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GLOBIS知見録 編集部の乱読帳 11月

GLOBIS知見録のテキスト編集チームの3人(冬の乾燥と格闘している小栗、愛犬へのクリスマスプレゼントを思案中の長田、大学院で修行中の吉峰)が手に取った本をご紹介する企画。ビジネス書のほか、文学や評論など、ジャンルフリーで挙げていきます。

北日本では雪の頼りが届き、コタツに入って読書に没頭したい今日この頃。今回、メンバーがおすすめする作品はなんでしょうか。

今回の3冊

『「うまい!」の科学 データでわかるおいしさの真実』髙橋貴洋

(小栗推薦)

「唐揚げにレモンはかける派? かけない派?」。あなたはどちらだろう。

かける派にも理由がある。「うま味」はpHの値からして中性付近で最も感じられるのだが、レモンをかけると唐揚げは酸性になる。よって肉の強いうま味が控えめになり口に入れやすくなるが、それだけではない。その後、口内のpHは中性の唾液と咀嚼されることによって酸性から中性へと変わる。これが「だんだんとうま味が強まる」感覚となるため、味わいに緩急が付き、より「おいしい」を感じることができるらしい。

本書は「なぜおいしく感じるのか?」を、上記の唐揚げのほかチェーン店やコンビニに置かれた実在の商品を例に挙げつつ、科学的に解説した本だ。それぞれの「おいしい」理由を、私たちが持つ味覚の嗜好性の傾向(概ね6タイプに分かれるそうだ)のどれに合致するかを交えて平易に書いている。自分が好きな食品/そうでない食品、と考えながら読み進めることができ、とっつきやすい。

最近はフードテックが盛り上がっているが、類するものとして例えばシェフ・ワトソンというアプリがある。IBMのAI「ワトソン」を活用して様々な料理を提案するアプリだ。斬新を通り越した「突飛な」提案も出てくるのだが、分析してみると実は膨大なレシピや食材の成分、そしてその評価といったビッグデータから導き出された、科学的に「おいしい」、理にかなった提案をしているらしい。

普段なんとなく感じている「おいしい」に科学の面から触れてみると、日々の食事に新たな観点がうまれる楽しみがある。加えてもしかしたら、フードテックという潮流の裏側を考えたり、新たな広がりを予想したりするヒントになるかもしれない。香りや味覚、それらの相性などを化学式や数値で表せることは、知ってはいるものの、いざ詳しく知ろうとすると身近すぎるテーマだからか、小難しく思える本も多い気がする。まずはこの本から始めるのはいかがだろうか。

『お金の日本史 近現代編』井沢元彦

(長田推薦)

作家の井沢元彦氏による夕刊紙での連載をまとめたものであり、平易で軽快な語り口が心地よい。著者の歴史観に同意できない読者もなかにはいるかもしれないが、「政治が先で経済が後」ではなく「経済や文化が政治を動かす」という視点は、受け容れやすいものだと個人的に思う。

本書は昭和の高度経済成長までを論じたものであるが、平成、令和に至り、金融のパワーはさらに強まった。足元では世界全体に物価上昇圧力が掛かっている。経済指標を見る限り、日本の物価の伸びは海外に比べると全くインフレ的な感じはない。とはいえ日常生活をするうえで、この商品は値段が上がったな、と感じることは多い。

「物価」に関連する人物のひとりとして、本書では日本銀行の創設者で、大蔵卿(現在の財務大臣)や第4代、第6代内閣総理大臣を歴任した松方正義が紹介されている。大日本帝国の財政を安定させた「松方デフレ」で知られているが、コメの価格は下落し、田畑を売って小作人となる農民が増加した。農民の困窮は、二・二六事件で青年将校が決起する原因のひとつとなる。

日本では伝統的に、元禄バブルなどのインフレ政策への評価が極端に低く、「財政健全化」「実質的なデフレ」に対する評価は異常なまでに高い、と著者は指摘する。江戸時代に景気刺激策に努めた田沼意次の教科書の顔写真が、人相の悪い顔だったように記憶しているのは、私だけではないかもしれない。

松方について著者は「中小農民が没落しないように何らかの手を打つべきだった」と語る。経済的に困窮した人間の増加が、破壊的行為の端緒となりうるのは、歴史が証明している。財布の紐を閉める際、限られたリソースでどう弱者を守るのか。現代日本の私たちにもその難題が突き付けられていると改めて感じた。

『グロービスMBAで教えている プレゼンの技術』

(吉峰推薦)

アップル創業者の故スティーブ・ジョブズ氏、ソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義氏のプレゼンテーションをパッと思い浮かべることができる人も多いのではないか。今や、YouTubeで簡単に一流のプレゼンが視聴できる。おのずとプレゼンを見る目は肥え、退屈なプレゼンは人に届かなくなった。

かといって、一流のプレゼンのジョークのうまさ・映像のカッコよさ・印象的な”間”の取り方などを真似ても上手くいくとは思えない。そうした演出は魅せるためのものであり、一般的なビジネスにおけるプレゼンのニーズとはやや異なる。では、何が必要なのか。

本書では、小菅さんというプレゼン初心者が成長するストーリーに沿って、プレゼンの作成ステップを4つに分解し、解説する。この通りに進めれば基本の方はできそうである。

全体を貫くのはロジックだが、プレゼンでは、相手の認識や立場、そして心情などの「情」も理解しなければ響かない。今、私はグロービス経営大学院で「ビジネス・プレゼンテーション」のクラスを受講しているが、クラスでは毎回、この「情」の奥深さに驚く。相手の立場に立つことがいかに難しいか。「情と理」の合わせ技であるところがプレゼンの難しさであり、面白さだろう。

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いかがでしたでしょうか。みなさんも読書を楽しんでください!
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