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パリはなぜ映画天国なのか

パリではシネマテーク・フランセーズという映画館に通うことが多いのだが、ここはabonné(e)(定期会員)といって、最初に15000円くらい払うと、一年間何を観ても、一切タダである。もちろん都度チケットを買う人もいて、890円である。シネマテークはロードショーではなく、特集上映のオンパレード。シネフィル(映画ファン)には、まさに天国である。そしてなにより、コンサートホールみたいな会場が、結構いつもいっぱいになっているのに、驚く。

ロンドンのフランス語の先生は、シネフィルである。先生はこの人だけではないのだが、最近いつもかれである。80年代に大学生だったこの先生は、シネフィル最後の世代であるという。この話はパリの先生に聞いたのだが、ふたりは同世代だと思う。

当時の学生にとって、映画館はとても安い値段で入れたので、かれは週に5回くらい、映画館に行っていた。ソルボンヌのそばに、Gilbert Josephという学術書の本屋があり、映画(館)通りもあるのだが、かれはその近くのアパートに住んでいて、映画館まで徒歩15分くらいだった。つまり、家に帰ってテレビをつけるような感覚で、映画館で映画を観ていた、という。映画館では、過去の名画もたくさん、普通に上映されていた。

週5本というのは、年に200本である。じつはわたしも観ていたりするが、わたしは全部映画館で観るわけではない。特にパリではほとんど映画館なので、こちらへ来てから、その率はかなり高くなってはいる。

80年代のフランスといえば、歴代大統領二番人気を誇る、社会党のフランソワ・ミッテランの時代である。ときの文化大臣ジャック・ラングは、「文化民主主義」の名のもとに、国家をあげて芸術文化振興につとめたことで、有名だ。ジャズ、ロック、マンガ、ファッションなども、文化省の管轄として、受け入れた。まさに国家に保護された文化の恩恵を浴びるように受けて、学生時代を過ごしたわけである。

こういう環境で育っていれば、人々は芸術文化に、普通になじんでいくようになる。映画館でもかれらはしょっちゅう笑い、映画に活発に反応する。こうして個性が伸長していく文化はやはり、うらやましい。

この先生はソルボンヌで外国語教授法を修士課程まで終了したというのだが、教え方はまったくそういう感じ、つまり「外国語教授法」的な感じではない。レッスンはたいてい、かれが映画、文学、文化についてしゃべりまくるのを聞いていると、終わる。わたしももちろん、しゃべるのだが。

フランス人にはこういう、話好きで、個性的な人が多いような気がする。そのことと、フランスが芸術文化大国であることは、表裏一体なのだろう。テキストを追っていくようなレッスンだと、終了時刻にはすでにコートを着込んだりしている(これは別の先生)が、文化や芸術について意見を言い合うようなレッスンだと、時間が過ぎても延々としゃべっていたりする。雑誌の映画記事をコピーして、テキストに持ってきてくれるのだが、おしゃべりが長いので、その内容や語彙をチェックする時間もない。

かれが近所に住んでいたというGilbert Josephという本屋で、先日四国巡礼の本を見た。一緒にいた同僚は、こういうのやるのはだいたいフランス人なんですよ、という。外国人の日本好きといえば、昔は黒澤の映画、今はアニメ好きが多いと思うのだが、四国巡礼とは、これはまたシブい。

(Leslie AnnelieseによるPixabayからの画像) 


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