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「答え合わせ」の旅㉖

英語時々フランス語

夕方の散歩もまた心地よい。ビルが多く特徴のない街並みの中でも趣ある建物だなぁと地図を見るとロッテルダム市役所だった。

ロッテルダム市役所

運河がないのが物足りないが、自転車専用道路もトラムもあるところはオランダらしい風景。
この街は第一次世界大戦で戦火に焼かれて崩壊したと聞いている。なので再興の街なのだ。
真新しいまでは行かないが、小綺麗なのはそのため。
でもその新しさになにか物足りなさと歴史の浅さを感じる。これもまた新な観点で戦争を物語る。

なぜか都電荒川線を彷彿させるトラム
緑があるからかな

行きとは違うルートで駅に戻る。
このロッテルダムからではないと思うが、この国に来てから私はよく歩きながら歌っていた。鼻唄ではなくもう口ずさんで。誰もわからない言語でなにを歌おうが誰も気に留めないから。
その頃、私の好きな乃木坂46に新曲が出た。
『人は夢を二度見る』というタイトル。最近出た曲だからよく歌ってしまったのか、それとも夢を叶えにこの国に来た私にとって響くものがあり、口ずさんだのかは定かではない。
日本にいるとき特に黒人の方かな?よく大声で歌っているのを見掛けたことがあって、少し不思議だった。そんなに歌うのが好きな人種なんだなぁ、と理由付けしていたが、今となっては母国語が恋しいのかな、と思う。
この国で私がそうだから。

モチーフ不明の造形物やトラム停留所を見つつ歩みを進める。

あのとんでもなくでかい駅舎に戻ってきた。
インフォメーションもあるがまずは券売機に行こう。
混んでいないおかげか、ゆっくりスマホで買い方を見ながら購入することができた。ドンピシャのお目当てのカードを選択し、出てきた券をコートの胸ポケットにしまう。順調だ。

そこらへんだったか、私が買うのに奮闘してたときだったか、「Hi」と聞こえた。
へ?
目の前には白人のお兄さんというかおじさんか、いや、青年と言おう。きっと私よりは年下だろうけど。
人気の少ないこの場所ではキョロキョロする手間もいらないほど、私に話しかけてきたことは明白だった。
「Bonjour,○×△☆♯♭●□▲★※○×△☆♯♭●□?」
ちょちょちょ。
待て待て正気か?
この場所がいくら人が少ないからといってまさかのアジア人にフランス語で話しかけてくるやつがあるか。
人を助けたいという気持ちは私の人生の信条なのだが、本当にすまない。Sorry,I'm Japanese.とあしらった。申し訳ないが私もI'm a strangerなのだ。
日本語で話しかけてきたら助けられることもあったかもしれないが、ましてやフランス語なんて。私は英語もままなってないんだ、ということをフランス語で教えてあげたい。

去ったあとも青年の人を選ぶセンスの無さに笑みがこぼれる。しかしギクリともしていた。私が大学でフランス語を第二外国語で選んでたことに青年は気付いていたのか。それなら相当な嗅覚と言えよう。私からおフランスオーラが出てしまっていたならしょうがない。
フランス語、もっとやっておけば良かった。あのとき選択した言語はこの日のためにあったなんて。

さて面白い出来事もあったし、わざわざ駅に戻って来て良かったな。9292によるとトラムで明日のサッカースタジアムに行けるらしい。乗り場にヒントを探しに行ったが、この都市全体の路線図しかなく不安が増幅。
明日私は本当に行けるのか。

詳しいことは全部QRコードでサイト見ろ仕様

帰りにはお馴染みスーパーAlbert Heijnに寄る。なんとホテルから3分ぐらいの位置。
ホテル選び大成功。

店内に入ると、え、わぁ!と感動。アムステルダムで一番近くにあったAlbert Heijnより広い。品揃えすご!これにはワクワクした。
まずは何より水の確保。今日の夜ご飯。今回は朝食抜きなので明日の朝に食べられるものも買わねば。
SUSHIという名のカニカマのり巻き、カットフルーツ、サラダ。ぽいぽい買い物かごに入れていく。
結構寒いので温かいものを食べたかった。ケトルはこのホテルにもついてるからとインスタントコーナーを覗きに行くと運命の出会い。
日清じゃないか。日本では見ない商品。でも日清ってだけで信頼に足る。もちろん買った。なんか調子に乗って安心のスタバの飲み物も買った。
飲み物コーナーにYakultがいた。Yakultとの出会いにも感激して手をかけたが、値段見てパッと手を離した。高すぎ。日本でも高いのにそれの1.5倍位した気がする。

レジへ向かうとなんとここには有人レジあり。アムステルダムで行ったAlbert Heijnは全部セルフレジだったから、物珍しい。様子を見ていると有人では現金払いができるようだった。まだ現金余ってるし有人レジに決めた。IKEAみたいなベルトコンベアみたいなレジにどんどこ流してく。
若い女の子が座ってピッピッとスキャナーにかざしていく。しかし外国の現金ってほんとに混乱する。日本と違って2EURO硬貨とか20EURO札があるせいだと思う。これがわかりにくくさせるのだ。こう考えると日本の忘れられし二千円札て世界基準なんでは?って思う。

そしてここでも、女の子に言われた金額の数字が頭のなかですぐアラビア数字に変換されない。あわわと混乱してると英語わかる?と聞かれた。あーわかるっちゃわかるんだけど、時間かかるのよね。それをひっくるめてNOと笑って答える。向こうも笑ってた。
どれを出したら足りるのかアセアセして、もう手持ちの札と小銭を一緒に見てもらって、うん、これで足りるわと二人で確認しながら会計を終わらせ、Thank Youと店を出た。

でもなんでかな。店を出ても疲れたという感情がない。女の子がこりゃ困ったなという顔でなく笑ってたから。
ホテルのフロントで肯定感を授けられ、そしてレジの女の子にも特別困ったことではないと思われる。
私はRotterdamに来る理由があった。
外はまだ明るく、なんだか気持ちと同様に晴れやかだ。

しかし時間を見ると、19時近い。
は?こんなに明るいのに?しかも気温は冬並み。
暑くて明るいなら理解できるが、寒くて日が落ちないって理解不能だった。慌ててホテルへ戻った。

今宵の夕食。サラダは多いので翌日に持ち越す。

日が暮れない不思議な街の様子をカーテン越しに眺めながらご飯を食べる。
お風呂に入る。あぁ湯船が恋しい。寒いから尚更だ。
アムステルダムでもそうだったが、思ったよりドライヤーが普通のドライヤーで安心する。

明日の用意を、と軽く準備をする。帰りの航空チケットや海外旅行保険などの大事な書類やスーツケースの鍵を金庫にしまうようにしてたので、金庫の前に行く。
おや?金庫の様子がおかしい。

金庫はすでに閉まっていたのだ。自分で番号を設定し閉めるタイプの電子金庫。半開きじゃないとおかしい。
一回力を入れて開けようと試みる。ぐぐぐ。無理だ。1111とか0000とか番号入れてもエラー音が鳴り響く。

うーむ。これは聞きに行くか。
ここは14階。いちいちフロントまで降りるのは面倒だが、電話で伝えたところで向こうの返答が一切聞き取れないのは容易に想像がつく。表情も身振り手振りもコミュニケーションには必要なのだ。
フロントへ向かうエレベーターの中で私はとうとう、というか、やっと。Google翻訳に完全に身を委ねることを決めた。「できない」をとうとう認めた瞬間だった。
金庫が閉じている、みたいな翻訳をスマホに表示させながら私は意気揚々とフロントへ向かう。
金庫はなんとsafeという単語だった。これは予想外。いい勉強になった。

頼みの綱のNo problemお姉さんはいなかった。代わりに来たときにお姉さんの隣にいた白人ちょっとキツそうなお姉さんがいた。むむぅ。しょうがない。
Hi!とここまでしか伝わらない英語を枕詞にし、スマホ画面を見せた。

うん?とお姉さん。私の言いたいことが確認できたところで質問を重ねてきた。もちろんわからない。
ほらね。こうなると思ったのだ。だから電話は使わなかったのだ。全くもってお恥ずかしい展開だが、想像通りの展開に私はご満悦だ。
ごめん、私日本人でして。と英語が苦手な様子を伝える。OK、とお姉さんもカタカタキーボードを打ち始める。あ、Google翻訳って会話でも翻訳できる便利なのあるよ、って思いながらもそれの使い方わかんないや。と思いしばらく見守った。

打ち終わったとこで、Chineseだっけ?と聞いてくる。おーそれでは読めない。じゃぱにーず、と答える。向こうにとっては判別できないのだろうな。逆にこちらで会うアジア人は私の目からは区別つくのが不思議だ。
お姉さんはJapaneseに変換し直してくれた。
「あなたの荷物は入ってる?」と。なるほど。
NOと言ったあと「あ、最初から」とバリバリ日本語で答えた。数秒後に気付いてあひゃ!っと一人笑い。

「あなたの部屋に行って良い?」と聞かれた。これはどっちだっけな。口頭でわかったんだっけな。OKOK!と快諾。

お姉さんは一緒に乗ったエレベーターの途中階で一度降りて、なにか取ってくると言って降りてしまった。
私はそれは理解できたのだが、一緒にその階で降りてお姉さんを待っていた方がいいのか、それとも部屋で先に待ってていいのかが理解できておらず、去るお姉さんの背中にどう問いかければいいのかもわからなかった。

しばし開ボタンを押して待っていたが、すぐには戻って来なさそうなので私もこの階で降りてエレベーターホールでポツンと待ってみることにした。
お姉さんが戻ってきたので笑顔で迎える。

お姉さんは少しビクッとした。

あ、先戻って良かったのか、とそこでわかって吹きそうになる。不気味だっただろうな。こんな不気味女の部屋にこれから一緒に行くなんてお姉さんも仕事とは言え大変だ。

部屋についてすぐに金庫を見てもらう。ガチャガチャやっている。やっぱり壊れているようだ。
手持ちぶさたな私はウロウロ意味もなく荷物を触ったり、もう片付いてる机を片付ける振りをしたりとまぁこれも不気味だった。自分の不気味さにさっきからにやけてしまう。
お姉さんは苦戦しているがマスターキーを使って開けた感じがある。どう?と聞いた。いや聞けないか。私が横に(不気味に)覗きに行ったから教えたくれたんだっけ。

おー開いたんだね!と驚き&喜び顔をする。
お姉さんは、んー開いたんだけど…と何か言ってくる。
ん?やっぱわかんないなぁ。首をかしげて笑う。
お姉さんも軽く吹いて「translate」と自分のスマホを指差して翻訳するねって言ってくれた。うん、それがお互いいいだろう。

金庫は開いたけどマスターキーみたいなのを使うと今度は閉まらないらしい。オーそれは金庫の意味がないな。
私の仲間がこれを直しに明日くる。と書いてある。
え、ワッタイム?10-11時。おーその時間はI'll go out.やっと会話をした。どうすればいいの?と聞くと「そしたら出掛けるとき貴重品をフロントに預けて」と。
OK!Thank You。
このありがとうは、お姉さんもこのアジア人の不気味さに怖かったかもしれないが、よくお仕事を全うしてくれたね、の、ありがとう。
グンナイと言い合って去っていった。ここの人達はみんな優しい。

さて。フロントに預けるのは面倒くせぇから大事なものは全部スーツケースに鍵かけて鍵持ち歩くか。と決めた。明日の朝、フロントで金庫壊れてて~ここで預かってもらえるって聞きました、なんて説明がスムーズにできるわけがない。
こんな結末で金庫物語終結。
でもお姉さんには感謝してる。夜中にありがとうね、やっぱりこのホテルにしてよかったよ。

新しいベッド、そして新しい街で眠りについた。ほぼ最終日、そして生死をかけた大勝負の一日が始まる。