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アホウドリの真理子さんに聞いてみた1/4「真理子さんの好きなものとの距離感」

こんにちは。「ちょど研」研究員の巣内です。
「ブランドと生活者のちょうどいい距離感研究所」の2回目の取材です。前回は王道なD2Cブランドの取材だったので、今回はちょっとユニークな視点からの取材にしたいと思います。
「ちょど研」は企業と個人、両方とも取材対象です。今回のインタビューイは、個人と企業の中間に当たる方かもしれません。

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今回、お話を伺うのは、要町のご飯屋「アホウドリ」の店主・大石真理子さん。アホウドリは、ケータリングとお弁当の販売、社食など「ご飯」にまつわる事業を展開しているお店です。
そんなアホウドリの真理子さんに、ブランドとユーザーの距離感について、色々と聞いてみました。

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大石真理子さんの好きなもの

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巣内 今日は、「要町の心と胃袋のオアシス」でお馴染みのご飯屋、「アホウドリ」の店主の大石真理子さんの取材に来ました。よろしくお願いします!

大石 よろしくお願いします!

巣内 僕らは、ブランドというモノを、服とか映画とか食べ物とか、いろんなものがあると解釈してるんですが、真理子さんの好きなモノとか人ってなんですか?

大石 好きなのかどうかはわからないですけど、執着してるのは、アホウドリのある要町という町ですね。好きなものは…最近いろいろ器を見ているんですけど、池本惣一さんの器と、根本裕子さんが作っている「SANZOKU」の器からは、なぜか目が離せないですね。お二人とも、店舗でもオンラインでもあまり販売をしない方なので、SNSをチェックして展示会に行ったりしています。

巣内 まずは、池本惣一さんの器との出会いから聞かせてください。

大石 池本さんは、最初に出会った時から特別ぐっと来たわけではないんです。でも、猫のマグカップを一個買って連れて帰ったら、使っているうちに、なんかいいんですよね。うちの子どもとかも、そのマグカップを「にゃーにゃ」って呼んだりしてて。今、洗練されたすっきりしたのが流行ってるじゃないですか。そういうのとは違う雰囲気なんですけど、なーんかいいんですよね。家の中にあると。あったかい感じもあるんだけど、それを押し売りしてるわけでもなくて。

池本さん

(※真理子さん所有の池本さんの素敵な焼き物)

巣内 池本惣一さんの器、絵柄の空気感が真理子さんっぽいなと思いました。

大石 描かれている動物とかにも、ちょっと突っ込みどころがあるんです。でも、それが自然体でなんかいいんですよね。作家物の器で、動物のかわいい絵柄であえて変なポーズしてるのとかあるじゃないですか。「この絵柄でこういうの描いちゃうんだ」みたいな。池本さんの器は、そういうわけでもなくて。狙いが少ないんですよ。

巣内 マーケティングの発想で狙った感じがないのがいいんですね、きっと。

大石 そうなんです。だから家にあってちょうどいいし、日常の中で使いやすい。

巣内 もうお一方の、「SANZOKU」の根本裕子さんは陶芸家であり、2020年に岡本太郎現代芸術賞展で、岡本敏子賞を受賞した方ですね。どんなところがお好きなんですか?

大石 「SANZOKU」さんは、私も一個しか持ってないんですけど、逆に癖がありすぎるんです。伊勢丹とかで展示している機会があると買いに行くんですけど、私にとっては、目当ての器がなかった時は他のはもう買わない、というタイプの方で(笑)。

巣内 先程の池本惣一さんと比べると、この方はもっとフルスイングされていますね。デザインも。

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(※根本さんの素敵な焼き物)

大石 ここまでフルスイングされてると、いいですよね!SANZOKUさんだから何でもほしいわけじゃなくて、SANZOKUさんが作った上で、「これ」というほしいものがあるんです。ちなみに、今でも思い出すのは、オスカー像みたいな陶器を作られていたことがあって。当時は、何に使うんだろうなって思って買わなかったんですけど、後々振り返ると、「あれが一番欲しかった…!」って思うんです。

巣内 SANZOKUさんや池本さんの器は、どのくらいお持ちなんですか?

大石 マグカップを二対持ってたんですけど、一個水漏れがするからって返品しちゃったんです。でも今となっては、水漏れしててもいいから、手元に置いておけばよかったって後悔してます。あまり販売をしない方だから。もっとたくさん器を作って販売してほしい、という気持ちもあるんですけど、そうなったら多分違うんだろうなとも思うんですよね。

巣内 根本さんは、大きな彫刻作品とかも作りながら、「SANZOKU」という食器のブランドも並行されているんですね。器も手びねりで作られていて、彫刻のような雰囲気です。大きな制作物に向けられるパワーの延長として、こういう器が生まれているのかな、という気もしますね。

大石 そうなんです。あとは、なかなか手に入らない、というのもいいのかなって。前に、SANZOKUさんのマグカップを販売するイベントが恵比寿であって、予約してたんですけど、子どもが熱出して行けなくなっちゃったんです。例えば、インドって「呼ばれないと行けない」って言うじゃないですか。SANZOKUもそうなんだろうなって!

巣内 天の意志が決めてくれる、みたいな感じですね(笑)。

大石 手に入らないという意味では、もう一人の作家の池本さんも、スイーツ作家としての活動が多いから、器をあまり作らないんです(笑)。販売情報が知りたくてインスタをチェックするんですけど、「またおやつ焼いてる!」って。

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(※池本さんの美味しそうなスイーツ)

巣内 いつ販売されるかわからないからこそ、ファンとして、出るタイミングは逃したくない。真理子さんにとって、お二人の器はそういう存在なんですね。最初におっしゃっていた、要町への執着というのは、どういうところですか?

大石 とっかかりとしては、「西の女の町」と書いて要町というのがいいなというのがあって。あとは、何もないと思ってた場所に「何かがある」ということを、初めて経験した町なんです。「この町には何もないな」と、自分の中で決め込んでることって多いじゃないですか。反対に、「世田谷には何でもある」とか「六本木ってこういう町だよね」とか。世の中の誰かが作ったイメージを、無意識に飲み込んでいたり。そういう思い込みが、見事に覆された町なんです、要町は。自分がちゃんと歩いてないだけだった、っていう。

巣内 真理子さんは、アホウドリを始める前に、要町にある工務店「鯰組」の広報担当として働いていた時期がありますよね。その鯰組がリノベーションした古民家が、今のアホウドリの店舗にもなっています。そうして広報という仕事をしながら、町を歩いていた関係もあるんでしょうか?

大石 要町を面白いなと思ったのは、実は、鯰組で仕事を始める前なんですよね。鯰組が私の住んでるマンションの裏にできて、併設のカフェをオープンしたんですけど、土日に尋ねていったら、近所の美味しいお菓子などを販売していたんです。今振り返ると、キッチンがまだ充実していなかったから、という理由もあったんでしょうけど、それが町を紹介する案内所みたいな役割になっていたんです。

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巣内 真理子さんも、そこで紹介されていたお店を通して、要町を発見していったんですね。

大石 そうです。私自身は土日しか町を出歩いていなかったけど、平日しか開いてないお店とかもあるんですよね。平日の要町に、こんな世界があったんだって驚いたんです。自分が見てるものが全てじゃないなと思ってから、探求したくなりました。

巣内 意外と、すべての町にそういう側面があるのかもしれないですね。何もないと思っていた町でも、暮らしていたり、働いていたりすることから、だんだん知っていくという。

大石 今住んでる練馬区とかも、なるべく歩いたりして、一軒ずつのお店にランチで入ったりしています。「何かあるかもしれない」という目線で。そういう自分の行動が変わったきっかけになったのが、要町でしたね。

巣内 要町の今のお話は、歩くとか自転車に乗るとか、電車という移動手段から離れた時に発見があるんじゃないかなって思いました。

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(※IKEBUS)

大石 そうそう。それでいうと、私が今はまってるのは、IKEBUS(イケバス)ですね。真っ赤な車体が目印の、豊島区や池袋の主要スポットを巡るコミュニティバスです。IKEBUSのファンなんです。最大速度が19キロなんですけど、池袋の町中で、自転車で19キロ出し続けて走るのって、人が多いから難しいんですよ。だから、その世界って結構新鮮なんですよね。

巣内 天井が開いてると、気持ちよさそうですね!

大石 今コロナだから、窓が全開で気持ちいいですよ。一棟貸し切りとかもできるんです!あと、19キロの速度って、外の音も拾えるんですよ。速いと、そのスピードに気を取られるじゃないですか。

巣内 実際に見て移動することで、町をマッピングできる感じが面白そうですね。電車にはられている路線図とかって、実際に歩くと全然違う世界が広がりますもんね。


好きなものとの距離感

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巣内 今、真理子さんの好きなものをお聞きしましたが、要町という町や、池本惣一さんやSANZOKUさんの器も、毎日生活の中で接してるものですよね。それらの存在は、自分にどういう影響を与えていると思いますか?

大石 器は、日常を贅沢にしてくれてる、とかでもないんですよね。なんだろう。でもこの前、SNSをチェックしながら、「どうして私は、池本さんやSANZOKUさんにこんなに惹かれてるんだろう」って考えてたら、「この人達、器を作り以外のことをすごくたくさんしてるんだ。それがいいんだ!」ということに気づきました。さっきも言ったように、私は器が欲しいのに、池本さんはお菓子を焼いたり、根本さんは彫刻を作ったりしている。二人にとっては、器は全体の3割くらいの活動かもしれないんですよね。でも私には、それが刺さっているんだって。器の作家として有名な人だから欲しいわけじゃなくて、この人達の普段のベースが他にあって、その中の3割の時間で作っているものだから、惹かれるのかもしれないなと。

巣内 それが、独特の距離感を作ってるんでしょうね。

大石 お菓子を焼いたり、カメラを整備したり、家具を直したり。そういう、器以外の普段大事にしていることを見ると、だからこんなに器がいいんだなって思うんです。そういう人に私もなりたいと思うし、アホウドリが目指してる形も、それに影響されてるかもしれないですね。料理にばっかり打ち込まなくていい、という。

巣内 自分の好きなものを他にも持っていてほしい、ということでしょうか。

大石 そう。普通は、料理家といったら、仕事でも家でも料理して、料理が大好きみたいな人の方がみんないいと思うかもしれないんですけど、私はそうじゃないです。アホウドリのスタッフの中にも、「私、他の活動もしてるから料理のプロじゃないと思うんです」って言う人がたまにいるんですけど、「他のこともやってるからいいんじゃん!」と私は思うんです。

巣内 今のお話を聞いて、伊丹十三さんのことを思い出しました。伊丹さんは、役者やCM監督やデザイナーや編集者や物書きもしていて、色んな職業をやって最終的に一番フィットしたのが映画監督だったらしいんですよ。今の日本の社会だと、専従でやってないことに対して、本人が後ろめたいと思ってしまう空気があると思うんですけど、全然そんなことないんですよね。他のこともやっているからこそ、発想も巡ってくるし。

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大石 大谷がそのイメージ変えてくれるから大丈夫ですよ!

巣内 二刀流!(笑) あとは、複数の仕事をやってたほうが、キャッシュフローが分かれるからいいのかなと思います。専従だと、経済依存しちゃうから、「仕事が辛くても辞められない」ということもあると思うんですよね。だから、タッチポイントを複数もってる方が、働く側としても健全だし、仕事相手ともいい距離感が保てるのかなと思いました。

大石 そうそう、ちょうどいい距離! あとは多分、複数にパワーが分散されていると、受け取る時に重くないんですよね。ストイックに作られたものも美しいんですけど、そればかりに囲まれてしまうと、ものから受け取るエネルギーって結構大きいから、ともすると「それに比べて自分って全然だめだなー」って自己否定につながっちゃうこともあるんですよね。

巣内 今のお話、真理子さんの物事への距離感が現れていて、すごくいいですね。僕はナーバスだから、仕事していても「こんなの出せない…!」とか抱え込んじゃいます。

大石 私は商売として、食べ物という、消えるモノを作ってるということが大きいかもしれないですね。巣内さんの仕事は、ブランドのロゴとかずっと使われて残っていくものだから。料理も、衛生管理とか別の緊張感はあるんですけど、一皿ずつ芸術作品を作ってるわけではないので。そういう料理の世界もあるけど、私のはそうではないので。

巣内 でも、アホウドリのお弁当の見栄えとか、すごく完成度が高くてきれいですよね。

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大石 それは訓練と研究と、あと同じチームで繰り替えすことですね。スタッフからも、ケータリングやりたいとか、新しい企画に関する意見もいろいろあったんですけど、お弁当をひたすら繰り返すことにしたら、みんなめちゃめちゃきれいにお弁当詰められるようになりました。

巣内 お弁当の詰め方に関しては、マニュアル化はできない、決まってないと前に言ってましたよね。

大石 センスなんですよね。でも、それは日々繰り返すことで磨かれていく。

巣内 書道とか武道みたいな。道ですよね。毎日身体を使って繰り返すからこそ、洗練されていく。

大石 大事なのは、フィジカルの部分なんですよね。

巣内 なるほど。真理子さんの、好きなモノや人に対する距離感が、お話を聞きながらよくわかった気がします。ありがとうございます! 今回は、真理子さんのパーソナルな部分からお話を聞きしましたが、次回は、いよいよ「アホウドリ」とユーザーの距離感について、探っていきたいと思います!

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ちょど研サムネ_2


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