破滅の刑死者2

★吹井賢『 破滅の刑死者2 内閣情報調査室CIRO-S第四班 』(メディアワークス文庫)

(※2019.10.29 珠子に関する部分を加筆しました)

1巻発売から5ヶ月、『破滅の刑死者』待望の2巻です!

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今回、CIRO-Sの一員となったトウヤと珠子が調査に当たるのは、とある大学で起きた連続不審死事件です。数ヶ月のうちに同じ教室で三人の学生が命を落とした上、彼らに繋がりは見出せず、死因や状況にも不可解な点が。
犯人が能力者の可能性もあるこの案件は、トウヤと珠子にとっては試験の意味合いもあります。ふたりの力量を見定めるための。

1巻では、戻橋トウヤの持つ能力・代償は何か?が伏せられたまま進行し、物語の鍵にもなっていました。読者の驚きを大きく誘った要素でもあったと思います。
けれど2巻、もう読者は知っています。だから彼の能力・代償がどう扱われ、いかに物語と絡んでゆくのか?は興味深いポイントでした。
この能力にはひとつ有効な活用方法があり、実際トウヤも駆使しています。でも他の使い道が見出される場面もあれば、思わぬ穴があることも。そうして様々な面を見せられてゆく展開には、随分と楽しまされました。

また、1巻は倒すべき相手が明確であり、ある程度は道筋も見えていました。トウヤは事前に準備をして勝負に臨んでいた。仕込み、仕掛けを済ませ、自らが用意した舞台に相手を招いていたわけです。
もちろん何もかも思い通りとはいかないものの、そこも含めて策を練る。
しかし2巻はまず犯人がわからない。3件の不審死に関連があるかも不明。加えて調査をするトウヤや珠子に接触し、あるいは襲撃してくる、正体の知れない人物たち。充分な準備も対策もできるはずはなく、その場その場で考え、対応することを迫られる。
そう、今回はトウヤたちが相手の用意した舞台に招かれる側。

そして、2巻でそうしたことが起こるのは大学や街中。一般の人もいる空間。暴力団事務所や裏カジノといった場所で行われていた1巻とは違う印象を抱きました。

こうして見てみると、2巻は1巻とは趣が異なるのだな、と感じます。
けれども息を呑むような駆け引きに探り合い、意表を突く展開に、手に汗握る緊迫した場面などは変わらず健在。

2巻でもっとも印象的だったのは珠子です。
先に述べたとおり、勝負の舞台を用意するのは相手側。主導権はあちらにある。だから珠子も前回のように、トウヤの策を聞いて与えられた役割をこなせばよい、というわけにはいきません。何かが起きたときにトウヤが傍にいない状況も、連絡がつかない場合もあり得るわけで、そうなれば一人で考え、判断し、行動しなければならない。
戦闘に関して数ヶ月の訓練を受けたとはいえ経験不足は否めず、かつては病院暮らしの身。素直で善良で信じやすく、相手の策や噓、本質を見抜く力に乏しい点は、情報機関という特殊な場で働く上では致命的ですらあります。

そんな珠子が、そのとき自分にできる精一杯で直面した事態に立ち向かう。信念を胸に、答えを導き出し、行動を選び取っていく。合理的な判断ではないかもしれない、甘い部分もあるでしょう。けれども彼女の姿に、わたしは痺れてしまった。
かつて上司を盲目的に信じて疑いもせず、真実を明かされ選択を迫られたときに狼狽していた姿を思うと、たしかに踏み出せていると感じて。

そして、そういう珠子にトウヤが何を思い、どんな言葉をかけるのか。それもまた、強く惹きつけられた要素なんです。トウヤが珠子の前で見せる雰囲気のやわらかさが、1巻のころから好きで好きで。
トウヤと珠子は本当にお気に入りのコンビなので、これからも見守っていきたいですね。

2巻になって新たなキャラクターたちも加わり、相関図も多様化してきました。Cファイルに関しても明らかになった部分がある。錯綜する思惑、それぞれの組織や人物が見せる動向……今後がますます気になるところです。

★3巻の感想はこちら
・『破滅の刑死者3 特務捜査CIRO-S 死線の到達点』