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11月18日、レジとサガンと自己診断

11時ごろに目が覚めると、昨日の頭痛が嘘のように影を潜めていた。何の苦痛もなく歯を磨いたり、朝食を食べたり、洗濯物を干したりできることがウキウキするほど嬉しかった。病気の後は当たり前のことに感謝したくなる。この気持ちを永久保存できたなら、きっと毎日幸せに生きていけると思う。多分、明後日には忘れているだろうけど。

就職に向けて何かしようと思った。だから図書館に行くことにした。僕は昔から何をするにせよ、家の中では気が散って集中できないタチである。カフェだとお金がかかるし、会計時にやたらと緊張してしまうのであまり行きたくなかった。スーパーでもカフェでも中華料理屋でも、レジでの自分の立ち振る舞いについて、後になって反省会を開催してしまう。僕はそういう種類の人間だ。

図書館に向かう大通りの歩道には等間隔に街路樹が植えられている。黄色や赤に色づきながらも、やや縮んだ木の葉は、近づきつつある秋の終わりを感じさせた。道に溜まった落ち葉がカサカサと音を立てる。軽く前後に振れる、左右の手の甲を撫でる冷たい風が妙に心地よかった。

図書館に着くと不思議と安らいだ気持ちに包まれた。膨大な数の本があって、皆が皆本を読んでいる図書館という空間が好きなのだと思う。僕は転職関連の本を2冊と、サガンの『悲しみよ こんにちは』が収録された世界文学全集を持って自習席に腰掛けた。昨日観た映画にサガンの作品が登場していて、読みたいと思っていたから見つけられて嬉しかった。

転職に関する本のうちの片方はいわゆる性格診断の本なので、この場で読んでみることにした。内向型か外交型か、思考型か情緒型かなど性格の特性を判別するための設問が続き、最終的な診断結果によると僕は芸術家タイプらしい。向いている職業として、ライターや編集者やグラフィックデザイナーなどの少し興味のある職業が挙げられていたので「おっ」と嬉しくなった。けれど、試しに他の診断結果のページも読んでみると、そこにも同じ職業が挙げられていたので「結局誰にでも当てはまることを言ってるだけなんじゃないの??」とケチをつけたくなった僕はひねくれているのだろう。

帰りに駅前のダイソーに寄った。床に直置きしてあるカバンたちを引っ掛けるための「ドアフック」なるものが欲しかったのだけど、適当なものが見当たらなかったので店を出た。行きに通った大通りの歩道を家へと歩き、暗闇に浮かぶ家々の灯りを眺めながら、この辺りはやたらと上品で小綺麗な家が多いなあと思った。もう何十回もこの通りを歩いているのに飽きもせず、毎回同じような気持ちを抱いてしまう。きっと僕は明日も同じ景色を見て、同じように感心するのだろう。

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