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“Tell your story.” 海外で活躍する3人が語る、グローバルに通用するプレゼンの極意。

「ビジョンが謙虚すぎる」「英語のプレゼンが下手」「一生懸命しゃべっているのに、伝わらない」…海外でピッチする日本のスタートアップがぶつかるのは、言語の壁だけではありません。むしろ、話す言葉は間違いだらけでも、熱意と存在感だけで観客を聞き入らせる海外スタートアップは多く存在します。では、グローバルの舞台で自分のビジョンを売り込むために必要なスキルとは、一体どのようなものなのでしょうか?

Plug and Play Japanでは、9月15日に「STAGE」というイベントを開催しました。(イベントの詳細はこちらの記事で紹介しています)。
その中で、日本とアメリカという2つの異なる国と文化を経験している2人のスピーカーをお招きし、弊社Zak Muraseのモデレーションによるパネルトークを行いました。今回はそのトークの内容を一部編集してお届けします。

[登壇者プロフィール]

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Ari Horie | Founder & CEO, Women’s Startup Lab

広島県出身。18歳で渡米、大学を卒業後、IBM、スタートアップでの経験を経て現職。シリコンバレー初の女性に特化したアクセラレターとして2013年にWomen’s Startup Lab を創業。世界中から集まる女性起業家の育成やベンチャー支援を行う。シリコンバレーに深く密なネットワークを持ちながら、一人一人の革命を促すマインドセット変革を含む独自メソッドによる育成プログラムで注目を集めると共に、近年はイノベーション加速を目的とした企業のエグゼクティブ/リーダー育成に多く携わり、参加者から多大な評価を受けている。その功績を称えられ、2013年CNN “10 Visionary Women”を皮切りに、数多くの賞を受賞。


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Kei Shimada | Leader, Digital Makers Lab.

松下電器産業、日本ルーセント・テクノロジー、モバイルスタートアップ、起業、電通を経て、IBMにて外部テクノロジーと自社デジタルアセットを組合せ、先端ソリューションを開発するラボ設立、リーダーを務める。スタートアップ連携、先端ソリューション創出、新サービス事業創出を得意とし、技術特許から広告賞まで幅広く取得。またクリエイティブ分野における審査員から約20カ国のテックカンファレンスで150講演以上経験。

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Zak Murase | Head of Ventures, Plug and Play Japan

1994年慶應義塾大学環境情報学部卒。ソフトウェアエンジニアとしてソニー入社後、1998年にVAIOのプロダクトマネージャーとしてシリコンバレーに赴任。米国PlayStation Network、光ドライブ事業、UX開発におけるスタートアップとの協業などを経て、2013年に米国ソニーを退社。日系VCのシリコンバレーオフィス代表としてKDDI、三井不動産などのCVCファンドからのアメリカのスタートアップへの投資を担当。2017年独立しPacific Sky Partnersを創業。2020年よりPlug and Play Venturesの日本代表に就任。

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緊張で震えた。初めて”STAGE”に立った瞬間


Zak:グローバルなステージで活躍されている人といえば、というのが今日登壇していただいているお二人ということで、ご紹介したいと思います。
まずAri Horieさん。女性起業家の育成をしているWomen's Startup Labのファウンダーです。スタートアップの登竜門的なイベントSXSWのKeynoteを3回されています。それからカンヌ映画祭、新経済サミット、SLUSH ASIA、といったグローバルなステージでプレゼンをされています。いろいろな賞も獲っておられまして、たとえばCNNの10 Visionary Womenや、Entrepreneur Magazineの100 Most Powerful Womenに選ばれたりしています。
次がShimada Keiさん。Keiとはもう10年近い知り合いですが、その時からKeiはグローバルで活躍していて、プレゼンの経験もたくさんある。これは僕も知らないところばかりなので、ご本人からお願いします。

Kei:海外生まれで、15歳の時からはずっと日本にいます。日本のイノベーションとかテクノロジーの実情を海外に伝えるということをここ10何年やっていて、2007年から約30ヶ国、150〜200講演くらいやっています。海外だとMobile World Congress、The Next Webといったメインストリームでの登壇から、ここ最近は、日本人が行かない地域でのテックカンファレンスで日本人初の登壇者になるというのをテーマとしています。レバノン、ラトビア、イラン、セルビア、ブルガリアなど、日本のテックについての情報がまだ行き届いていない、なおかつ日本人も現地のことを知らない、そういったところの橋渡しをするようにしています。


Zak:まずAriさんから、最初に大きい舞台で登壇することになったきっかけとか、その時どんな感じだったかを教えてください。

Ari:元々ステージに上がること、人前で喋ることがすごく苦手でした。学生時代にフルートを演奏していたんですが、ナーバスになって、1曲を終えずにステージから下りたというトラウマがありました。私は人の前に立てないんだと深く信じて生きていました。Women's Startup Labのファウンダーとして活動する中で、SXSWで喋ってほしいという電話が入ったんです。私は絶対に断ろうと思っていたところ、PRの者が「喜んでやります」と答えてしまって。本当にナーバスで怖かったですね。舞台裏に入ると両サイドのスクリーンが大きくて、びっくりして過呼吸に陥りそうでした。生きた心地がしなかったですが、最後は根性でしょうかね、覚悟するっていう。

Zak:YouTubeで検索してもらうと出てくるんですけど、そのビデオを観る限り、全く緊張しているようには見えないですね。

Ari:最初の5分間、緊張したせいで口の中がカラカラになって喋れなくなりました。そういう状態に陥って焦りましたが、結果的に、5つくらいあるトピックの間にすごく長く間を取ることになりました。心の中では「次は何だったっけ」と思っていましたが、すごく思慮深く時間を取ることによって、オーディエンスが「次は何を言うんだろう」ってグッと入ってくれる感覚がわかったんですね。

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Zak:「間を取る」っていうのが日本人は苦手なのかな、と僕も思っています。焦るとみんな次に行きたがっちゃう。だけど落ち着いて間を取ると、オーディエンスはそこでグッと引き込まれる。それはすごくいいテクニックかなと。SXSWを経験した後はあまり緊張しなくなりました?

Ari:いつも緊張しています。前日からずっと考えています。頭の中でシミュレーションをしておかないと、緊張した自分がリードしてしまって、私らしさとか伝えたい思いとかを表現できなかったりするんですよね。緊張すると、思ったことが頭からパッと出ちゃう。そうではなくて、心の底から出る言葉を喋りたいなと思います。

Zak:Keiは最初の大きなステージはどういうきっかけだったのかな?

Kei:当時僕はスタートアップをやっていて、ドイツ人のCo-founderがいろいろなところに登壇していたんですが、NYで講演があった時に、「行ってこい」って彼に放り出されました。僕も人前で喋ることは当時生業としていなかったし、ステージに立つのは嫌だったんですけど。Co-founderの友達がステージをやっていて、そこでドイツと日本のモバイル市場の話をするという感じでした。彼が質問を振ってくれて、僕がそれに答える形でした。それが初のステージだったんですが、当時のオーディエンスって500人とか600人とかで、吐く思いをして。そこから絶え間なく年間15-20本、多いときは30本くらいをやるようになって、それでだいぶ慣れました。「何を伝えたいのか、エッセンスは何なのか」っていうことを叩き込んで話すのを心がけています。


Zak:スピーチをやる時は、原稿を記憶するのではなくて、エッセンスだけ押さえておいてそれを触れるように、という感じでやっているのですか?

Kei:そうですね。パッとインスピレーションが生まれた時に、スライドに写真だけ20枚から30枚くらい並べるんです。気が向いた時に、そこにヘッドラインと何が言いたいのかを入れていく。30枚とか40枚くらいのスライドを1枚30秒くらいでパッパッとやっていくので、プレゼンをするとスライドが多すぎると文句を言われます。ただ、メッセージはすごくクリアになっているはずです。


その話をするのは誰のため? プレゼンで心がけるポイント。

Zak:Ariさんがステージに出る前に、ヘッドフォンして自分の世界に入るっていうリチュアル(*毎回やる習慣)をやっているのを見たことがあるんだけど、それはやっぱりトリックがあるの?

Ari:出だしって重要だと思うんですよね。オーディエンスって、最初の5秒間で本気で話を聞くか決めちゃうわけです。その5秒間の出だしで私に自信がなかったり隙があったりすると、オーディエンスに伝わっちゃうんですよ。「あなたに誠心誠意伝えたいです」っていう本気が伝わることが重要じゃないかなと思います。また、私はインスピレーショナルスピーカー、つまり情報を伝えることではなく、人の心を動かす、というスピーカーの部類なのですね。ということは、最初に出た時が結構な勝負だと思っています。自分を高めていかないと、最初の押しが弱い。緊張して不安なまま出てしまうと、それが伝わる。ステージの前にはハードロック的な音楽を聴きながら、「このステージで伝えたいことを絶対に伝えるんだ」って自分に言い聞かせて、テンションを上げて、体も動かすんです。音楽を聴きながらジャンプしたり手を挙げたり胸を張ったりっていうのを、だいたい30分前からしますね。

Zak:Keiはそういうリチュアルみたいなのは?

Kei:僕の中の"TRIBE"っていう法則があって、それをプレゼンをする直前におさらいします。Target、誰が今日のターゲットなのか。Relevance、この人たちが聞きたいストーリーは何か。Interest、面白いかどうか。Background、なぜ僕がこのストーリーを届けているのか。最後はExcitingかどうか。Ariさんがおっしゃっていたように、最初の印象でその後聞いてくれるかどうかって決まると思うんです。最初の5秒のエキサイトメントを届けるために、"TRIBE"の5つのポイントをおさらいして、ステージに上がるようにしています。

Zak:Keiはスタートアップのピッチのメンタリングもやっていると思うんだけど、スタートアップのピッチでもそういう"TRIBE"的なところを見る?

Kei:「ターゲットは誰?」ということと、その日のゴールをどう設定するかを聞いて、その中で"TRIBE"の5つのポイントがちゃんと押さえられているかというのを見ています。

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Zak:Ariさんは、特に女性の起業家のピッチを指導してきたと思うんだけど、女性の起業家に対してどういうことを注意するようにしているとかあります?

Ari:女性って、結婚するにしても男性に言われて結婚相手が決まるとか、子供の時から言われることを待つ社会の中で育ってきている。好かれることによってチャンスがもらえるというのを叩き込まれている中、自分から「私はこれができます」「あなたにこうしてほしいんです」「私に賭けてください」っていう生き方と言葉を学んでいないわけですよね。だから起業家になっても、男性に比べて遠慮がち。そうすると、「この人に本当にベンチャーができるんだろうか」と思われてしまうので、CEOとなった時はCEOのスーツをしっかり着て、「自分の夢を買ってください」という伝え方をすることが、すごく重要だと思います。女性はどうしても慎重になって小さめに自分の夢を語ってしまうので、その点は、よくアドバイスしていますね。

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世界の広い“STAGE”に上がり、自分にしか語れないストーリーを語ろう。


Zak:日本の起業家ってグローバルの起業家に比べると、言うことが大人しすぎる。日本人は遠慮がちで、大げさに話すのが苦手なような気がするんだけど、Keiはグローバルのいろんな起業家を見ていて何か感じることはある?

Kei:海外の人たちはビジョンを語るのが得意ですよね。日本人のスタートアップの方はやはり謙虚なので、ビッグビジョンが描けないというか、伝えるのが下手というか、そういうチャレンジはあると思います。海外の人たちは、オーディエンスに対して自分の夢を伝えるのが非常に上手い。ストーリーテラーですよね。日本はストーリーテリングのところをブラッシュアップしていかないと、いいものを持っていても、最初のピッチの関門で引っかかって先に進めないので、そういうところをやっていくのがいいかなと思います。

Zak:日本で育った人がグローバルに出ていって英語でプレゼンする時って、どうしても萎縮しちゃう。英語でも上手く表現できるようなやり方というか…どういうところを意識したらそれができるようになるんですか?

Kei:そもそもビジョンの描き方に関して、日本ではあまり訓練されていないと思うので、ビジョンを海外の人たちに聞いてもらってフィードバックを受けるのが一番いいと思うんですよね。日本人同士でそういう話をしていても、グローバル目線に絶対合わないと思う。海外では英語がネイティブじゃない人もビジョンをいろんな人に語って、フィードバックをもらいながらどんどんブラッシュアップしています。日本という市場に守られているスタートアップのファウンダーは、もっと外に出てコミュニケーションを図らないといけないと思っています。

Ari:スタートアップに関しては、ストーリーテリングが本当に重要です。多くの日本の方が会社のことやモノなどに集中してしまって、自分を売るということを忘れてしまいがち。CEOになる場合は、「私を信じてください」「私に賭けてください」ということをアピールしないと。自分たちよりデキるエンジニアは世の中にたくさんいるから、モノだけで戦っても負けるんですよ。CEOとして「私はこういうバックグラウンドがある」というストーリーや熱意を伝えないと、世界には通用しないですよね。

Zak:「CEOとして」というのは、演技している感じなのかな?どうやったら普段とは違うところに自分を持っていけるんでしょうか?

Ari:CEOになるくらいの方は、もともとかなり気は強いんじゃないかと思うんですよね。「普段の自分」の方がむしろ猫をかぶっている状態では? CEOとして本気で自分の思いを伝えている時こそが本当の自分で、「何かのフリをしている」ということではないと思うのです。

Zak:Ariさんは高校生の時にアメリカに行ったと思うんだけど、そこでは上手くなりきれたのかな?

Ari:ネットワーキングのイベントなどに行った時に、話し上手な人を遠くから見つめて「ああいう感じで表現したらいいのかな」と見よう見まねでやってみて、自分のスタイルを作りました。あとは、アメリカに住んでいて悔しい思いをしたからですかね。正しくないことを平気で「僕は絶対に謝らない」とか言われるわけじゃないですか。「次にこういう目に遭ったら絶対に言い返してやろう」と思って英語の練習をして、そうやって自分の意思を伝える練習をしました。

Zak:これからグローバルに出ていこうという日本の起業家に対して、アドバイスをお願いします。

Kei:日本のスタートアップの人たちと話をしていると、みんなサンフランシスコかロンドンに行きたいんですよね。世界はすごく広いので、自分が世の中を変える起点がそういうところ以外にもあるということを知ってほしい。幅広くいろんな人とコミュニケーションを取りながら、選択肢を増やしてアプローチしてほしいなと思います。

Ari:恐るるなかれ!どんなに怖くても、まずYESと言う。日本人であることを武器にすることもすごく重要だと思います。ステージに上がった時に、寿司を食べた人は何人いるか、その中でお腹を壊した人は何人いるかとか、日本に関わる冗談を投げてみる。「日本人って素晴らしいよね」と思っている人は多いので、まずは日本人というブランドを自分のアドバンテージにして、それから話すということも、すごくいいんじゃないかと思います。これから起業家さんにどんどん出ていっていただきたいので、頑張ってください。

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STAGEでは、トークセッション以外にもスタートアップピッチや対談を行いました。当日の様子は以下の動画をご覧ください。


Plug and Playでは、「To make innovation open to anyone, anywhere. イノベーションを世界中、そして全ての人に」をミッションに、国内外のスタートアップと大企業をつなぎ、アントレプレナーを支援しています。今後も様々なイベントを開催してまいりますので、ぜひ弊社ウェブサイトよりフォローしてください

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