ここはいつか死によって目覚める夢の中

2023年12月30日 19:13

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白い息。きりりと肌を刺すような空気。師走の頭の冬はどこかやる気がなく、妙にあたたかかったけれど。ふとんにもぐったまま出られなくなる私たちのように、冬も寝起きが悪いのだろうか。最近になってようやく目を覚まし、本来の力を発揮してきたみたいだ。

ここは一年の終わり。2023年も今際の際。

戻しも戻れもできない「時間」を思う。一年という区切りも、人間が自分たちに都合の良いように設けたものでしかない。人間が一人残らず姿を消して暦もなくなったとしても、地球は回り季節は巡る。人間がいた領域には植物が根を張っていき、人間以外の動物たちが闊歩するようになるだろう。そうして何もかもが本来の無意味に還り、すべて忘れ去られていく。

何もかもいつか必ず終わりを迎える。この命も、あなたの命も、世界すらも。そのひとつとして、この一年もまた終わる。

私たちは人間のエゴによって生み出された「2023年」の死を見送り、新たに生み出される「2024年」の誕生を祝って朝日を拝む。

太陽は不思議そうに私たちを見る。人間はたまにそろって自分のことをありがたがって見つめてくるときがある。自分はずっと同じ場所にいて、地球はぐるぐると回って、いつもと何も変わらないと言うのに。

星から見たら何の意味もない行為。それでもただ一方的に進む時間に区切りを設ける、そうすることで私たちは夢を見続ける。「今年はあれができた、これができなかった、来年はこっちをがんばって良い一年にしよう」と。無意味な生に意味づけをする、そのきっかけとして区切りを使っている。

死とは夢から覚めることなんだろうか。

良い夢を見ている人はこのまま覚めたくないと願い、悪い夢を見ている人は早く目覚めたいと願う。あともう少し進めばというところで無慈悲に目覚めさせられてしまう人もいれば、悪夢を終わらせようとして失敗し、かえって悪夢に閉じこめられてしまう人もいる。

「神様は乗り越えられる試練しか与えないんだよ」と言う人がいるが、それは綺麗事だ。もし本当にそうだとしたら、虐待によってまだ幼いのに亡くなってしまった子どもも、酷い誹謗中傷によって折れてしまった命も、「乗り越えられなかった」の一言で片づけられると言うのか。

「もっとつらい人もいるよ」「生きたくても生きられない人だっているんだよ」と言う人がいるが、だからなんだ。今ここに在るほかでもないこの自分だけの生が苦しくてたまらないのに。つらさの尺度は千差万別。「あの人はもっとつらいんだからあなたはまだつらくない」なんて、誰が勝手に決められるものか。

目覚めに救済の匂いを感じる人は、それなりにいるのではないか。

覚めたらすべてが無に還る。築いた人間関係も、成した財も、好きで集めたコレクションも、夢から覚めたその命自体にとってはもう何の意味も持たない。意味を持つとしたらそれは夢の中に遺された人たちにとってだけ。

物質の類はせんぶ夢に過ぎず、目覚めた先にあるのは純白の無なんじゃないか。なんて、勝手に考える。

仮に世界がそういうものだとして、私は「早く覚めてほしい」と思いながら、同時に「どうせなら良い夢を見たい」とも感じる。

冬の風に吹かれて乾いた葉が舞い、土に落ちる。そうやって色彩を失っていく世界に、いつの間にかサザンカの赤が灯る。サザンカの花言葉は「ひたむきさ」「困難に打ち克つ」。

うつむきながらでも歩いていけば、周りが落葉の季節を迎える頃にようやくあたたかく咲く夢もあるかもしれない。世界は無慈悲だからあくまで可能性のひとつに過ぎないけれど、ここはどうせいつか覚める夢の中だから、願うも願わないも、寝るも空を飛ぶも自由だ。

2023年の今際の際、この区切りにせっかくだから祈っておくことにする。私の生きるこの夢が、新たに生まれる2024年のうちに少しでも良い夢になりますように。ここにいるあなたの生きている夢がもしも悪い夢であるならば、どうかほんの少しずつでも良い夢へ、せめて可もなく不可もない夢ぐらいには変わっていきますように。

どうか、よいお年をお迎えください。