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名画「レナードの朝」に打ちひしがれた話

はじめに

先日、長野グランドシネマズで「レナードの朝」をはじめて鑑賞しました。
"午前十時の映画祭"という全国の映画館で行われている企画のおかげで、「レナードの朝」は30年以上前の映画ですが、2023年に"映画館で観る"という体験をすることが出来ました。
「レナードの朝」はもう放映期間を終えてしまいましたが、午前十時の映画祭に興味のある方は下記をご覧ください。

きっかけ

私自身はこの映画のことを全く知りませんでした。そもそも映画には明るくない方です。(好きな映画は「ラ・ラ・ランド」)
そんな私が「レナードの朝」を観ることになったのは、何を隠そう映画好きの夫の影響です。

私にはふたつ上の夫がいるのですが、彼はとても映画が好き。そして英文学科出身ということもあってか洋画が好きみたいです。午前十時の映画祭で「レナードの朝」の放映が決まった時のは一年くらい前。その時の彼が本当に嬉しそうにしていたのをよく覚えています。(彼がほかに好きな映画は「カサブランカ」)
彼の心をここまで熱くするものはぜひ観ておきたい…そんなちょっぴり邪な気持ちから観に行くことにしました。

あらすじと率直な感想(ネタバレ含みます)

公式のあらすじなどは下記をご覧ください。

ストーリーとしては、医師と重症患者による闘病記を元に作られたフィクションです。
1969年、これまで臨床経験のない研究者タイプのセイヤー医師が神経病の専門医として勤めることから物語が始まっていきます。この病院には1915年から1920年代に流行した嗜眠性脳炎の後遺症で30年以上半昏睡状態になっている患者が多数いました。
セイヤー医師の献身的な診察により、これらの患者にある法則性を見つけます。そして、まだ認可されていない新薬(パーキンソン病患者向けの薬)に可能性を見出し、投与することを試みます。その被験者が嗜眠性脳炎の患者の中でも重症だったレナードだったんですね。
新薬の効果は抜群で寝たきりだったレナードはこれまでの状態が嘘だったかのように体を起こしました。(その後、同じ症状の患者たちに新薬を投与した結果、同じように皆目を覚ました。)
レナードは目覚めたその日にセイヤー医師と会話が出来、日が経つにつれて絆を深めます。そして別の病棟で見舞いに通っていた女性ポーラに恋をします。
目を覚ますと30年以上の年月が経っているという浦島太郎状態の患者たちでしたが、日々がまためぐり出したことにこの上ない喜びを感じ、これまでの生活を取り戻すかのように、目覚めた後の世界に適用していこうとします。しかしながら新薬の効果は一時的なもので、徐々に体はまた痙攣し、硬直し、元の半昏睡状態に戻ってしまうという残酷な結末でした。

一言では言い表せないのですが、生きることの尊さ、自分の意志で体を動かして生きることが出来ていることの有難さを再認識させてくれる内容でした。
事前情報を全く入れずに鑑賞したため、話の展開を追うのに必死でしたが何度も感情の波がぐっと押し寄せてくる展開があり、涙なしには見られませんでした。

セイヤー医師が映画の終盤で、"自分がしたことは凄く残酷なことだったのではないか"と思い悩む場面があり、とても考えさせられました。昏睡状態だったレナード達に生きる喜びを再度与え、そしてまた奪う結果となってしまった。でも、新薬に挑戦してみなければレナード達は意識を失ったままこの世を去っていったのかもしれない。どちらが良い人生か、それは誰にも判断できないことだなと思います。これが実話だというのだから、本当に切ないです。

とはいえ、レナードが目覚めるまで新薬をどんどん増量して投与するシーンが個人的にはちょっと怖かったです。ちゃんと効果を得られたから良かったものの、完全に実験なのでレナードの身に何が起こるか本当に分からない。それを医師の判断で(もちろんレナードの母親や病院の理事に許可は得ていたけれど)実行できてしまうのが怖いなと思いました。

映画を観た後にじんわりと気になったのは邦題「レナードの朝」について。どの朝のことを指すのだろうと余韻に浸りながら夫と語り合いました。新薬を投与して久々に意識を取り戻した朝なのか、それとも病状が戻ってきてしまい「今ここで眠ったらまた昏睡状態になるのではないかと怖いんだ」と言って怯えて迎えた朝なのか。
原題は"Awakenings"目覚めなので、翻訳者のセンスが光る良いタイトルだなあと思います。

映画を観た後のいつもの日常

余談ですが映画を観終わった後、帰路にある人気のパン屋でパンを買って、近所の河原でランチをしました。
私はその河原が大好きなのですが、この映画を観た余韻の抜けないなかで味わう景色は本当に美しいものでした。
夫と朝から映画館に行ったこと。夫の好きなものを同じように楽しめたこと。河原で幸せな気持ちでパンを食べたこと。すべてが眩しく、有り難い現実だと思いました。
映画の中でレナードが、病院の窓から太陽を見つめ、換気扇の下に行って目を閉じながら風を感じている場面がありました。当たり前にあるもの、本当に何気ないもの、それらひとつひとつが今ここにしかないかけがえのないもの。そう教えてくれた気がします。
私はいつも精神的に不安定で先のことを考えると怖くなるし、いつも時間に追われていて何のために生きているのかよく分からなくなる瞬間がありますが、この映画を観たおかげで、生きるとはどういうことなのか原点に戻れたように思います。

ぜひ多くの人に触れて欲しい映画だと思いました。

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