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レバノン退去を迫られるシリア難民

大量のシリア難民を受け入れてきたレバノン共和国は今、大きな決断を迫られている。学校やインフラ、経済への負担が蓄積し続けている反面、シリア情勢の鎮静化に伴い、諸外国からの経済的支援削減の危機に瀕している。

※ 個人的見解であり、所属機関を代表するものではありません。

私が着任した6月のレバノンは、転換期の最中にあるようだ。2011年から今尚続く隣国シリアでの内戦の影響により、レバノンにも大量のシリア難民が流入した。一時期は、UNHCR (国連難民高等弁務官事務所) に認められている数だけでも100万人を凌駕し、2018年も同国の6人に1人が難民であるという数字が報告されたため、人口に対する難民の受け入れ人数が世界最多という状況は継続された (UNHCR調べによる)。

岐阜県ほどの面積 (約1万平方キロメートル) の国に、仙台市の総人口 (約109万人) に匹敵する数の人々が新たに押し寄せたというのだから、社会に齎したであろう影響が如何に深刻であるかということは、容易に想像がつく (同時に、具体的にどれほどの影響を及ぼした/及ぼしているのかについては、想像が付かない部分も大きい)。2014年に入ると難民の流入はピークを迎え、レバノンへ入国したシリア難民は100万人を突破した。それ以降は大きな増減なく推移し、今年はシリア危機の発生より8年目を迎えている。

6月25日 (火) にレバノン赤十字社が、同社を支援している各国の赤十字・赤新月社、および各国大使館関係者を対象としたコンフェレンスを開催した。レバノン赤十字社、ICRC、国際赤十字・赤新月社連盟がそれぞれ、今後のレバノンでの支援活動方針についての見解を発表した。

パートナーシップ会議の様子

シリア内戦の鎮静化により考えられる、レバノン国内のシリア人に用意されたシナリオは: 1 速やかな帰還; 2 ゆっくりとした帰還; 3 レバノンでの更なる長期駐留、と必要なサポートが異なる3種類の状況であるために、現時点で方針を明言することは困難な状態であるようであった。しかし、国際社会の関心が低下の一途を辿る今、諸外国からの支援が削減され、今後は更に厳しい状況での支援活動が求められるのであろうということは、私にも容易に想像が付いた。

インターネットで検索してみると、まさに今、レバノン国内のシリア難民に対する風当たりが強まっているという証拠を示す情報が溢れていた。以下はレバノンの日刊紙「An-Nahar」に掲載された記事の抜粋。英語が分からなくても概要を掴めるよう、誰かのために和訳してみた (概要を記述した前半部分のみ)。

今後、私たちはどう関わってゆけるだろう。

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In Lebanon, Syrian refugees face new pressure to go home
出典: Associated Press
日付: 2019年6月20日 最終更新日: 2019年6月20日10:34

レバノン共和国アルサル: レバノン政府は、シリア難民がレバノンに根を下ろさないようにするための措置を取り、かつてないほど攻撃的に帰国を促すキャンペーンを開始した。

ヨーロッパや世界各地で拡大している反移民感情に呼応し、レバノン国内でも、隣国シリアで8年間も続く内戦の影響で、レバノンが (人口に対する) 世界最大のシリア難民受け入れ国となっている現状に対する不満の声が上がり始めている。レバノン人口約500万人に対し100万人の難民が滞在している状態となっている。それも緊縮政策が成され、経済が弱体化している最中に、である。 

レバノンの移民に対する反感は、これまで浮き沈みを繰り返してきた。根強く存在してはいるものの、人々の心には複雑にせめぎ合う感情があるために、反対の感情はうまい具合に抑制されてきた。過去シリアに征服されたことに対する憤りや、非常に繊細な同国の宗教バランスが難民の影響により失われることへの恐れの感情があるのと同時に、レバノン人たち自身が長い内戦を経験し、避難民となっている記憶から起こる同情の念が存在しているのだ。

しかし遂に1人の政治家を筆頭に、政府はシリア難民問題に対する明確な方針を示した。ゲブラン・バジル外務大臣が "シリア人は母国へ帰るべき" と主張し、レバノン人の "遺伝的な特質" が連帯を齎し、難民問題について立ち向かわせてくれるだろう、と民族自決主義的な発言をしてキャンペーンを開始したのだ。

今月バジル氏の政党により組織された決起集会では、「レバノン人を雇用しよう」というスローガンが掲げられ、参加者たちは "シリア、出ていけ" と叫び、一部ではシリア人が営む店になだれ込もうと試み、乱闘騒ぎにまで発展した。通りには反シリア人のポスターが貼られ、ネット上では不法就労しているシリア人を見かけたら直ちに通報するよう呼びかけられている。

世界で避難民となっている人口が記録的な数字を記録した今、このような緊張状態は、長期に渡る深刻な難民問題の影響を受けている受け入れ国での反発が如何にして、受け入れコミュニティーの政治事情に影響を及ぼし、密接に絡み合っているのかを指し示している。水曜日にはUNHCRが今年の時点で、家を追われている人の数は世界で7,100万人であり、内2,600万人が難民であると発表した。20年前と比較して2倍に膨れ上がっている。

"この数字の内で、レバノンは同国の人口に占める (難民の) 数字が最も多い国として抜きん出ている" UNHCRレバノン代表のミレル・ギラードが話した。"レバノンは大きな責任を背負っており、難民フローの最前線に置かれている国々に対して、全世界は連帯を示すべきである"。

政府内のバジル外相支持派は、実際の実施例は稀であった法律を実行に移し、許可なしにシリア人を雇用している店やシリア人により営まれている店を閉鎖し、難民キャンプ内にある定住の拠点と成り得るあらゆる施設の破壊を命じている。

難民は懸命に難局を切り抜けようとしている。

非公式キャンプに6万人の難民が暮らす、シリア国境付近の町アルサルでは、シリア人たちは今、彼ら自身が寒い冬を乗り越えるために険しい山岳の地盤に建てた、レンガやコンクリートで囲われた掘っ立て小屋を解体している。レバノン軍が7月1日までに、腰の高さ以上のものは全て除去するように通達したためである。 

政府がどれだけ圧迫しようとも、留まる以外の選択肢はない、とシリアの人々は言う。

"政府はコンクリートの壁が私たちをここに留まらせる要因だと考えているの?“ ウム・ハッサンという女性は怒りながら言った。戻れば息子たちがシリアの大統領バッシャール・アル=アサドの軍に徴兵されてしまうから帰れない、と彼女は話す。レバノン軍による建物破壊令のせいで、家族全員が1週間以上も屋根のないところで寝泊まりをしているという。

 2011年以降にレバノンにやってきたシリア人の多くは家や土地を失い、貧しい状態だった。数年間支援が続いているにも関わらず、51%のシリア難民の家庭は1日$3 (約320円) 以下で生活を営み、88%の家庭は負債を抱えている。就学年齢に達した66万人の子どもたちの内、54%が教育を受けられておらず、40%がいかなる学校教育も受けられていないと推定されている。

相応して多くのレバノン人から不満の声が上がっている。諸外国から6億ドルもの支援金が送られているにも関わらず、既に衰弱し切っているインフラや学校は、なだれ込む大量の難民に圧倒され、家賃は上昇し、安いシリア人の働き手が溢れたため、レバノン人労働者たちは安価への価格競争への参入を余儀なくされてしまった。シリア人が税金を納めず、不法就労しながら、給付金を受給していることに対する怒りの声が上がっている。

レバノンは来年、経済立て直しを図るための緊縮措置を控えている。一方で評論家は、政府はシリア難民を悪化の一途を辿る不景気と、根強い汚職のスケープゴートにしていると指摘している。

レバノンの人々の間では不満が溜まっており、怒りを矛先を求めている"。そんな時に一番弱い立場に置かれている人たちは誰でしょう、難民です"、ジャーナリストのダイアナ・ムカールドは言う。

[続く...]

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補足:
- 翻訳は個人の解釈に基づく、個人の作業です。ご不明な点等がございましたら、コメントをお願いいたします。

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