張ってくれて、観光バスでツアーを企画実現したクラスもあれば、何も言わないから何もなかったクラスもある。
不平等と思う人もいるかもしれないが、機会は平等に与えられており、声を上げれば何でも出来たのに、ただ自分たちが何もしないという選択をしたということなのだ。
私は、この学校の教育方針はこの先の時代を生きていく人たちにとって、尊い学びとなったと断言したい。
多種多様な生き方が許されるようになった代わりに、手を上げなければ置いてきぼりとなってしまうだろう。つまりは、自ら行動を起こしていく人にとってはあらゆる可能性を秘めているが、与えられたものを待つだけの人には厳しい現実が待っている時代なのだ。与えられるものがなくなっていく時代にすでに突入しているから、受け身で生きていると幸せに生きるということから遠ざかってしまうだろう。

そして、’自由’に生きるには、つまりは思い通りに生きるには、必ず自分を動かす自家発電機を自分に備える必要がある。
こんなことがしたい、あんなことがしたい、あそこに行きたい、ここに住みたいと言うだけなら誰でも出来るだろう。けれどそれを実現させるには、えいっ!と一歩を踏み出す勇気と自分を鼓舞するエネルギーが要る。

卒業生代表の謝辞が素晴らしかった。
「私がこの学校に来たときは不安と葛藤で一杯でした。けれど、誰かと比べず、人の目を気にせず何かをできるという環境の中に入ったと気づき、自分のやりたいことをやろうと決めました。何かを始めるにはそれ相応のエネルギーが要りました。けれど一生懸命やって初めて分かったことがありました。昔、こんな風に頑張れなかった自分の時間はもったいなかったなということ。そして、こんな風に頑張れる自分に成長出来た喜び。しかも一生懸命自分の道を進んでいると、たくさんの助けや応援がもらえて、感謝できる仲間や家族に囲まれていること気付けました。暗闇の中、これでいいのかと苦しみもがき結局何もしなかった頃の自分よりも、夢中になってやっている自分は、その過程でも嬉しいことがたくさんあったし、ゴールの景色は素晴らしかった、、、、」
本当に高校生のスピーチなのかと感心させられた。
まさに自分で決めて行動し、自身で気づきを得た人のスピーチだ。
この学校の目指している教育の成果を見せてくれた青年の顔は輝いていたし、声には力があった。
この代表の子だけでなく、他の子どもたちもまたそれぞれが変化成長を遂げたことだろう。我が子を見ても、入学当初と比べるとものすごく成長し頼もしくなった。周りの友達と出かけても高校生とは見られず、大学生に間違われる理由は、自由という一見甘く思われがちな環境の中、与えられるものが少ないからこそ自分で決めて行動することを繰り返すという実は厳しい鍛錬を超えてきた子どもたちだから顔が引き締まって大人びて見えるのだ。
私は、そんな子ども達を見て誇らしく思った。

校長先生の祝辞も素晴らしく感動した。その中で、日本語に込められた言霊の話が印象的だった。
「日本語は、古来より言霊と言って、言葉に魂の力を込めた意味を含んでいます。例えば’ありがとう’は有り難いという意味で、その反対は’当たり前’です。みなさんがこうしてここにいることは、当たり前ではなく、有り難いことなのです。ご両親がいてこの世に生まれ、誰かに育まれ、仲間たちに支えられたからこその今は、本当に希少な有り難い現実なのです。日本語の50音は’あい’から始まり’をん’で終わります。みなさんは愛から生まれて愛を与えられ育ちました。愛から始まったのです。そして、最後は恩返しをして終わるのです。恩返しのできる人になってください。」

日本語の美しさは本当に素晴らしいし、その言葉を使い、人や文化を育ててきた日本人は特別だと、改めて日本人であることに誇りを抱いた。
元より日本人は、自由に個人が主体性を持って生きても利己に走らず、他者のことを思いやり大切に出来る心を持って輪をなすことがとても得意だ。
だからこそ、自分で決めて行動し、気づきを得ながら何かを成し遂げる経験を何度も繰り返し、それを人生の喜びとして生きていってほしいと子どもに対して思う。そして、それは自身の残りの人生への誓いでもあるのだ。

’あい’から始まり’をん’で終わる50音のそれぞれの文字のように、全ての形は違っていい。一文字一文字がそれぞれに完結すればいい。
それらが組み合わさった時に言葉が生まれるように、違う形の人それぞれが誰かと組んで意味のある何かを作り上げられたらどんなに素晴らしいことか。そして、自分自身の個性は変わらなくてもまた他の違う個性の人とチームになれば、驚くような違う自分になれたり、自分の価値を見出せたり、隣にいてくれる人の大切さに気づくことが出来るだろう。
愛から生まれた私たちは、自分自身の足で力強く道を切り開きながら進み、一緒に過ごして来た誰かに恩返しが出来る人になれたなら、きっと一番幸せな思いを体験できるだろう。







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