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本の紹介 伊勢谷武「アマテラスの暗号」

伊勢谷武「アマテラスの暗号」(2024)宝島社


この小説は、次の一文から始まります。

この小説における神名、神社、祭祀、宝物、文献、伝承、遺物、遺跡に関する記述は、すべて事実にもとづいている。

そう、この小説は単なるフィクションではなく、一面の真実をもとに描かれている物語なのです。


「アマテラス」とは、古事記(こじき)日本書紀(にほんしょき)に出てくる神話の神の名前です。現在では三重県の伊勢神宮に祀られていることで知られています。

この「アマテラス」を取り巻く伝説や記述をもとに、主人公の父の殺害事件と、壮大な歴史の謎がオーバーラップしていきます。


この小説の主な軸は3つです。

① 「海部直彦(あまべ なおひこ)」の死の謎
② 伊勢神宮の謎
③ 日本の神道文化とユダヤ文化の共通点
 


まず、主人公の父である「海辺直彦」が殺害され、その謎を解いていくという軸があります。

焦点は殺害方法やアリバイではなく、「なぜ」殺されたかに向けられます。不可思議な死の背後に、「アマテラス」の謎がひかえているのです。


主人公たちがまず向かうのは、伊勢神宮です。そこに至るまでの手掛かりに加え、さまざまな人との出会いの中で、少しずつ伊勢神宮の謎を知っていきます。

そして、深まる謎の一方で、数々の手掛かりと強力な仲間の知恵をもって、少しずつ全体像が明らかになっていきます。


謎が明らかになるにつれわかってくるのが、神道文化とユダヤ文化の共通点です。これはこれまでも、さまざまな書物で指摘されてきたことです。しかし、ここまで仮説に基づいて丁寧に整理されたものはなかったのではないかというくらい、資料が丁寧に紹介されています。

単に一つひとつの事象を説明するだけではなく、一つの物語として説明していることが、この小説のすばらしいところでしょう。

もちろん、フィクションとしての粗雑さはあるかもしれませんが、フィクションだからこそのいきいきとした歴史が語られています。フィクションだからこそ伝えられる真実というのもあるのではないでしょうか。


物語は複数の視点から語られるので、少々読みづらいところはあるかもしれません。また、一つひとつの謎の中には、いまひとつ理解が難しいところもあるでしょう。

ですが、ひとまずは物語の流れに従って読み進めていくと、だんだんとわかってくることもあると思います。最後まで読み進めれば、「ああ、そういうことか」とわかることもあるかと思いますので、気にせず読み進めることをおすすめします。



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