見出し画像

映画『月』(10/15鑑賞)

いくども鋭いナイフを突き立てられるような衝撃を受けた。
森の奥にある重度障害者施設で働き始めた、元作家の洋子。職員による虐待を施設長に話しても、聞く耳を持たれない。やがて、ある職員が“世のため”におぞましい計画を立てていることを知る。

実際の傷害事件を題材にした小説がベースだけれど、その真実に迫るものとは違う。第三者でいさせてくれないんです。
自分も“さとくん”になり得たかもしれない、入所者の可能性もあったかもしれないと感じ、観客席でスクリーンを眺めることの他人事感に居心地の悪さを、罪悪感を覚えていくんです。

たびたび登場するのが、これが現実だという言葉。そこには隠蔽された不都合な事実が、目を背けられてきた問題がある。綺麗事に覆われた本音も。
“さとくん”に反論しようとするほどに、自身の浅ましさや狡さを突きつけられ、脆く崩れていくような感覚がありました。
けれど彼を異常者だと突き放すのは、意思疎通の行えない入所者は心がない=人ではないからと殺そうとした彼と何が違うのだろうとも思った。一方的な線引きで排除してしまうのだから。

作中でいくつも線引きがされ、違和感を覚えるたび、別物と思いたいものが実は近い存在ではないかと思わされる。ある人物が別の人物に己を投影する場面がしばしば登場するけれど、観客のわたしもまた、彼らに自分を見てしまうことがあった。

洋子と夫が子について下そうとした決断は何だっただろう。“さとくん”にならないために、或いは“さとくん”が現れずに済むように、どうすればいいか。
観終わってなお、考え続けている。


パンフレットはA5判90ページ強あって、監督や主要キャストへのインタビュー、プロダクションノート、コラムにレビューと非常に読み応えある内容でおすすめです。
それに、シンプルな装丁が月の浮かぶ夜空そのもので、なんとも美しい。

夜空は紙そのものの持ち味を活かした表現


映画「月」予告編

この記事が参加している募集

映画感想文