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真夏のイタズラ


※要するによくある軽率な話です。真剣な気持ちで読まないでください。


虫が嫌いだ。特に昆虫。行先も明言せずに飛ばないで欲しい、怖い。
どれくらい怖くて、どれくらい嫌いかというと、泣くくらい。泣いて殺虫剤をところ構わずぶっぱなすくらい。

昨年は洗濯物に室内についてきたカメムシで大騒ぎして、とはいえ一人暮らしゆえに自分でどうにかする他なく…。キッチンの窓にとまったところへ、泣きながら殺虫剤を数十秒撒き散らしたりしたものだ。
パクチー臭かった。パクチーは、おいしいのに。カメムシは、ネタ的にもひとつもおいしくなどない。
そう思いながら窓枠の中で死にきらないカメムシを、ちょうど沸かしていたポットの熱湯で外へ流してトドメを指すくらいには殺気立っていた。カメムシに罪はない。私の洗濯物に止まったこと、そして叩いてから取り込んでいるにも関わらずついてきてしまったこと、私が虫を嫌いだったこと、そう、全てはイタズラな運命が君を殺す悲しい結末を呼んだんだ。


そんな私が今朝から対峙したのは、シンクにいた黒い、小指の爪より少し小さい虫。3匹。

3匹。
(虫の数え方って匹だっけ?)

動きは活発に見えないものの、ふるふると少しだけ震えて見える。それが3匹もいる。シンクではあるがいきなり水をかけて飛ばれでもした日には気がおかしくなりそうだ。
当然例のごとく殺虫剤を手にする。
吹き付けてみて様子を見る。また吹きかける。こうされると普通は声のない断末魔の動きを見せるのだが何もしない。
効果のなさに恐怖が高まりもうひと吹きする。

それから、あまりに動かないため水を流してみる。排水口のゴミ受けの方へなんの抵抗もなく流れていく。

不思議な虫だ、と引きながらも、度のあっていない眼鏡のブリッジに指を添えてよく見る。よくよく見る。

………………。

わからない。黒い虫。それしかわからん。

相手が動かないことに賭けてコンタクトを早急につける。その間にもそいつらはちっとも動いていなかった。そしてまたよく見る。

…………。

…………………………。

ここでようやく気づく。

あ〜。そら、うん、そうね、そら動かないわ。

これスイカの種ですわ。さっき食べたもん朝ごはんにスイカ。昨日のスイカの残り食べた。

我ながら呆れる。

度の合ってない眼鏡、起動したばかりの脳、昨日も深夜に長々と玄関前で鳴き続けるセミに脅えて眠り最大限に高まった虫への恐怖心。そこへ水で濡れたシンクで少し滑る真っ黒な種が現れたわけだ。虫の羽を震わしている様にも見えよう。みえるだろう、見えたんです。

つまるところなんてことはない、私は貴重な殺虫剤を多分に無駄にしたのだ。

私は2度目のパニックを避けるためにゴミ受けの中身を袋に入れて、小バエのこないよう袋を直ぐに閉じ、自らを落ち着かせるようにこの文をうるさい心臓のままに書き殴った。さあこれからテレワークです。

それだけ。

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