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星野立子句集『レクイエム』(星野椿編)


2年前の夏、鎌倉にある虚子立子記念館に行きました。とても素敵なところでした。

入館するなり、初老の男性の案内員さんが麦茶を運んできてくれました。麦茶をごちそうになったあとも、館内を巡りながら案内員さんは丁寧に展示物について説明してくれました。

「この句いかがですか?」「どうしてこの絵画はこうなっていると思いますか?」「この写真のこれは一体何だと思いますか?」と案内員さんがたくさん問いかけをしてきました。

俳句をやっている身としては、きらりと光る解答をしなければと思って意気込んでいたのですが、ことごとく見当違いの答えだったようです。

「昃(ひかげ)れば春水の心あともどり」の句の掛け軸の前で、「どんなに文学に詳しい偉い人でも、この句の解説を求められるとみな口ごもってしまう。この句の力は計り知れない。」と案内員さんが力説していました。この句は忘れがたい句になりました。

さてこちらの記念館で購入した句集『星野立子句集 レクイエム(星野椿編)』から特に好きだった句を。


元旦やいつもの道を母の家

初夢と話しゐる間に忘れけり

水仙の花のうしろの蕾かな

三時までまだ十五分日向ぼこ

寒き夜や虚子まづ飲めば皆酔へり

一月の日射し机に椅子にまで

送らるる節分の夜のよき車

内よりも外が暖か梅の花

下萌えぬ人間それに従ひぬ

口ごたへすまじと思ふ木瓜の花

雛飾りつゝふと命惜しきかな

涼風によき計画の又生れ

皆が見る私の和服パリ薄暑

草笛の子や吾を見て又吹ける

漁師等にかこまれて鱚買ひにけり

夕日いま高き実梅に当るなり

竹林の奥の日向を梅雨の蝶

のしかゝる如き暑さに立ち向ふ

百合活けてあまりに似合ふ瓶怖はし

端居してすぐに馴染むやおないどし

蓋あけし如く極暑の来りけり

いつの間にがらりと涼しチヨコレート

雲の峰人間小さく働ける

トランプの独り占ひ稲光

桃食うて煙草を吸うて一人旅

秋晴や神を信ずる心ふと

秋晴に我焦げてをる匂ひする

年寄りし姉妹となりぬ菊枕

君煙草口になきとき息白し

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