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転生したら大谷翔平のキンタマだった件

タクロウはSIerにつとめる新卒1年目のシステムエンジニアだ。都内のとある大学の情報学部に入り、特に恋愛もせず、なりたいものもなく、大学での日々を淡々とこなし、とりあえず金が入ればいいと思い、今働いている会社に就職を決めた。

それなりにまともに勉強していたおかげか、入社してからの研修にも楽々とついていき、それなりにいい成績を残していたおかげか、大手銀行の大規模PJの担当システムエンジニアとなれた。しかし非常に忙しい現場であり、毎日毎日誰のために必要かも分からない資料を作らされ、そもそもモチベーション自体が皆無だったものの、日を追う事に会社に行くことが嫌になっていた。

そうして会社に入って1年目が過ぎようとした頃だっただろうか、あるときクライアントと飲み会の帰り道だった。タクロウは若いこともあってか飲み会では盛り上げ役に徹しなければならなかったが、特に口達者でも芸ができるわけでもないのでただひたすら、同席した上司のあいの手に乗りながら酒をたくさん飲んでいた。タクロウ自身人並みに酒は飲めるのもの、既に限界値はきており、飲み会が解散した後はわかりやすい千鳥足になっていた。なんとか駅にたどりつき、駅のホームで帰宅のための電車を待っていた。

そしてホームへと電車がやってきた。

タクロウは朦朧とする意識の中、反対のホームの電車が目に映っていたが、なぜか自分のホームに来た電車だと思い込み、足を一歩出してしまう。タクロウが踏み出した一歩目は空を切り、そのままタクロウはホームへと落ちていった。ホームへと落ちていく中、タクロウは急にそれまで朦朧としていた意識がはっきりとし始め、恐ろしい速度で自分がもうすぐ死んでしまうことを悟った。タクロウは迫り来る電車の明るい光と異常に響く警笛をはっきりと認識しながら心の中で

「つまらない人生だったな」

と一言思い、体にズシリとした衝撃を味わったかと思うと、目の前が真っ暗になって、意識を失った。

「・・・・・・」

「オキロ!オキロ!」

タクロウは聞き慣れない発音だがぼうぅっと耳の奥の方に自分を呼ぶ声が聞こえるのが分かった。

(俺はさっき死んだはずだが?なぜ俺は思考することができる?)

タクロウは思考をするとすぐさまに目を覚まし、あたり一面真っ白な空間に自分が置かれているということを認識した。白い空間はどこまでも終わりがないように見え、タクロウはどこかに隅がないかと目をこらしたが、どこまでも続く白に圧倒されるばかりだった。

「タクロウ!目を覚ましたか!」

タクロウの後ろから何とも言えない美しい声が後ろから響いてきた。

タクロウは驚いてすぐさま振り返りった。すると目の前に大学時代にみかけた文系学部のどの女性よりもかわいい20代くらいの見た目の女性がたっていた。

タクロウは内心どきっとしながらも、言葉をひとつ絞りだした。

「僕はさっき死んでしまったのでは?・・・・」

目の前の女性の美しさに緊張してしまったせいか変な裏声のような声で言ってしまった。するとその女性はにっこり美しい笑顔をみせるとタクロウの頭に手を置いた。

「タクロウ!説明するには時間が惜しい!直接脳に情報を伝えるぞ!」

タクロウは宇宙の始まりから自分が死ぬまでに生まれた現代の技術の知識すべて、目の前の女性がどういう存在なのかという壮大なビジョンを直接脳内に押し込まれた。

「神様、分かりました。どうやらあなたが描いていたシナリオにミスがあって、私が死んでしまったということが分かりました。」

「よろしい!物わかりがよいな!タクロウ!そこでだ、私のシナリオのミスで死んでしまった君に新たな生をあたえる。本当に申し訳なかった。」

「なるほど、いわゆる異世界転生って奴ですね。ああいう小説を読んでみて私もああなれたらなぁと思っていたんです。」

「タクロウ!よかった私を許してくれるってことだな!ただタクロウ!少し違うのは異世界ではない、君がいた世界だ!ただ君はわかっていると思うが、君が生きていた時代のたくさんの知識や技術を君の脳内につっこんである。どんな存在になったとしても活躍していけるだろうよ!」

タクロウは自分の世界にもう一度転生する事実を言われたせいで、内心少ししょんぼりしてしまったが、今ある知識や技術があればいくらでも活躍できるからいいだろう!と少し心が躍っていた。

「分かりました神様、それでは私の転生をお願いします。」

「おおタクロウ!話が早いな!しかしタクロウ一つ忠告しておくと、次の人生ではもう少し楽しめるといいな!それじゃ!」

と陽気な声で神は言うとタクロウのみぞ落ちのあたりに手を置いた後思い切り掌打した。しかしタクロウは不思議と痛みを感じることはなく、なんだか心地の良い光や音に包まれながらゆっくりと目を閉じた。

「・・・・・・・」

光も音もなくなりタクロウは目を覚ました。しかし、なんだか非常に窮屈で真っ暗な空間にいることが分かった。タクロウはよく分からないが何となく目の前に光りの筋がうっすら見えているということだけがわかった。

そして次の瞬間だったタクロウは自分の真下のほうからひどく押されるような揺れを感じた。

「なんだ地震か?」

と一つ声を発しようとしたが何故か声がでない。また自由に手足を動かそうとしても、手を動かす感覚はあるものの、思うように動かない。非常にもどかしい状態が続いた。特に自由に動けないのでどうしようかと静かにしていると、上の方から男の声で「エーイ!」というかけ声のようなものが聞こえてくる。また何度か下の方から大きな揺れを感じた。「エーイ!」というかけ声や下からの揺れ、はたまたその揺れがとまったりを一時間ほど繰り返していたが、急に若い男の軽やかな声が聞こえた。

「おーい!ちょっと俺トイレ行ってくるわ!」

タクロウはなんだなんだと思いながらもまた下の方からゆたゆたと揺れを感じた。そして急に目の前にあるうっすらとした光の筋が急に開かれた。

タクロウはそのとき自分には視覚があることが分かったが、目の前に入ってきた光景に驚嘆した。なんと目の前には男性用の便器が映っていたのである。そして頭の上の方にやんわりとした感触を感じると、勢い良く滝のような水流が現れた。タクロウは頭の方に水流が流れる感触が心地よかったが、それからすぐに非常に嫌な疑念が頭の中に浮かび上がってきた。

「いやもしや?ひょっとすると」

そう思っているうちに頭の上の水流が止まった。

視界は目の前の男性用便器から変わり、大きな鏡の前に来ていた。

そしてその鏡に映った光景に絶句した。鏡には上半身はだかで、少しズボンとパンツをズリ下げた大谷翔平が映っていたのである。

そして思うように動かない手を無理やり動かすと鏡の前で大谷翔平のキンタマがモゾモゾと動いていることが分かった。

疑念は確信に変わった。

「俺は大谷翔平のキンタマに転生したのか?」

そう気づいた瞬間、タクロウは冷静だった。なぜなら神にありとあらゆる知識を詰め込まれたせいで、ある種意識が生前のそれを超えている部分もあったのである。

タクロウは感情を置き去りにした。

しかし自分が大谷翔平のキンタマになったという事実を非常に正確に分析、置かれた現状が分かると、置き去りにした感情が舞い戻ってきた。

「あのくされ神がぁぁぁぁぁ!あいつは俺を大谷翔平のキンタマにしやがったな!畜生!」

タクロウは自分が大谷翔平のキンタマになったことを全世界の誰よりも理解していた。そして高ぶった感情を納めると、次にこれからどうしていくべきかを現代のありとあらゆる知識を巡らせながら考えた。

しかしどんな優れた知識を使っても大谷翔平のキンタマになった事実をどうにかできるような技術や知識は存在しなかった。

「これからどうすりゃいいんだ」

タクロウは途方にくれた。しかし案外不思議なものですぐに活力が戻ってきた。タクロウはさすが大谷翔平くらいになるとキンタマも精力的だなと思いながら、これから大谷翔平のキンタマのままどうして行くべきかありとあらゆる可能性を思考し始めた。

(つづく)

※現実に存在する大谷翔平選手とはいっさい関係はありません。

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