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[小説:紹介] スティーヴン・キングの小説 (5) [96~99年]

ネタバレ基本的になし

スティーヴン・キングの小説を紹介します。
第五段は1996~99年に発表された分です。

キング作品には作品間のリンクも多々あるので、それもネタバレしない程度に紹介したいです。
物語間の繋がりは、90年代の作品からより強くるような感じなんだ。

◎スティーヴン・キング

◎リチャード・バックマンとは

キングの別名です。
キングは一時期、正体を隠してこの名前で本を出してました。
途中でバレちゃったんだけどね。


◎1996~99年に発表された作品紹介


ザ・スタンド

1990年ノーカット版発表。
前の記事に入れるの抜けてた!!!

この本、日本で読めるようになるまでめっちゃ時間かかったやつです。

ちょっと説明長くなりますよ。

アメリカでの最初の出版は1978年でした。その頃、キングはまだ新人。
『ザ・スタンド』の完全版の原稿は日本語の文庫にしても5冊分あります。
新人の小説としては長すぎたんですね。それで、最初の出版時、泣く泣く 15万字ほど削除し発表されました。

私はnoteの別アカウントで小説も書いてるので、15万字にどれくらいの展開が含まれるのか、だいたい想像できます。
文庫1冊分は軽くあります。これは悔しい。だったら出さないっ!! ってくらい。

ということで、12年後の1990年、人気作家となったキングはこの15万字を復活させ、時代設定も90年代としてこの〈完全版〉を発表しました。
私達が日本語で読めるのも完全版です。

…その日本語版が出るのも時間かかった…。
日本語版の 『ザ・スタンド』 が初めて本屋に並んだのは 2000年でした。

それがさ…この超大作をハードカバー二冊で出したんすよ!!!

本、巨大すぎっ!!!

それから、やっと文庫が出たのが2004年でした。
アメリカで最初に出版されてから、26年の歳月が流れていたのでした。

というわけで、内容の説明に移ります。
★ネタバレはしませんが、前情報なしで読みたい人は飛ばしてくださいね。


この物語は 致死率99%の超悪性インフルエンザのパンデミックで、アメリカの社会機能が完全崩壊するところから始まります。
これは、今読むと、マジでリアルに感じるかもしれない。

『ザ・スタンド』 には、主人公級の人物だけで10人以上登場し、それぞれの物語が バラバラ にスタートして、やがて集まって一つの大きな流れに呑まれていきます。

それぞれの視点で見た崩壊していくアメリカが語られてめっちゃ興奮です。

そして、ここからが、さすがキング…といった感じで、物語は予想外の方向へ進みます。
冒頭の感じからして、パンデミックのパニック系SFサスペンスかと思うでしょう??

違うんですよ。これはですね…

ファンタジーなのである!!!

しかも微妙にコミカルな…。

生き延びた人たちが、共通の夢に導かれて動き始めます。

『ザ・スタンド』を語る上で欠かせない登場人物がいます。

それは、キング作品を多く読めば読むほど気になってくるあの人。

ランドル・フラッグ
ウォーキン デュード (歩く男)

またの名を

黒衣の男

キングの他の作品を読まずに、『ザ・スタンド』だけいきなり読むと、誰? この人。ってなると思います。

この人物は、キングの最大作品 『ダーク・タワー』 を中心に、名を変え姿を変えいろいろな作品に出てくる。まさにキングの広大なハイパーリンク世界の象徴ともいうべきキャラクターなのです。

フラッグ って何となくキモイ奴なのだが、『ザ・スタンド』 を読むと可愛らしい面もあったりしてちょっと好きなります。油断してると、読み終えるころにはファンになっていたりもする。

このようなことから、なんとなく 『ザ・スタンド』 は 『ダーク・タワー』 外伝という位置付けができると私は勝手に解釈しています。

ちなみに、ランドル・フラッグ はヨーロッパ最大の伝説 『アーサー王物語』 に出てくる魔術師マーリン・アンブロジウスがモデルとなっているそうです。
西洋において、魔術師といえばマーリン、マーリンといえば魔術師だそうです。

というわけで、ものすごくスケールのデカい物語なんだけど、まじめに向き合えば向き合うほどに裏切られますw

ここでは詳しく言えないけど、何なんだあの結末w

そんなところが好き💖

ドラマ化してるんだけど、なんかいろいろ酷過ぎて見れなかった…。


グリーンマイル

1996年発表。

映画がわりと有名ですね。

30年代アメリカのとある死刑囚と看守にまつわる感動のファンタジックドラマって印象かなと思います。

確かに、この物語は「死刑」と「冤罪」をテーマにした奥深いヒューマンドラマです。
なんだけど…なんだけどね、実は、本書の最大の特徴は、全く別次元のところにあったりするのです。
この本、ただの感動長編ではないだ。まさに……

怪物だった!!!

『グリーン・マイル』 の最初の本を見たことがある人は知っているかと思うけど、この本の形態はとても変わっています。
とっても薄い、ペラッペラッの文庫 6冊です。

1冊はだいたい200ページくらいで、数時間あれば読めてしまう分量。
これが、毎月1冊ずつ。6ヶ月かけて発行されたのでした。

この独特の発売方法は「作品の一部である」として、世界中で翻訳された際にもそのように実施されました。

キングのお話って、読んだことある人はわかると思うど、常習性のある麻薬みたいな代物です。
実際私はかなりの中毒です。

そんなんがね、たった200ページくらいで、続きはまた来月…って6ヶ月も続いたんですよっ!!!
想像してください。ものすごいとこで終ってるですよ。絶対わざとやってるし。

しかもね、待ち望んだ次の本を開くと、全然別のエピソードが始まったりしてるわけで。

最後までこんな調子で、揺さぶられ振り回され半年間を過ごしました…。

ドSな本なのです。

これは映画ではどうしても表現できないです。月1回の30分番組のドラマだったら再現できるかな…。

でも小分けにせずに一気に見たり読んだりしても面白いってところもすごいんですよ。
今は上下巻にまとめられた文庫もありますので、分冊面倒な方はぜひそちらを。

映画も好きです。



デスペレーション

1996年発表。

キングの本の中ではダントツでグロいんじゃないだろうか…。

死体の山です。

折り重なる死体から漂う臭気と砂漠の熱風に息が詰まるような、そんな感じ。嗅いだことはないけど。

たまたま訪れた寂れた鉱山町に邪悪な者がいて、生きてる人間は全員殺す…みたいなっている物語です。
逃げ惑う登場人物たち、執拗に追い掛けてくる邪悪な者…。
アクション スプラッター ホラーが好きな人には超おススメ。

ただし、『デスペレーション』はただのスプラッターものではないのです。

物語にのめり込むにつれ、神秘的な高揚感を味わわされ、いつしかこのグチャグロストリーが聖なるストーリーと変貌を遂げてしまいます。

キングマジック!!!

この物語では幾度となく『神』について言及されるので、クリスチャン的な本なのかと勘違いする人もいるかもしれません。
でもそれは違う。単に登場人物がキリスト教徒だったというだけで、そこにある人知を超えたものが何であるかはわかりません。
こういうところがリアルです。

“この世の不可解な出来事を、人は自らの宗教的概念で解釈する”
ということなのです。

そして、2011年3月11日を経て読むと、この物語にさらなる恐怖が見出せます。

地中に処理できない代物を埋めてはいけない~!!!
何万年も経ったら何が埋まってるか忘れて掘り返しちゃうじゃん!!!

なお、『デスペレーション』 の次には間髪あけずに、下記のリチャード・バックマン著の 『レギュレイターズ』 を読むのがおススメ!!!

映像化もしてるけど、あんまり映像ではみたくないわ。。
グロそう…。



レギュレイターズ

1996年発表。
リチャード・バックマン名義で出されました。

上記の『デスペレーション』とペアになっているお話なのですが、別名義で出すところがおしゃれです。
バックマン=キングがバレてしまった後に、バックマンの遺稿として出されました。

とある閑静な住宅街に突然アニメや映画のキャラクターたちが現われて、住民たちをぶち殺していくお話です。
同じ人が書いてるとはいえ、バックマンらしさというのが何となくあって、このお話はとってもバックマンっぽいと私は思っています。

なんかどっか上の空ってゆうか、軽いってゆうか。

この本は『デスペレーション』を読んでないと、わけわからず、ただただ住民が殺される話にしか思えないかもしれない。。

映画化するっぽいのだけど、主人公の男の子を誤解を与えないように描いてくれたらいいなと願うばかりです。



骨の袋

1998年発表。

最愛の妻に先立たれたベストセラー作家マイク・ヌーナンが主人公。
妻には何か秘密があったらしいことを知り、彼女との思い出が宿る湖畔の別荘へと行くことで、不思議体験をする…というお話。
ゴーストストーリーです。

亡くなった人の物言わぬ訴えの表現がとてもリアルで身につまされます。

妻の死のショックから書けなくなってしまった売れっ子小説家の底なしの不安感と、妻の秘密が交差して、読者には謎解きがふんだんに与えられます。
そこに町の黒歴史が織り交ざって来たりして、仕掛けがたくさん。

この物語では書けなくなってしまう恐怖についての言及が繰り返されて、これはキングの恐怖でもあるのかな…と思ったりしました。
こういうライターズ・ブロックに対して作家たちがどういう対処方法を持っているのかが描かれていてとても興味深いです。

キングにしてはストーリーがすっきりしてるので読みやすいのですが、退屈といえば退屈かも…。
ごちゃごちゃした物語が苦手な人にはおすすめ!

ちなみに、物語の舞台の湖は、『ジェラルドのゲーム』の舞台でもある《ダークスコア湖》。
ヌーナンの自宅があるのは、ITの舞台である《デリー》です。

映像化もしてる。



トム・ゴードンに恋した少女

1999年発表。

森で迷子になってしまった9歳の少女トリシアがサバイバルする物語。
私にも娘がいるので、子供が迷子になるとか想像するだけでもう怖くてダメなんだけど…。

キングの作品には時々神がかった子供が出て来るんだけど、トリシアはごく普通の女の子です。
野球の熱狂的なファンで、トム・ゴードン(実在のプロ野球選手)が大好きな女の子。

そんな彼女が真っ暗な森の中でひとり生き延びるためにパニックと狂気の狭間をさまよいます。
少女の心理がリアルでなんかすごい作品。


アトランティスのこころ

1999年発表。

5編の物語によって形成されるオムニバスです。

全く関係ないような各エピソードは、少しずつ繋がっていて、バラバラの物語が集まった短編集のようにも読めるし、これでひとつの作品とも読めます。

人間の営みは、それぞれがバラバラに行われているように見えるけど、いろいろな偶然によって関係しあい交差して離れてまた交差して…を繰り返している…。

それが表現されてるように思います。
そしてさらに言えば、これは、ある特別な老人と接触した人たちのその後を追っていった物語でもあるのです。

物語の発端は、最初のエピソード 『1960年 黄色いコートの下衆男たち』です。

1960年の夏、このエピソードの主人公 少年ボビーの近所に不思議な老人テッド・ブローティガンが越してきます。

ちょうどその時期と、仲良し幼馴染であるボビー、キャロル、サリーが少年少女から青年へと変わっていく時期が重なります。
子供のころの関係性が壊れていく、とても切ない、でも愛いっぱいの物語になっています。

不思議な老人と接触した人々の運命は、まるでビリヤードの玉みたいに跳ね返りながら転がり次の物語へと繋がっていきます。

この本のタイトルとなっている 「Hearts in Atlantis」 は、二番目の物語 『1966年 アトランティスのハーツ』 からきています。
日本語のタイトルだと、“Hearts” を “こころ” としたので、なんかちょっと違うものになってしまってる感あります。

ここで言う、ハーツはトランプのゲームなのです。

二番目の物語『1966年 アトランティスのハーツ』は、ベトナム戦争が激しくなってきたころの学生たちの物語です。
学問と戦争、友情や恋愛、そして様々な苦悩や誘惑にもまれながら成長していく当時の学生たちをナマナマしく描いた文句なしの絶品です。

映画にするのならこのエピソードだったんじゃないかな…と思う。。

これに続く物語もひとつひとつ味のあるステキな作品揃いです。
ちなみに、各物語で主人公は変わって行きます。

そうして最後のエピソードへと私たちはたどり着き、人生の不思議な因果に胸を打たれて泣いちゃう。

はあ、なんか内容を思い返してるだけで泣けてきちゃう。

私は 『アトランティスのこころ』 が大好きです。

というか、この物語の発端となる特別な老人 テッド・ブローティガンが大好きなのです。
この人が何者であるのか、知ってるのかどうかで、この物語の理解度はだいぶ変わって来るかもです。

つまり、これらの物語も キングの超長編『ダーク・タワー』の外伝的なやつなんです。

特に、最初のエピソード『1960年 黄色いコートの下衆男たち』は、『ダーク・タワー』を読み終わった状態で読むのがおススメです。

なお、『アトランティスのこころ』アンソニー・ホプキンス主演によって映画化されてるんだけど、最初と最後のエピソードを合体させて、なんか無理矢理まとめたって感じで作られています。

上にも書いたけど、映画化するなら、そこじゃないだろう…って思うのですが、それでもボビー、キャロル、サリーを演じた役者さんたちが超絶かわいいので見ても損はありません。



以上です。

この中での私のイチオシは『ザ・スタンド』と『アトランティスのこころ』です。

スティーヴン・キングを読もう!となった時に、『ザ・スタンド』は避けて通れないでしょう。
ただ、最初のキング作品にするには、登場人物多すぎで読みにくいかもです。

『アトランティスのこころ』は、『ダーク・タワー』を読んだ人にはぜひ読んでほしい逸品です。


▽第一弾 70年代はこちら

▽第二段 80~85年はこちら

▽第三弾 86~89年はこちら

▽第四弾 90~95年はこちら

▽第五弾 96~99年はこちら

▽第六弾 2000年代はこちら


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