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「善悪」と「勝ち負け」は別

ローマ法王の発言

ウクライナ戦争、終わりの見えない膠着状態が続いていますね。
そんな中、3/9にローマ法王が注目の発言をされ、ウクライナから強い反発と批判の声が上がっています。

ロシアの軍事侵攻を受けるウクライナをめぐって、ローマ・カトリック教会のフランシスコ法王は、9日に公開されたメディアのインタビューで「最も強いのは国民のことを考え白旗をあげる勇気を持って交渉する人だ」などと述べました。これにウクライナ側は不快感を示し、ローマ法王庁は降伏を促したものではないと釈明する事態となっています。

NHK news



この発言だけ聞くと、ウクライナが反発するのもわかる気がします。
みなさんはこのローマ法王の発言についてどう思われますか?


ローマ法王ってどんな人?発言の真意とは?

まずはローマ法王について。
世界に13億人もいるというカトリック信者にとって、ローマ法王は「神の代理人」。その影響力は絶大で、世界を動かす力を持つとまで言われています。
その権力もさることながら、現ローマ法王であるフランシスコ氏は、下記の3つの理由により2013年の就任以来世界的な人気を誇っています。

⑴弱者に寄り添い、自らは質素な生活を実践
⑵万人に伝わるよう、これまで良しとされてきたラテン語などの難しい言葉をなるべく避ける
⑶ジョーク好き

2023年5月にゼレンスキー大統領がローマ法王を訪問した際も、ローマ法王は弱者の味方であることがよく分かる発言をされています。

ゼレンスキー大統領との対面で教皇は、ロシアによるウクライナ侵攻で苦しむ「最も弱く、罪のない被害者」を緊急に支援する必要があると強調した。

https://www.bbc.com/japanese/65586868


そんな弱者の味方であるフランシスコ法王が、(おそらく反発を受けることも承知の上で)「白旗」という刺激的な言葉を使ってまで伝えたかった真意は何なんでしょうか。


ウクライナ戦争の現状

改めて、ウクライナ・ロシアにとって何が勝利で敗北なのか、整理してみました。

ウクライナにとっての最終目標は、取られた国土を取り返し、2014年以前の状態に戻すこと。ベストは、またいつ侵攻してくるか分からない現プーチン政権を崩壊させたいというもの。実現可能性は別として、明確で分かりやすいですね。

この戦争を複雑にしている問題は、ロシアが何を考えているのかが見えにくいことだと思います。
ロシアの目標、侵攻の動機として考えられるのは、下記の2点だと思っています。

つまり、ロシアは
昔の強かった頃のロシア帝国に対するプライドが今も非常に高く、
(正しいかどうかは別として)ロシアにはロシアの「ウクライナ侵攻が必要だった理由」と「絶対に負けるわけにはいかない理由」がある。

それに対し欧米は
ロシアへの経済制裁とウクライナへの軍事支援により、経済的にロシアの戦争継続への意欲を削ごうとしてきたが、
欧米からのロシアへの経済制裁は、アジア諸国の仲介による輸出入(オイルロンダリングなど)により、IMFも驚くほど「効いていない」状態。


ウクライナ戦争が長引き、実際苦しんでいるのは誰?

経済制裁を発動した当初は、「(欧米側も)多少の返り血は浴びるがロシアには決定的な打撃を与えることができる」と考えられていた経済制裁が、
実際は効果がなく、このまま戦争が長引いてもロシアは苦しまない。
逆に、一番苦しいのは、アメリカや日本でもなく、EU諸国だと思います。

  • 効果のないロシアへの経済制裁によりエネルギーコストが(無駄に)高騰し、ガソリンや電気代、暖房費、石油製品が高騰(平均月給13万円の東欧諸国で、レギュラーガソリン300円/ℓ)

  • 資源以外のロシア製品の輸入禁止によるインフレ

  • 終わりが見えないウクライナへの軍事支援

  • 多数のウクライナ難民の救済措置


目に見えるヨーロッパの苦しみとして分かりやすく、私もヨーロッパで実際に何度か遭遇した出来事が、「農家の抗議デモ」です。

抗議デモの要因は、EUがウクライナ支援の一環として行っている「ウクライナ産農作物輸入の免税措置」です。
1、ウクライナから、元々安価な上に輸入関税免除によりさらに安くなった大量の農作物がEU(欧州連合)内に入ってくる
2、それらが農産物価格を吊り下げ、(農業大国である)ドイツやフランス、オランダ、ベルギー、ポーランドなどの自国の農家の収入は激減。
3、抗議デモ活動として、
・ポーランドとウクライナとの国境では、ウクライナの小麦を積んだトラックを通さないようにポーランド人が封鎖を行ったり
・個人農家のトラクターが大量に大都市近郊に出現し、道路を塞いだり
ということが頻発しました。

ウクライナ戦争が長引けば長引くほど、ロシアよりもヨーロッパ経済が打撃を受け続けていくことになります。


ローマ法王の発言から見える欧州の本音

「最も強いのは国民のことを考え白旗をあげる勇気を持って交渉する人だ」

改めて上記フランシスコ法王の発言を見返してみると、
弱者に寄り添うフランシスコ法王が、適当な思いつきで上記のような発言をするとは考えにくく、大衆の民意を大いに反映した発言と捉えるのが自然で、何よりも優先すべきは「国民の生活」であるという主張が見えてきます。


「国土を武力で侵略される不条理に抵抗すること」はもちろん正義で、善悪で言うと「善」。正しい方に勝って欲しいのはもちろんですし、(利害関係を別にすれば)ウクライナを応援したいのはおそらく世界中が同じ気持ちだと思いますが、
利害を後回しにして正義を優先し、本当にウクライナを支援できるのは、欧米などの裕福で余裕のある国のみ

実際問題として、このままこの先何ヶ月、何年も戦争を続けて、ウクライナの目標とする「領土奪還」は達成できるでしょうか。
体裁だけのための実効果のない経済制裁を、いつまで続けるんでしょうか。

国境線を武力で書き換えることは、ウクライナにとってはもちろん受け入れ難い不本意な結果だし、国際的にも許し難い行為だと思いますが、
「善悪」と「勝ち負け」は別のカテゴリであり、いつも「善」が必ず勝てる訳ではない。

欧米からの多額の支援のおかげでキエフは守り抜き、開戦当初に比べれば領土を奪還できたのも事実。
このまま戦争を続けてウクライナでの犠牲者を出し続け、EU諸国の負担を長引かせるより、戦争継続した場合にかかるであろう軍事支援金額を、復興や住民の移住などの前向きなものに使った方が良いと思います。

ロシアに、侵攻を思い止まらせるよう説得するのが無理だったことが明確な今、ウクライナを説得する方に舵をきるのも一つの手ではないでしょうか。
正義を主張し続け戦争を長引かせることよりも、早く戦争を終わらせることを優先するという意味で、トランプ大統領をはじめ、フランシスコ法王が仲介となり、戦争終結が早まることを望みます。

最新の戦況
▼市民の死者 少なくとも10,810人(国連・4月9日時点)
▼世界各地に滞在しているウクライナ難民 647万1600人(UNHCR・2024年4月19日現在)

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