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【物語】エミナとユラの対話

登場人物(全て架空の名前です)
エミナ:佐藤絵美奈 年齢は28歳で、職業はカウンセラー。旧姓は鈴木。
ユラ:遠藤由羅 エミナと同じく28歳で、サービス業に従事。旧名は由都。

~この物語は全てフィクションです。~

エミナとユラは幼馴染みの友達だ。スモモやブドウの収穫が始まる初秋のある日、ユラはエミナにお話を聞いてほしいと頼み込む。2人は街角のカフェで待ち合わせをした。電灯の光が付き始める夕方はお客さんも少なく、店内に流れるクラシック音楽も相まって落ち着いた雰囲気を醸し出していた。2人はアップルパイと紅茶を注文し、やがて対話が始まった。

ユラ:私ね、小さい頃親に甘えるのが苦手だったの。
エミナ:そうだったのね。でも、どうしてユラは親に甘えられなかったの?
ユラ:小さい頃から、親には良い子って言われて育ったから、親から期待される子どもでいなきゃって思ったの。
エミナ:それって逆に言うと、親に甘えたりわがままを言って、親の期待を裏切ることが怖かったんじゃないかしら。ユラが親を悲しませたくないと思っていたのと、ユラ自身のアイデンティティが揺らぐのを恐れていたのよ。
ユラ:自分では分からなかったけど、エミナの言う通りだわ。気づかせてくれて、ありがとう。
エミナ:それと。。ユラって昔「ユウト」って呼ばれてたけど、どんな気持ちだった?
ユラ:正直に言うと。。。とても辛かったわ。男の子の名前で呼ばれたり、男の子扱いされるのが違和感でしかなかったの。物心ついた時から、お母さんやおばあちゃんのようになることは想像できても、自分がお父さんやおじいちゃんのようになることは考えられなかったわ。だから、私は小さい頃から女の子になるって言ってたし、男の子は異性だと感じてたから、男の子扱いされるのが恥ずかしくて、ストレスになっていたの。
エミナ:話してくれてありがとう。すごく大変だったのね。ちなみに、ユラってその時はどんな風に振舞っていたの?
ユラ:表面上は周りに合わせることが多かったわ。特に小学校の頃はそんな風に考える自分もおかしいのかなって思って、内面も表面上に合わせ
なきゃって思って、男の子たちとよく遊んだわ。カードゲームはついていけなかったけど。。
エミナ:あら、またどうしてそう思ったの?
ユラ:目立ったり、嫌な思いをしたくなかったの。これが本音ね。だから、高校を卒業するまでは、このことを誰にも言わないって心に決めてた
の。もちろん、親にもね。
エミナ:ユラがそんな風に考えていただなんて、全然気づかなかったわ。確かに目立つと嫌がらせとかいじめって起きやすいものね。ユラが目立
ちたくないっていう気持ちはよく分かるわ。

2人は会話にすっかり夢中になっていた。少し湯気が消えつつある紅茶を飲み、アップルパイを食べながら、エミナが再び話し始めた。

エミナ:だけど、ユラって中学1年の時に大きな決断をしたってこの前言ってくれたじゃない。あれ、何だったか教えてくれない?
ユラ:私、小学校の高学年から声変わりでなかなか声が安定しなかったの。周りの男の子たちも声変わりが進んでいる中で、私も声変わりをして男の子として生きるか、それとも自分の心に従って、周りの人に笑われたり、何を言われてもいいから、声変わりをしないように努力して将来は女の子として生きるか、すごく悩んでたの。
エミナ:ユラは後者を選んだのよね。
ユラ:ええ、そうよ。
エミナ:ユラって、目立つのが怖いって言っておきながら、自分の心に従って生きるっていうように、結構大胆な行動ができるのね。
ユラ:私、前者を選んでたら、大人になって後悔するって思ったの。私は悔いのない、納得した人生を歩みたいのよ。
エミナ:自分の心に従って悔いなく生きる。これがユラの大切な価値観なのね。そしたら、ユラにとって周りに合わせるって結構しんどいことだったんじゃない?
ユラ:ええ、そうなの。私、小さい頃から興味関心があることとないことの差が大きくて。例えば音楽や地歴公民では苦労したことが殆どないけ 
ど、図工や数学(特に図形)、技術は苦手だったわ。

ユラは紅茶を一杯飲んだ後、再び話し始めた。

ユラ:思い出すと、小さい頃は折り紙が苦手で、中学校の技術ではクラスで私だけラジオを完成させることができなかったの。体育は陸上は良いけど、球技や水泳で苦労したわ。あと、ダンスも。
エミナ:確かにユラって、楽器も習ってたしリズムや音階を取ったり、暗記学習は得意なイメージだけど、人の動きを見て真似るとか、論理的に筋道立てて考えたり、見本図通りに手を動かすのが苦手よね。

ユラは頷き、エミナは紅茶を一杯飲んだ後、再び話し始めた。

エミナ:だからユラは、想像したり、分類してまとめたり、音で表現することをやった方が良いと思うの。小さい時から想像することが好きで、思いついたものをよく紙に書いてたでしょ。あと、ユラは人から何て言われることが多い?
ユラ:よく言われるのが、癒される、おっとりしている、明るい、優しい、穏やか、安心できる、とかかしら。
エミナ:素敵じゃない、それがユラの強みよ。大丈夫、ユラはこれまで辛いことがいっぱいあったと思うけど、十分素敵よ。素敵な女の子よ。あなたの強みを生かして、これからも生きてね。
ユラ:エミナ、本当にありがとう。あなたと出会えて本当に感謝よ。これからもよろしくね。
エミナ:こちらこそ。

エミナとユラは残りの紅茶とアップルパイを頬張り、他愛のないお話をした
後、お会計を済まし、それぞれ帰路に着くのであった。

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