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「役割」で人生が前に進んでいく

WAKKA NEWS LETTER 2024.2

デザインの仕事をしていると、「世の中にはもっと上手いデザイナーがたくさん居るのに、私がやる意味ってあるんだろうか」と考えてしまう瞬間が何度も訪れる。だけど、このQuoraというQ&Aサイトの回答をたまたま読んで、昔年のクヨクヨが見事に成仏されてしまった。

僕より上手いベーシストは掃いて捨てるほどいますが、どんなに上手なプレイヤーも、演奏をしなければ価値が出せません。

今夜このバンドでお客さんを楽しませられるのは、僕しかいません。上手いあの人も、同時にあちこちで演奏できるわけではないのです。

「今この場にいる」それが自分の最大の価値だと考えることにしています。それは他の誰にも物理的にできないことだからです。

私は地元の北海道に戻ってきてから、この土地、この瞬間、そして人との関わりの中で自分の役割が形成されてきた、という実感がすごくある。小野寺さんにお願いしたい、という依頼に応えていくことで、キャリアができあがってきた。先に到達したいビジョンがあるのではなく、役割を与えられることによって人生が前に進んできたという感覚だ。

だからこそ、役割は「環境」が作り出しているのではないか、とも思うようになった。「個人の能力」だと思っているものは、実はその人の持ち物ではなく、環境が作り出しているのではないか。社会から要請されて、たまたまその人がその「役割」を与えられているだけなのではないだろうか。

だから、誰かが何かで成功しているように見えても、それはその人の役割を全うしただけであって、自分には果たすべき自分の役割がある。
そう思うことで誰かを羨むことなく、僻むことなく、健全な気持ちでデザインと向き合えるようになった。

そもそも私は新卒で入社した会社がホームページ作成ソフトを作っているソフトウェア開発会社で、グラフィックデザインをやるつもりがウェブデザイナーとしてキャリアが始まってしまった。それから18年、様々な制作会社を渡り歩きながらウェブデザイナーとしてキャリアを積んできた。

だけど、北海道にUターンしてきて、気に入って移住した浦河町というまちで独立開業したとき、想像もしなかったような、本当に様々なデザインの依頼を受けることになって、何でもやることになった。

町制100周年ロゴ、観光施設の看板、観光マップ、包装紙、商品パッケージ、ノベルティ、店舗の空間デザイン、地元の小学生へのデザイン授業etc…

浦河町のホテル「うらかわ優駿ビレッジ AERU」の馬の看板。カラトンという馬をモデルにイラストを描いてデザインもしました。

浦河町がある北海道日高エリアは馬産地なので、打ち合わせ場所が馬の牧場のすぐ隣だったときは驚いた。東京で仕事をしていたときとは全く違う環境で、新鮮で刺激的なことの連続だった。

「HIDAKAおもてなし部会」の例会を馬の牧場で行ったときの写真。ザ・日高。

本やページ数が多い冊子のデザインもこれまではほぼ未経験だったものの、依頼されることが多くなった。
保護猫のボランティア団体さんから依頼を受けて保護猫のリトルプレスを作ったときは、InDesignの使い方を覚えるところから始めて、印刷会社はネットで調べて評判のよかった長野の藤原印刷さんにお願いして、色校のやりとりを遠隔で進めて、形になったときの達成感はすさまじかった。これまで経験したことのないジャンルのデザインで「役に立った」という体験が、確実に自分の血肉になっていったと思う。ウェブとは勝手が違うけど、誌面のデザインは本当に楽しくて、時間を忘れるほどだった。

リトルプレス「それでも、命をあきらめない 上あごを失った保護猫サンちゃんが伝えたいこと」

ロゴのデザインも、独立してからたくさん手掛けるようになった。これまでのキャリアの中ではあまりロゴを作る機会を得られなかったけど、今ではコンスタントにロゴの作成依頼をいただくようになった。

これまで作成させてもらったロゴの一例

先月、noteを書いてFacebookで共有したとき、中学校時代の同級生がこんなコメントをくれた。

こんなコメントを貰えるとは全く思っておらず、びっくりしてしまった。そう、私は昔から時間さえあれば絵を描いたり、何かを作ることが好きだった。先生からは「内向的」「もっと活発になりましょう」と通信簿に書かれることが多かったけど、一人の世界に没頭して何かを作っているときが一番満たされた。美術の学生時代もとにかくなんでも作っていた。駆け出しのウェブデザイナーだったころも、HTMLもcgiも書いたし、撮影もしたし取材して原稿も書いたし、イラストも描いたし、なんでもやっていたな、ということを思い起こす。

ウェブデザイナーとしてキャリアが長くなってから、大きい会社に転職して手掛ける案件も大規模化して、分業化が進んで自分の範囲でできるデザインしかしなくなっていたのかもしれないな、と思った。当時はそんな自分カッコいい、と思っていたけど、今思うと自分で自分の可能性を狭めていたんじゃないだろうか、という気がする。

北海道で独立してからはお客さんからどんな球が飛んでくるかわからないから、いろんな球を打ち返せるようになった。可能性が拡がったし、役割が、自分を作ってくれた。

だから、今年のテーマは「可能性を拡げる」にすることにした。歳をとると可能性がどんどん減っていくと言うけど、本当にそうなんだろうか。できない、と思い込んでいるだけのこともあるんじゃないか?だから、今年は自分で自分のできることを狭めず、とにかく初心に戻ってなんでもやってみる一年にしようと思う。

不思議なことに、そう決めてから文章を書くお仕事を2件いただいた。プロのように立派な文章は書けないけど、自分がいいと思ったものを、自分の言葉や文章で人に伝えるのが好きだ。これも何かの縁なのかと不思議な気持ちがしている。

昨年はうまくいかないことが多く、今年は心機一転がんばる、と決めてから、デザインが本当に楽しい。それは改めて自分の「役割」を見つめ直したからなのかもしれない。また、役割で人生が前に進みそうな予感がしている。

【Works】
ラベルデザインを手掛けた北海道釧路の酒蔵、福司酒造さんのセカンドブランド「五色彩雲(ごしきのくも)」のブランドサイトを制作しました。


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