ヤマメの塩焼き

職場でヤマメをもらった。田舎あるあるで、日頃からきゅうりやミニトマトなど食材をもらえることがしょっちゅうである。しかしながら川魚はなかなか珍しい。
ヤマメは模様が色鮮やかで、それでいてとても美味しい。私は幼少期から魚図鑑を眺めることが好きで、ヤマメのパーマークをじっと見ては惚れ惚れしていた。

ヤマメを持ってきた人は言った。「オスとメスをそれぞれ持ってきたよ。メスよりもオスの方が美味しいから一匹ずつ平等に持って行ってね」
ある人が尋ねた。「どうしてオスの方が美味しいの?」
その回答はこうだった。「メスは産卵で子どもに栄養を持っていかれるからね、体がもうボロボロなんだよ」
それを聞いたパートの女性陣はどっと笑った。

女性陣は「私たちも子ども産んでるからもうボロボロだね」と笑いあっていた。
私は「そんなこと言わないで」と思ったけれど、ぐっと言葉を飲み込んだ。

モヤモヤとした気持ちを抱え、ヤマメを持ち帰った。余ってしまったからということで多くもらえることになったのだが、なんとなくメスを多めに貰ってきた。

メスの下処理をしていると卵が体中から出てきた。卵はいくらにそっくりで、パンパンに張っていて、神秘的な黄色をしていた。お母さんが身を削って育てていたのに無駄にしちゃってごめんねと心底思った。
ヤマメは人間みたいに望んで子どもを授かるだろうか。自然の摂理だから子どもを産めば体がボロボロになるなんてどうってことないのだろうか。

まだ子どものいない私には、ヤマメの気持ちは分からない。子育てしている女性の気持ちも分からない。私もいつか、体がぼろぼろになることを笑って受け入れるんだろうか。

メスのヤマメの塩焼きはとても美味しかった。川魚特有の香りがヤマメたちのこれまでの生活を思わせた。身はふっくらとして、上品な旨味が口の中にやさしく広がった。私はそのことがとても嬉しかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?