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微笑みの国のビックマザー

タイの女性と結婚した友人がいる。そいつは、大学を卒業するとチャリンコで世界一周を敢行した冒険王。10年ぶりに帰国すると、傍らにタイ人の妻がいたってわけ。

二人は利根川のほとりの廃屋をタダ同然で借り受け暮らし始めた。広大な庭に鶏を放し飼いし、野菜を栽培した。僕らが遊びに行くと、鶏をしめてうまいタイ料理をごちそうしてくれた。しめたての鳥はうまいねえと食ってると、崩れ落ちた床下から昨日密入国したばかりのタイ人が出てきたり、かなりサプライズな家なんである。

子供は娘が3人。上の子が小学校にあがると、深刻ないじめを受けた。タイとのミックスという境遇が田舎のクソガキを刺激したらしい。それを聞いた母は、大地を揺らして怒った。朝、いじめっ子のボスを待ち伏せすると、有無を言わせずチョークスリーパーでしめ落とした。「鶏より手応えないよ」とタイなまりの早口で勝利インタビュー。素敵なビッグマザーである。

ところが、しめ落とされた子供の父親が黙っちゃいない。ひたいに青筋ビンビン、脳溢血寸前の荒くれ模様で友人の家に抗議の来訪。その時、友人の家では密入国成功祝賀パーティの真っ最中であった。呆然と土間に立ちつくすいじめっ子のおやじ。そこへ、事情を知らないタイ人たちが「いっしょに飲もよー」とおやじに群がる。

おやじは「私はそんなつもりでは」と毅然。しかし、日本上陸幸せモード全開のタイ人たちは超友好ムードで、ひたすら笑顔笑顔。フィニッシュは、来日半年にして地元のタイパブNo1に上りつめたリエ(通称)ちゃんだ。日本で修得した接待おやじ殺しスペシャルを惜し気もなく繰り出す。ほどなくして、おやじ落ちる。「実はタイパブ好きなんですよねえ」と完全にノックアウト状態である。

そこへ友人が歩み寄りおやじに言った。「うちの娘をいじめないでください」。静かだが、張りのある澄んだ声音。見事なKO勝ちであった。

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