見出し画像

時の支配者(感想)_電子音楽とアニメの相性の良さとメビウスのSF世界

『時の支配者』はルネ・ラルー監督による1982年発表のアニメ映画で、「エイリアン」等の美術デザインで知られるフランスの漫画家ジャン・ジロー(メビウス)との共作となっている。原題は「Les Maîtres du temps」。
以下、ネタバレを含む感想となどを。

誰も見たことのない架空の宇宙をアニメーションで表現

まずイントロ、クレジットの流れるシーンがやたらとかっこいい。リズムを刻む単調なシンセベースとキレの良いギターの音色が差し込まれる楽曲が気分を上げてくれるのだが、曲調はプリミティブなテクノミュージックに近い。

時の支配_01

蜘蛛のように足の長いフォルムの6輪車が砂漠や水の上を疾走するシーンでは、クロードが運転しながら友人のジャファールに対して救助依頼の通信をしており、のっけから緊迫感が漂う。疾走感のある絵とテクノミュージックの相性が素晴らしく、このシーンだけずっと観ていたくなるほど高揚する。

クロードの幼い息子、ピエールは父に託された卵の形をしたマイクひとつを持たされてペルディド星で遭難することになるのだが、通信を傍受したジャファールとその一行はマイクでピエールと交信しながら助けに向かうというストーリーとなっている。

時の支配_02

ピンク色の太い幹の木の密集した森と発光する木の実、そしてピエールの水色の服とクリーム色の髪と柔らかで淡い色彩のトーンが美しい。ハスの妖精や人と馬が一体化したようなウォンウォンなどユーモラスで優しいフォルムなのだが、なぜか大人たちの造形は渋い。

本筋とは直接関係無いメッセージは大人向けか

時の支配_04

人の心を読み、素直な心を持つハスの妖精(ユーラとジャド)は宝箱に保管されたきらびやかな宝石に対して「物の美しさより価値に関心を持つ」と蓄財する人間の愚かさに言及したり、自己中心的に行動するマトン王子のような人間の行動を悪と断定して非難する。

時の支配_05

また、ユーラとジャドは顔の無い翼を持った白い怪物たちを恐れ「思想が統一されることの危険性」を語ったりもする。
白い怪物に同化を求められ幽閉されるジャファール。しかしなんの前触れもなく唐突に改心したマトン王子の活躍によって、思想統一の儀式は崩壊する。洗脳されていた人や宇宙人たちは元の人間や宇宙人の姿に戻るのだが、それらの人々の風体や喋り方はなぜか輩っぽい風体で悪そうで、果たして助ける価値のある人だったのか。
もしくは、どんな悪い人間であっても思想の統一からは救われるべきであるというメッセージを含んでいるのかもしれない。

そもそも思想の統一というのが何のことを指しているのかが不明だ。東西冷戦時代の共産主義に対する批判、もしくは当時フランスで起きていた何らかの社会問題への訴えがあったのかもしれない。
これらのエピソードはストーリーの本筋とは関係性が薄く唐突に訴えかけてくるためなぜ差し込まれたのかが不明だ。
作品の演出はどこか演劇に近く、アニメを子供たちの娯楽としてだけではなく、社会的メッセージを内包するという考え方はお国柄もあるだろう。

星と一緒に60年前へ移送されていた

時の支配_06

ペルディド星は、時間を制御することのできるタイム・マスター族によって星ごと60年前に移送され、ピエールはスズメバチに襲われているところを、偶然通りがかった人間に救われる。
結局、ジャファールたちがペルディド星へたどり着く前に事は済んでしまうのだが、しかしまさかシルバートがピエールの年老いた姿だったとは。
伏線として、頭にスズメバチに突かれた手術の痕があったりペルディド星の生態にやたらと詳しいことはあった。しかし名前がピエールからシルバートに変わっている理由は語られないので展開としてはかなり強引だ。

時の支配_07

宇宙船からシルベールの棺を葬るシーンでユーラとジャドは「参列者は少ないのに、大勢の悲しみを感じる」と語る。人の心の内を読むユーラとジャドにとって、シルベールの陽気さと心の美しさがとても好ましいものだったということを伝えたいのだろうが、このあたりの演出は少し説教くさいか。

-----------------------------------------
私はこの映画を、現在は閉館してしまった渋谷シネ・アミューズで2001年にレイトショーで上映されたのを観た記憶がある。20年振りに見直してみて、ストーリーはほとんど覚えていなかったのだが、劇中に使われた電子音楽の印象は残っていた。

当時、渋谷宇田川町にはレコード屋がひしめいており、テクノミュージックを専門に取り扱う店もあるほどエレクトロミュージックに活気があった。楽器メーカーもPCMサウンドを鳴らすのではなく、つまみで音色をリアルタイムにエディットさせるる音源を発売していた時代でアナログ回帰していた。

そういう状況であったので、プリミティブなシンセサウンドが多用されている『時の支配者』は2001年当時の流行との親和性も良かったし、不安定で揺らぎのあるサウンドは宇宙を表現するのにも効果的だった。
また、これらの音楽と柔らかな色彩のアニメというのもそれまでの日本のアニメでは観たことのない世界感だった。
そういう意味で、自分にとってこの作品の楽しみ方はミュージックビデオを見るような感覚に近いのだが、これは美術を担当しているジャン・ジロー(メビウス)による功績が大きい。

画像6


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?