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【企画物語】神山まるごと高専が描く教育のミライ


1.セミナーについて

 「地方創生の聖地」という異名をもつ、先進的な地域創生で知られる徳島・神山町。
 そこに国内で約20年ぶりに新しい高専が開校しました。
 それが、神山まるごと高等専門学校です。
 目指す学生像は、「モノをつくる力で、コトを起こす人」。
 テクノロジーとデザインでモノをつくる力を育み、実際にそれでコトを起こす起業家精神を学ぶことができます。

 創立メンバーで、神山まるごと高専の事務局長を務めている松坂孝紀氏にご登壇いただきました。実社会につながる学びを勤務校でも何かできないか考えたり、変化が激しく不確かな現代において、教育や学校の目的を考えなおしたりする機会を作りたいと考え、セミナーを開催しました。


2.なぜ本イベントを企画したのか

①神山まるごと高専がどんな学校か知りたかった

 「神山まるごと高専」という言葉を今年度たくさん目にしました。調べるたびにSNSやHPがオシャレで、“なんてイケてる学校なんだ”と思ったのが第一印象でした。そして“起業家が作った学校”と聞いてますますワクワクしました。開校して1年らしい…。しかし、多くのことは分からずミステリアスな学校というイメージが強かったです。
 どんな学校か知りたい!この気持ちから始まりました。

②学校現場で行っている教育は社会につながっているのか

 調べていくうちに、神山まるごと高専の理念や哲学を目にする回数が増えました。起業家が作った学校。コトを起こし、社会で活躍している人が、社会で必要なことや身につけたい力を逆算して設計されています。

 学校現場で働く身として、今自分が行っている教育は、本当に社会で活かされているのだろうか。こんな疑問や不安が押し寄せてきました。そして、学校に求められているものは何だろうか。神山まるごと高専と全く同じような実践はできないけど、何かヒントは得られるのではないだろうか。

 この問いを解決し、教育に携わる人たちと共有して、全国の教育現場をHAPPYにしたい。教育に熱い人が集う学校CHLOOSでこの企画を会議に提案したところ、神山まるごと高専の創設に携わっている松坂孝紀さんと顔見知りのメンバーがおり、企画が実現することとなりました。

3.イベントを終えて学校現場に還元したい2つのこと

①起業家精神こそ教師が持ち、子どもに見せるもの

 「見切り発車」、「失敗」、「スピード感」、「ピボット(軌道修正)」、「β Mentality(β版、試作)」、…イベントでは様々なキーワードが出ました。

 2019年、神山まるごと高専の構想が発表された際、現在と大きく異なる部分がいくつかありました。「野武士型パイオニアを育てる」、「焚き火を囲んで面接」。今では考えられないことばかりですが、この未完成の状況でもスタートし、ピボット(軌道修正)を繰り返し、現行の形となりました。
 また、徳島県神山町は人口5000人と小さな町ですが、人と異なる選択を応援する風土があり、新しいコトを生み出す町と言われています。だからこそ神山町で新たな高専が始まりました。

 まずは大人が「始める」。
 「失敗」を恐れず、「スピード感」を持って進める。
 上手くいかなかったら「軌道修正」する。
 「試作」を繰り返していき、「解像度」を上げていく。

 松坂さんは中学校で神山まるごと高専についてお話する機会があります。
 40人の中学生に「起業に興味あるか」尋ねたところ手を挙げたのは1〜2名。全く手が上がらないこともあるとのことです。人と違う選択をすることに恐れを感じていることが分かります。
 
「新しいコトが生まれるのは、人と違うことをたくさんしているということ」

 神山町のように、学校現場も人と異なることを歓迎する「環境」にしたいと思いました。

②理念こそ、ぶれない芯となる

 イベント中にこんな話がありました。

 学生時代、学んでよかったことは?と聞くと、何も返ってこない。
 学んでおけばよかったことは?と聞くと、たくさん返ってくる。
 この大きなギャップにこそ社会に出て役立つ学び、これからの時代に必要な学びがある。

 起業家たちが心からほしいと思った理想の学校。
 これが神山まるごと高専です。

 目指したい生徒像は「モノをつくる力で、コトを起こす人」。
 テクノロジー×デザイン×起業家精神を柱と置いたカリキュラム、志願者とのマッチングを図るユニークな入試問題、魅力的な英語の授業や海外研修(詳しくはアーカイブをご覧ください)。これらも何を学ぶのか、何のために学ぶのか、どう活かされていくのか、が理念実現のために設計されています。

 神山まるごと高専では理念、哲学が共通言語として学校全体で共有されています。
 私がイベントで感銘を受けたことの1つが、運営方針でした。

 ここは小さな社会。あなたは大人。
 学生も、学校や寮のルールをつくる一員。
 たくさんの「余白」の中で、一緒につくりあげる。

 誰かが決めたものの中で生きていくのが、学生というイメージがありますが、神山まるごと高専では入学した15歳の段階で、「あなたもルールを作る一員であり、ルールを変えていくことに向き合うことができる」ことを教えています。

 そのための仕掛けも興味深かったです。
 例えば、ルール。
 多くのルールは、失敗を避けるために作られており、失敗やリスクが増えるとルールが増えていきがちです。神山まるごと高専は、完璧なルールではなく、そしてミニマムな美しいルールでもなく、隙のあるルールを作り、生徒に違和感を抱かせるように設計されていました。ルールを変えることは大変だが、社会を変えることも同じ。こんなことを生活を通して学ぶことができます。

 イベント中、大変チャットが盛り上がり、こんな意見も出ていました。

 子どもの失敗を避けるためのルールなのか。
 学校の失敗を避けるためのルールなのか

参加者の言葉も深かったです。

4.最後に

松坂さんがイベントの最後の質疑応答で話された言葉です。

「自分で何かチャレンジすること。予定調和な学びではなく、上手くいっても失敗してもいいから、やり切ったねというものをとことん見てあげる。失敗を経験しないまま、高校に行ったり社会に出ると、失敗から立ち直る術が分からないので失敗から立ち直れない。失敗してもいいよの場をどこかで作れたら。」

「とことん好きなことをやってみたら。(中略)目の前にあることを本気でやってみたら
、その先に何かが広がってるかもしれないし、何かが広がっていったなって思うくらいやり切ってみたらって(小学生に)伝える」

 一教員として、大切にしたいことは分かってるはずなのに、「将来が」とか、「周りの意見が」とか、「大変だから」とか、自分の価値観が簡単にぶれてしまいそうになることがあります。きっと無意識のうちに大人である私が失敗や変化、不測の事態を恐れていて、挑戦することに臆病になっているのかもしれません。もしかすると、失敗できない教育を生きてきたのかもしれません。そんなことでは、子どもも失敗を恐れ、挑戦するのを恐れてしまいますね。
 大人が失敗すること。本気になること。大人が限界を作らないこと。
 企画した私自身が、一番背筋を伸ばしていただきました。
 松坂さん、素敵なお話をありがとうございました。
 
しょうや@中学校教員

5.参加者の皆さんの声

・起業という視点は、義務教育の中ではなかなか得られない視点です。大変勉強になりました!若いっていい!どんどんチャレンジ!そんな姿を応援するエネルギーをいただきました!!ありがとうございました!
・民間の学校を作るのはすごく大変だなと思いました。またそんな環境で学んでみたいと思いました。
・一つの学校をつくるということの大変さと面白さを同時に味わうことができました。最後の時代が変わる中、学校は変わっていけるのか?という投げかけが、とても印象的でした。神山まるごと高専から、変わっていくミライにワクワクさせられた90分間でした。ありがとうございました。
・小学2年生の母です。とても魅力的な学校で、私の時代にもこんな学校があったら…と思ってしまいました。育児でももっと余白を意識して接してあげないと、と気付かされました。ついつい口うるさくなってしまうことがあるので。子ども自身が夢中になれるものを、純粋に応援できるようにしたいと思います。また子どもたちの未来のために、奨学金基金の寄付をされた企業がこんなにたくさんいるということに、日本の未来はまだまだ暗くないなと感動しました。ありがとうございました!
・今の世の中にあった学びを体現されていると感じました。全国の学校が神山まるごと高専を視察して、子どもたちに何を学ばせるために何をしているのか、振り返るような機会があるといいと思ったほどです。今後の神山まるごと高専にも注目したいと思います。
・お話がとてもおもしろく親子で学ぶことが多くありました。入試のスタイルも入試のために勉強するというものでないのがおもしろいですね。子供も神山まるごと高専に興味深々でした。
・子どもたちのために、日本のこれからのために、強い信念の上に築かれた学校で、子どもたちの未来に希望を感じました。小学生の息子にも学校紹介ムービーを見せましたら、山あいの風景や学校らしくない校舎•学びスタイルに、目を輝かせておりました。子どもたちが能動的に学びを追求した先に、このような学校の選択肢があると知れたことは、とても大きな意味がありました。
今日は、家庭の都合で顔出しができないままの参加となり、大変失礼いたしました。子どもを寝かしつけている傍らで、必死にメモを取りながら拝聴いたしました。”多くのルールは失敗やリスクを避けるためのもの”というお話は、親としても考えさせられるものでした。貴重なお話を、本当にありがとうございました。
・生徒さんなどみたいに自分も自発的に色々なプロジェクトなどを立ち上げてみたいと思いました!
・神山町を訪れてみたいなと感じました。
・"こんな素敵な学校に普通家庭の子供が通えるなんて!!です。
そのための多くの困難も紹介いただきましたが、実際の活動では相当だったと思います。
子供たちのためにこのような取り組みに挑戦していただきありがとうございます。"


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