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虚無とこの世界のはざまに

きつねが来ると匂いで分かります。」

「え?狐ってキツネ!?たぬきじゃなくて狐なの??その狐って見える狐?」

私は目の前の相手に無作法に質問した。

「んー、見える?見えない、、、匂いで来たのが分かります。その狐とずっと喋ってた。匂いで分かりますから。」

唐突に始まったその告白に私は気持ちが高揚し、その世界の作法に相応しい周波数に合わせようと集中力を高めた。さすがは子どもたち。いつもと変わりなくリラックスしてワガママだった。

視覚で捉えることのできない不確かな存在も同様に大切に扱うことを私は子どもたちから徹底的に教育を受けた。言葉を持つ以前の乳児期からはじまったため、それはそれは容赦ない日々。おかげさまで今は嘘偽り無く「わかるわかる!」と言える自分がいる。
(狐の匂いは分からない。狸の匂いは分かる。いや狸の排泄物の臭いか。)

先週金曜日のこと。
幼い頃の貴重な記憶を話し始めた目の前に座るゲストの宇宙人さんは、土鍋でゆっくりと炊いた我が家の新米を「おいしい!すごくおいしい!」と言いながら頬張って食べてくれた。米が旨いのか食卓を楽しく囲んだことで美味しく感じるのかどうかは分からない。
宇宙人さんはテーブルを前に「礼儀作法が分からなくて、、、」と呟いたが、お互い様だと思う。

地球外生命体が訪問してきた時のための“おもてなしレシピ集”など存在しないので、私は貧相な想像力を精一杯働かせイメージトレーニングを繰り返し、なんとなくいつも通りの植物性と自然素材でもてなすことにした。功を奏し、喜んでもらえた(ように思う。)

宇宙人さんは食後から「んっん~♪♪♪」と一定のリズムでハミングを歌いはじめた。その歌はサヨナラをする時までずっと続き、そのハミングの片手間で私や娘たちと話している様子。このハミングには不思議で奇妙な効果を感じ、そこには妖精たちもいたんじゃないかと思う。

次女すうが故郷の星について矢継ぎ早にあれこれと質問した。家族は?友達は?食べ物は?太陽は?

太陽は存在しないのか、光が届かないのかは分からないけれど、真っ暗闇の世界にも輝きがあることを丁寧に教えてくれた。海の中で暮らしていたかもしれないという記憶から、すうは「深海っぽいよね。」と空想を膨らませる。

それぞれ自らがクリスタルの様に煌めき、周囲を照らしていて、

言葉を発するとその言葉たちがシャボン玉に包み込まれるようにして宙に浮き漂い、汚い言葉を発すると汚物がその辺を漂うことになるので皆美しい言葉しか発さず、

時間が存在しないから100年でも眠っていられ、

王さまを讃える歌をみんな歌い続け、

王さまが星のすべてを愛で満たしてくれ、

もちろん戦など存在しない。



故郷の星の美しさに胸が締めつけられ涙がこぼれた。「この話、ママ弱いんだよねー。」と隣にいたすうに言うと、小馬鹿にしたようにケラケラと笑われた。

故郷の星に帰ることができなくなり、この地球上で迷子になりかけていた宇宙人さんになんと声をかけて良いのだろうかと考える間もなく「大丈夫、もう大丈夫だから。」と出たが、地球時間で表現すると何年か経過しないとそれは分からない。

なぜ記憶を持ったまま地球に降りて来たんだろう。なぜこんなにも高い知能を持ってるんだろう。なぜ雄弁なんだろう。私たちを蔑視することも拒絶することもなく多くのことをサラサラと迷わず語ってくれた。


長女りんが赤ちゃんの頃ひどい食物アレルギーでそれを治す為に始めた発酵食の学びの途中で、この世のフラクタル構造と出逢いエーテル体の理解も進んだと話すと、ふむふむと聞いてくれる。私が何を話しても瞬時に記憶保管庫から情報を取り出し、経験して知っている知識をテンポ良く発信する。

「こんな天才奇才出逢ったこと無い。」と言うと「はい。」と答える宇宙人さん。

その後も魔法少女の武器のステッキになった話、時空の歪んだ話、新婚生活の話、内職のキノコ栽培の話、、、転生とアストラルトラベルで体験したアツい話が止めどなく溢れ出る。あーAIのことも聞くの忘れたな~。

(私の人生には定期的に“キノコ栽培”が登場する。なんだろ?特にキノコに強い興味があるというわけでもない。)


「それって地球でのこと?それとも故郷の星でのこと?」という確認が何度も交わされ、これはきっと2人だけの空間だと地球(日本)語会話にスレ違いが生じて辻褄が合わなくなるだろうから、地球上では通訳のような人間、潤滑油が欠かせない。


あっという間にお別れの時刻となった。
宇宙人さんにとって想念ではなく肉体を持って移動することは過酷そのものだ。飛べないし浮けないし、人工物に圧迫され、長時間人間の中に溶け込まなくてはならないので、ひどく体力消耗しただろう。
我が家に降り立ってくれて本当にありがとう。細く長くよろしくお願いします。




宇宙人さんは「人間、薄い皮膚の下なんて皆おぞましい姿なのに。」と度々口にし性別を超越した存在なので、三人称を彼、彼女と書かずに“宇宙人さん”としました。


お別れした後、頭がボーッとした。普段使っていない脳神経が急激に活性化したからだろうか。一気に眠気が押し寄せてきた。

そして宇宙人さんは、どうやら魔法をかけてくれたようで、家族全員の機嫌が最高に良く、家事がサクサク片付いていく。夜こっそりと次女すうからラブレターをもらい、末娘のつーちゃんは生まれて初めて「ママーマーマーママー」とことばを発し抱きついてきた。かっかっかかわいい。




そして昨日、図書館へ行くと、一番最初に目につく正面の陳列棚に、パラレルワールドの話やこの世の不思議が書かれた本が沢山集められていた。


本を手に取り一人頷く。


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