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キツネなシッポと遊びましょ、の話エピソード2その②お菓子教室の午後

とりあえず話④を読んで頂ければココの世界観が伝わります。
うっすーい世界観でスイマセン。日々に疲れたそんな時、ぜひどうぞ。

「広瀬クン?…」
背後からボクを呼ぶ声がした。聞き覚えのある声だ。僕の脳内には、突然切なさとか淡さとか色々と詰めこんだ青春のカケラたちが溢れだしてきた。振り返ると、そこには仁美さんの姿があった。僕の高校時代のあこがれの人だ。大人びた表情だが、微笑んだ目は昔のままだった。

慌ててボクは立ち上がると、何とか冷静さを保とうとした。シッポをポンポンと叩いて整えた。子どもたちの頭をなでて、いい感じに母親のもとへ帰そうとした…え、仁美さんの子どもなの!しかも二人も…ということは、最低2回も。そうなんだね、仁美さん!

作者注:表現がやや下品ですが、これは令和以前の作品です。当時の風俗風習をそのままにお楽しみください。

いやもうホントにスイマセン。書いてる僕も恥ずかしい(〃ノωノ)…

「なんかゴメンなさい。子どもたちがなんかしちゃって。どうしたの、そのシッポ?」

仁美さんの表情はやや硬かった。懐かしさよりも、コイツ何?の感情が優ったようだ。街中に突然現れたカンフー俳優的なヨガの行者。しかもなんかシッポまでついているのだ。まあコレが普通の反応なのだろう。そんなことより、2回だ。2回。僕の思い出、憧れの人が2回も。僕の脳内では2回というコトバがぐるぐると駆けめぐっていた。マズイ、またボクの妄想が走りだしてしまう。せめて仁美さんの前でだけは、ボクは普通のいいヒトでいたい。ボクの胸中に、淡く苦い記憶が沸き起こっていた。好きです、ゴメンなさい。ただそれだけの、短いやり取り。でも仁美さんは優しかった。ボクとはずっと笑顔で話してくれてたんだ。ボクは思い出はキレイなままで、そっとしまっておきたかったんだ。

「うん、ちょっとね。それより仁美さん、元気そうだね。もう子供が二人もいるんだ。」
「うん…実はもう一人いるんだ…」
仁美さんは恥ずかしそうにうつむくと、そっとお腹をさすってみせた…
えー、加えてもう1回!計3回!最低3回!しかもつい最近!ボクは頭が白くなりそうだった。

ボクが仁美さんと話している様子をみて、子どもたちがボクを知り合いだと分かったようだ。でもシッポへとにじりよる姿から、残念ながらボクは大人チームの一員ではなく、自分達と同じ子どもの群れのひとりとして認識されたようだ…
ボクは子どもたちが背後に回らないよう上手にいなしながら、両手で子どもたちを抱きかかえていた。今この場でもう一度背後をとられてはいけない。ゴルゴ13のオジ様のように、ボクは仁美さんの前で子どもたちと戯れていた。はた目には幸せそうだが、内心ボクは必死だった。お前ら、なんか顔が仁美さんに似てるぞ、当たり前か。コラ、そっちに行くんじゃない。背後は絶対とらせん…でももう3回も!最低3回!…ボクは仁美さんと久々に淡い交流を楽しんでいたが、一方ボクの脳内世界では複雑な想いが暴君のように暴れていた。

…アンタ、こんなトコで何考えてんのよ。
突然フォースが発動すると、ボクの脳内領域に意識が飛んできた。どうやらパトロール中の女子警官が偶然通りかかったようだ。

…またお前か。何でこんなトコにいるんだ。
…仕事よ仕事。アンタみたいな不審者を取り締まってるんだから。
…誰が不審者だ!善良な市民に向って何てこと言うんだ!
…誰が善良な市民だって?このエロシッポ!昨日だって何してくれてんのよ、変なモン持ち込んで。あの後大変だったんだから!

ボクが女子警官との脳内領域でのやりとりに意識を奪われたわずか数秒を、上の子どもは見逃さなかったようだ。素早くボクの背後に回り込むと、抱きつくようにシッポに飛びついてきた。遅れて下の子もお兄さんに続いた。

多くは、聞かないで欲しい。できれば何も、聞かないで欲しい。

ボクは再び公衆の面前で奇声をあげるヨガの行者に変身した。呆然とボクを見つめる仁美さんの横で、女子警官はひとり顔を赤らめた。

…もう、ホントに逮捕しちゃうからね!

こうしてボクの淡い思い出は、春の桜のようにはかなくも舞い散った。



(イラスト ふうちゃんさん)



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