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別れの季節。言葉を使わないでも、思いが伝わるとき。

別れの季節。
5年生が終わろうかというとき、Aちゃんが転校することになった
急のお知らせ
Aちゃんの母親が、参観日の後に残って教えてくれた
ショックだった
Aちゃんもショックだろう
学級のみんなもつらい時間を迎えることになる
翌朝、Aちゃんを呼び出して、クラスのみんなに転校の事実をどう伝えるか聞いた
Aちゃんは泣き泣き言った
「先生が言ってください」
「わかった。みんなに話したいことはある?」
「あります」
ということで、最後にAちゃんが自分の思いを話すことになった

学級のはりつめた空気
ただならぬ私の様子に、机の上に手を置いていた子も、自分から下げて私を見つめた
転校のことを話すと、泣き出す子がいた
Aちゃんも語った
「夜寝るときに、このクラスで修学旅行に行けたら、どんなに楽しかっただろうと思って寝ます」
という一言に、胸がしめつけられた
転校先で知り合ったばかりの友達と行く修学旅行が不安なのだろう
そして、このメンバーが大好きだから、一緒に行ければどれだけよかっただろう、という思いも感じた

しかし、そのことも叶わなくなってしまった

どれくらいの時間思ってきたのか
そのことを思うと、なんとも言えないつらい気持ちになった
父親の転勤
どうしようもない事実だった

話が終わって、机に戻って泣いているAちゃんがいた
そして、その周囲に一人ずつ、友達が集まってきた
下を向いて泣いているAちゃん
話をするわけでもないのに、涙を流す子が一人、また一人と増えていった
ただただ、一緒に泣いているのである

ぼくには、この光景こそが仲間のすることなんだと素直に納得した
どんな言葉をかけても、なんのなぐさめにもならない
ただただ、Aちゃんを好きな気持ちで泣いている
それで、十分心が伝わるのだ
一緒にただ泣くこと
自分の思いを伝えるために、言葉を使うことがふさわしくないときもあるのだと
ただただ、子供たちの涙を見て思った出来事だった
                     三浦健太朗


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