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人生は“予習”だ〈日めくり橋本治〉

「重要なのは“今までのあらすじ”ではなく、“この先の展望”なのである。“この先の展望”のない人間は、なにを考えたってむだなんだ。考えるという行為は、それだけの方向性を持っている。生きている人間にとって、“自分の頭で考える”ということは、『この先どうしようかな..』を考えることなんだから、展望のない考えなんかむだなんだ。
そして、だからこそ、ものを考える人間にとっては、“予習”というものが必須になる。毎日ボサーッと生きてないで、『ひょっとしてこれって、自分の“明日”とか“明後日”を考えるのに役に立つかなァ..』と、日々の中で何かを発見するという態度を持たない限り、ただのバカだ。」

「“答”というものは、いつも『これが答ですよ』という、親切な顔をしているわけではない。“答”というものは、時として、『これが答だけど、お前にはわかるめー』という顔をして、そこら辺に転がっていることだってある。答を答として理解するためには、ある程度の準備・成長が必要なんだということも、理解しておくように。“予習”というのはそういうことで、べつに予習なんかするつもりもないまんま生きていたって、結局は、そこまでの自分の人生が、ゼーンブその先の予習にしかならなかった、ということだってあるんだからね。
始まっているつもりで、まだ全然始まっていないことだってある。まだ始まっているとは思わなかったのに、気がついたら、もう自分はそのド真ん中にいたということもある。人生は、べつに、きちんとベルがなってから始まるもんではない。黙って始まって、黙って終わる。“遅刻”なんていううるさい罰則はないが、しかしそのかわり、きみが自主的に大損をするという、残酷な仕組みだけはあるのが人生だ。そこんところを忘れぬように。」

「人生は、そのまんま“予習”でもある。だから、“復習”ということもしないと、なんにも分からないまんまだったりする。知らないあいだに、きみはもう“分かっている”のかもしれない。そのことを後になって振り返って確認しないと、自分のしてきたことが無意味になる。『現在の自分はなんにも分からないまま、未来の自分のための予習をしている』ということもあるんだから、その“現在の自分”をむだにしないためにも、未来へ行って復習をするということは必要なんだ。予習しかしない人間は、後になって、せっかく自分がマスターしたはずのことを、ゼーンブ忘れてしまうという、バカなことだってやらかすんだからね。そのことも忘れないように。」
──橋本治『貧乏は正しい!』


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