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「答え合わせ」の旅㉓

天国へ

まだまだ未成熟な花たち

ここが、あのキューケンホフ。
長年ガイドブックで見てた場所にとうとう降り立った。
いや寒いな。アムステルダムから少し離れたこの土地が寒いのか、今日という日が寒いのか。
天気予報はピーカン晴れの日さえも毎日雨を示すので見るのをやめてしまっていた。

こんなこともあろうかとマフラーと手袋は持ってきていた。案の定だが、彼らはいまスキポール空港の荷物預け所にいる。
いっつもこうだ。大事なときにそばにいない。
コートの襟を首元までしっかり立て、袖に手を隠した。

語彙力ない言葉で感想を申し上げると、なんてきれいで大きな公園だろう。
マップをゲットしてさぁどこから回ろうか。万博のパビリオンのようにあちらこちらに花のスポットが散らばっている。万博行ったことないんだけどね。

お花であしらわれたキューケンホフの文字
私にとっては防寒所

なんてこった。
私と同じく花も寒さで縮こまってまだ咲いてないのが多いじゃないか。来る時期が早すぎた。うーむ悔しい。
入園直後なのにすでに反省モード。4月だったな。

こんな子達が多い
きれいなMIXチューリップさん
お花でできた世界地図
日本はたぶんイム様に消された
(わからない人はONE PIECE読んでね)

ふぅ。できるだけ室内にいたいが、そんなもったいないこともできない。歩いて温かくなるしかない。
ずんずん歩いた。

あら羊しゃん
あら風車しゃん
あらミッフィーしゃん
これぐらい咲き乱れてる子たちを見たかった
あかしろきいろ以外のチューリップたち
ミッフィー遊具

この国でとても大好きになった花。チューリップ。
私が死ぬときには大量のチューリップを棺に入れてくださいと遺言を残そう。
花言葉は「博愛」「思いやり」。
なんと。私が目指す世界ではないか。
もっともっと博愛と思いやりが咲き乱れてて欲しかったが、その未熟さ残るところも、つぼみの姿も、いまの私とマッチしてるかもしれない。伸び代しかないな。

天国のような風景だった。
私がそこにいけるときもこの風景がいい。
でもやっぱり頭なしチューリップちゃんが多くて寂しかった。私が天国にいくときは咲き乱れた風景であってほしい。

前情報ではこの公園の所要時間は7時間かかるというクチコミを見かけ、「し、しちじかん?!!」とビビったけど、その半分以下の時間で一周できた。
飲食休憩しなければこれくらいで回れます、とクチコミを付け加えたい。

彼女との対話

さて満喫できたところで、本題。
いやキューケンホフも本題だけど、それでもやはり都市移動は今日のメインイベントだ。

スキポール行きのバスの時間は?とインフォメーションで聞く。時間は決まってないのかやたらと場所だけ説明される。
来たら乗れってスタンスか。乗り場を見つけて30分くらい立って待っていた気がする。だから時間知りたかったのに。

待ちぼうけで疲れた足はようやくバスで休ませられた。日本と違って乗り物は基本ガヤガヤしてる。楽しげに会話してるのか、はたまたケンカをしてるのかもしれない。そんな内容さえわからないこの雑音も、もうBGM代わりで心地よい。

バスが動きだし、少し寝ていたかもしれない。
寝ぼけ眼でこのオランダ旅行前半戦を振り返ってた。
よく歩いたなぁ。行けない場所もあったが、なかなかハードスケジュールをよくこなしたなぁ。

そして一昨日の牛乳を注ぐ女が脳裏に浮かぶ。
いやーあのとき泣いちゃったなぁ、と思い返す。

ふと見つめるバスの窓の風景がみるみるとぼやける。
また涙が、出ていた。

なんでまた。
あぁ「月のもの」のせいか。いつも女性ホルモンは涙腺をつつく。そう思いたかった。

──────────────

あのとき美術館で二人きりで話したかった彼女が、
「また言い訳をして。本当は気付いてるくせに」
と、からかってくる。

バレてたか。
絵に感動してるわけじゃないってこと。
やっと本物が見れたから泣いてるんじゃないってこと。
君にはバレるよね。涙の理由《わけ》。
でもそっちこそあのとき隠れてたくせに。

私は君のまっすぐな健気さに涙してる。
感極まって泣けてくるんだ。

ずっとずっと守ってくれていたんだもんね。
絵を見たときのキラキラした気持ち。
心の奥の奥に隠してくれていたんでしょ?
日常をこなすだけでめまぐるしくあふれる感情たちで、あのときの煌めきが消されぬように。捨てられぬように。見張ってくれていたんだよね。
古い感情を忘れたり、塗り替えたり、ときに捨てなきゃ現実は乗り越えられなかったりするもんね。

ここまで連れてきてくれたんだね。
それともいまの私があなたを連れてきたのかな。
ありがとね。

彼女、中学のときの私は
やっと肩の荷が下りたのか、そうだよ!時間かかりすぎ!あー疲れた!と愚痴っぽく笑いかけてくれた。

でもいまの私もよく頑張ってここまで来たでしょう?
いろんなこと乗り越えてきたからここに来る勇気がやっとできたんだよ。
褒めて欲しくていまの私も主張する。

お互い頑張ったねでいいか、と二人で笑う。
昔の自分にも今の自分にも、そのひた向きさがなんだか泣けてきて、そして微笑ましくてしょうがない。

おしゃべりに夢中な乗客たちの中に、アジア人が一人しくしく泣いてることに誰か気付いていただろうか。

少しでも泣き顔がバレぬようにと窓を見つめてた顔は、
差し込む日差しに反射して、泣いてるのになぜか口元は笑いを堪えるように満足げに窓に映った。

情緒不安定なくせに充実感と幸福感に包まれている。
あぁ私は本当に天国に行ってたのかもしれない。