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【クリスマスの珍事件】母親から直に「サンタはいない」と告白された小学生のお話

たしかあれは、小学4年生か、5年生くらいだったと思う。

12月はじめ、母はわたしを呼び出すと、真剣な顔で言った。

「もう知っとると思うけど、サンタの正体はお父さんとお母さんなんよ」

突然のカミングアウト。衝撃だった。
サンタの正体が両親だったことにショックを受けたわけじゃない。
母親から直接「サンタはいない」とカミングアウトされたこと、そして親から「あの子はサンタのことは信じてないだろう」と確信されていたことがショックだった。
あとから聞いたところによると、私は子どもの頃から現実的なところがあったし、「犬をください」やら結構無茶なプレゼントを要求するようになってきたから、もう話しておこうと思ったらしい。
ちなみに兄には面と向かってサンタの正体を告げたことはないそうだ。繊細なところがあったから、とかそんな理由だった気がするが、とにかく私は大丈夫だと思われたのだろう。

母が私に突然カミングアウトしたのには、理由があった。
私には、2歳下の妹がいる。3人兄妹の末っ子で、両親は妹に甘かった。
その妹が最近サンタの正体を疑い始め、実在するかどうか確かめるためにプレゼントに欲しいものをひた隠しにしているらしい。
さりげなく妹の欲しいものを探って教えてくれないか。それが母の行動の理由だった。

ショックを受けたあと、私はすぐに立ち直って、この企みに乗ることにした。
小学生にしてサンタ側になるとは思わなかったが、それも特別な感じがして面白いと思った。
妹にさりげなくサンタの話をし、欲しい物を聞き出して母に伝えた。
サンタから望んだ物が届いて喜ぶ妹。ミッションが成功したことに誇らしい気持ちになった。

そういうことを数年続けたが、ある年に事件が起こった。

我が家ではサンタさんのプレゼントと両親のプレゼントは別の扱いで、毎年2つプレゼントをもらっていた。
その年、妹が「早くゲームで遊びたい」とクリスマスより数日はやくプレゼントをくれるようにとねだった。
サンタさんは24日の夜まで来ないが、両親であれば繰り上げてプレゼントがもらえる。そう考えたらしい。

両親も承諾し、父は書斎から持ってきた小包を妹に渡した。

さっそく包みを開いた妹が「え?」と固まったとき、家族の空気も固まった。

妹の手にあるのは、サンタさんからもらうはずだったプレゼント。
よく似ているものを頼んだせいか、父がうっかり渡し間違えてしまったようだった。

当時、妹は小学校6年生か、中1くらい。それでもまだサンタを信じていたようで、ショックを受けたのかそのまま泣き始めた。そんな妹を父は苦笑を浮かべて見ていた。
母は父のヘマに呆れたのか庇おうとしたのか分からないが、呆れたように「サンタさんなんて信じる年でもないじゃろ!」と妹を叱り飛ばした。

私はといえば、これまでの努力が水の泡だ…と別の意味でショックを受けていた。
それと同時に、姉とは逆に純真無垢に育てられてきた妹を少し羨ましく感じた。

この事件は、今でもたびたびクリスマスの珍事件として話題にのぼる。
父のミスは、今では「笑える思い出話」として家族をつないでいるのだ。

あの出来事から数十年経ち、私には娘が2人生まれ、本当にサンタ側の立場になった。
そうなってみると、父や母が妹の夢を壊さないようにと願った気持ちがよくわかる。
数日前から胸躍らせ、クリスマスの朝にリビングに置かれたプレゼントを見て大喜びする娘たち。
親として、これ以上幸せな瞬間はないかもしれない。
きっと両親も、今の私と同じような気持ちだったんだろう。

うちではサンタは複数いて、ママとパパが我が家の担当サンタとネットでやりとりしているが、顔は見たことがないということになっている。
もしかしたら今後、ポロッと失言したり、父のようなうっかりミスで、子どもたちにショックを与えてしまうこともあるかもしれない。
でもそれもいつか、我が家の思い出のひとつになっていくんだろう。

そう思えば、サンタ業も少し気楽になりそうだ。



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