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夏は鮮烈かつ無常な美しさに溢れている(月一フォトエッセイ)

窓の外、迫り来る黒い龍を見た。その咆哮は体を震わせるほどの雷鳴。巨大な雨柱とともに灰色の空を駆けてくる。ただ無力に濡れていくだけの世界。私たちはただ無事を祈ることしかできないちっぽけな生命。

叩きつけるような雨が過ぎ去れば、太陽の光が燦々と地上に届く。眩しく窓の外を眺めれば、そこには七色の光が橋を形作っている。

黒い龍は、あらゆる生命に恐怖をもたらしながら、同時に世界を満たした淀みを洗い流し、乾いた地上に恵みを与えさえする。厄災でありながら救世主、救世主でありながら厄災。この黒い龍をどちらとして捉えるかは、個々によって異なるのだろう。

濡れた世界は色彩が濃い。さっきまで霞んでいた景色が、まるで別世界のようにくっきりと、鮮やかに見える。黒い龍は世界をまるごと塗りかえてしまう神様なのか。水たまりに映る青い空がパラレルワールドの証明だとしたら。そちらの私は元気に暮らしていますか。

強烈な太陽光から逃げるように、たくさんの鳩たちが公園の木陰に集まって、ぺたりと座り込んでいた。一方、羽毛が濡れた鳩たちはあえて日向を選んで羽を乾かしていた。元気な鳩が私の足もとを横切る。君はそのまま元気でいてくれ。

無事を祝う精霊たちが織り成した七色の橋は、ゆっくりと、時間をかけて消えていった。

いくつになっても、虹が見えたら「虹だ!」とテンション高く指させる人間でいたいと思う。歳を重ねれば重ねるほどあらゆることが“経験済み”になって、世界に対する新鮮味が薄れ、感受性が希薄になっていく。それが私はとても怖い。

でも、宇宙のほとんどの物質はいまだ解明できていないダークマターだし、人類はまだ海のほとんどを探索できていない。

行ったことのない場所、食べたことのないもの、見たことのない景色。自分自身という小さな規模でも、一生をかけてもやり尽くせぬほどに、肌で感じられていないものごとが大量にある。そう考えたら、「世界に対する新鮮味」は、生きていれば感じられるものではなく、自ら得ようとして得ていくものなのだろう。

青い龍の背中にしがみついて、黒い龍の軌跡をたどる旅。虹のアーチを何度もくぐる。ときどき入道雲をちぎってかじる。地上はきらきらと輝いている。黄色い花たちが夏風に揺れている。その花畑のすきまから、妖精たちがこちらに手を振っている。

夏、かつて死のうとした季節。

ドン、と身を震わせるような音がして目を開ける。電車の窓から夜空に大輪の花が咲くのが見えた。次々と打ちあがる花火。ガラガラの電車の中、わずかな乗客は皆その花火を見つめている。

夏、鮮烈かつ無常な美しさに溢れる季節。




























折本配布のお知らせ

みんな元気にしてますか?もう八月も終わりだというのに、暑い日々が続きますね。こういうときは無理をせず、よく寝てよく食べるに限る。アイスおいしい。

さて、ただいまコンビニのマルチコピー機の「ネットワークプリント」を使い、上記の文章と写真から抜粋して作った折本を配布しております。カバンの中や手帳のあいだに潜ませて、心を鎮めたいときや一息入れたいときなどにパッと開いてみてはいかがでしょうか。


折本とは?

一枚の紙をカンタンに折りたたんで作る本のこと。A4サイズの紙の片面だけに全ページを印刷し、皆さんの手でちょっと切り折りしていただくだけで小さな冊子が完成します。

ネットワークプリントの利用方法

お近くのコンビニにあるマルチコピー機をご利用ください。A4サイズのカラー片面印刷で1枚60円(こちらは印刷代で、私の収益にはなりません)。フチ・余白・ちょっと小さめ設定は「なし」推奨です。

配布期限が一週間程度となっているので、ご希望の方はお早めに!


◇セブンイレブン
予約番号:77613961
(2023/09/07 23:59まで)
利用法はこちら↓


◇ローソン・ファミリーマート
ユーザー番号:HLWB99BJW5
(2023/09/08 17時頃まで)
利用法はこちら↓


折り方

一か所だけカッターで切れ込みをいれる必要アリです。



月報

とにかく働いた一か月だった。世の多くの人たちが夏休みを楽しんでいるときは逆に働きたいタイプである。なぜなら休みだとしてもどこに行こうが混んでいるから。ド平日が休みのほうが嬉しい。

八月最後の四日間はささやかな連休。立川で開催中の「エルマーのぼうけん展」に行ってきた。児童文学『エルマーのぼうけん』シリーズの中に入りこんだかのような体験ができる展示やたくさんの原画、グッズショップはかわいいものだらけととっても良かった。

なかでも展示の最後に設えられた「ぼうけん図書館」が最高に楽しかった。そこは各界の著名人が選んだ冒険に関する書籍をはじめ、たくさんの本が置かれた空間で、それらを自由に読める。ふと手に取った絵本に思いがけず胸を打たれたり、ドラゴンの飼い方が書かれた本にフフッとなったり、『ミッケ!』が懐かしすぎて没頭したり。一時間は居座ってしまった。それでも足りない。あそこは余裕で一日いられるぞ。

こっちに親御さんに読み聞かせしてもらっている子どもがいると思えば、あっちではおとなが小説に夢中になっている。子どもとおとなは地続きで、おとなは皆かつて子どもだった。おとなになれば現実の比重が大きくなって、幼少期に抱いていた夢想をどこかにしまわずにはいられないのかもしれない。でも、きっとそのきもちをまるごと忘れるわけではない。なんだかそう信じたくなった。


おまけ:夏ビンゴ
みんなはビンゴなりそう?
折本の裏表紙にも入れときました


今月のプレイリスト

ゴスペラーズ/Summer Breeze

チョコレートプラネット/君のナツ、ユビサック

ジェニーハイ/夏嵐


 

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夏の思い出

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