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見守るって実はめちゃくちゃむずかしいと、パンダコパンダから教わった。



ジブリ幻の傑作アニメーション


「 パンダコパンダ 」って知ってますか?

両親のいない小学生ミミ子。

そこへとつぜん、父子のパンダがやってきて、家族として一緒に生活することになる。

そんなファンキーでゴキゲンで、おかしくって楽しい、アニメーション映画が「パンダコパンダ」です。


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筆者の書いたつたないパンダコパンダ


知らない人も、多いかもしれません。
この作品が最初に上映されたのは、1972年。
日本がパンダブームで沸いていた、49年前の作品です。

パンダコパンダの魅力といえばやっぱり、コパンダたちがもうかわいくて仕方ないところ


小さいコパンダは無邪気にちょこちょこ走りまわっていて。
大きいパパンダは朗らかで頼りになって、大きなお口でニッと笑う。
おさげ髪の女の子は世話焼きなしっかり者なんだけど、たまに子どもにかえって、パパンダの大きなお腹へドーンと飛びついて甘える。

あれ?なんだかこの感じにあの絵柄、
どこかで見たなって気がしませんか?
既視感、ありませんか?


実はパンダコパンダは、その後のジブリ作品の基本になっているとも言われる作品なんです。

作ったのは二大巨頭、
宮崎駿 と 高畑勲 。



ほら!よく見てください、このパンダ。

この顔なんて、パッと見だけでもはや
完全に トトロだ! って感じませんか?


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筆者の書いたつたないパパンダのドアップ



パンダコパンダが作られた、1972年というのはジブリが設立されるよりもかなり前のこと。
トトロの公開ですら1988年ですからね。
あの天才たちの存在に、世界はまだそれほど気付けていなかったんです。

そんな時代に宮崎さん達は、童話長くつ下のピッピのアニメ化をもくろんでいました。

でも残念なことに、原作者の許可がおりなかった。
そこで、ピッピのキャラクター像や世界観を取り入れてつくられたのが、この「パンダコパンダ」というわけなんです。



快活で自立していて、ちょっとのことでは動じない。いつもまっすぐな、愛情に溢れた女の子。

ちょっと思い出してみてください。
ジブリに出てくるヒロインて、大体みんな
そんな性格だったような気がしませんか?


さらにこの作品には、宮崎駿や高畑勲のほかにもその後のジブリ作品の主戦力になっていくスタッフ陣が、わんさか携わってます。

NHK連続ドラマ小説「 なつぞら 」のモデルにもなった、小田部羊一さんや大塚康生さん。
長年に渡って色彩設計を担当した保田道世さん。
どうしても自分側の作品スタッフに欲しいと、宮崎さん高畑さん間で奪い合いが起きたという逸話を持つ近藤喜文さん。

ミミ子役の声優杉山佳寿子さんは、これがきっかけでその後ハイジの声の担当にもなったそうです。




日中国交正常化で、送られてきたランランとカンカンによるパンダブーム。

でもブームが起きる前から彼らは、パンダをメインにする作品を考えていました。


当時まだ日本人には馴染みがなく、資料すら少なかった生き物。

のちのインタビューで高畑さんは
「来日する前からパンダに注目していたのは、日本中で黒柳徹子と僕たちだけかもしれない」
なんて、冗談めかして答えています。

一度はボツにされたものの、時代が追いついてくれたおかげで、こうして私たちがパンダコパンダに出逢うことができたんですね。


子どものチカラを信じる


私がこの作品を観て最も感動したのは、作り手である大人たちが、子どもの力を信じている、というところでした。
ほのぼのとしたストーリーだけど、決して子どもをあなどってないんだなって感じるんです。

実はこの映画公開前は、関係者の評価が厳しかったんです。

ほのぼのとしていて、テンポが長くスピードが遅い。
その時代の子ども映画では当たり前とされていた、激しく細かい作りや、乱闘シーンだってない。

これでは子どもが注意散漫になり、席を立ってしまうと。


だけど高畑さんたちは、確信していました。
「どう魅せるか」をハッキリつくっていけば、子どもにだって届くはず。

フタをあけてみれば、大成功です。

映画館での子どもたちは、しっかり集中できているし、笑いどころも理解して、楽しんでいる。

彼らの子どもを信じる心は、それまでの業界の当たり前・・・・さえ覆していったのです。



私たち大人ってつい、子どもはこういうもんだって、固定観念にとらわれちゃいますよね。
子どもにはまだわからないだろうとか、子どもなのに、子どもだから、とか。

心配だからこそどうしても、口を出しちゃう。
愛しいからこそ、難しさや辛さ、イヤなものから遠ざけてあげたくなっちゃう。


でもそれってもしかしたら、子どもの力を侮ってるのかもしれない、とも思うんです。

その子には、ちゃんと受けいれる力があるかもしれない。
受けいれたうえで、成長していけるのかもしれないのに。


知らないと見えない
知らないと気付けない


「 知らない 」 と 「 分からない 」 は、
イコールではないと思うんです。

すぐに分からなくても、いい。
いまは、理解できなくたっていい。

でも知ってさえいれば、分かる瞬間が、きっと訪れる。

経験があると、自身のなかにひきだしができます。

経験を重ねていくと、それぞれのひきだしの中身が、豊かになります。

それらを比べることで、ひとつの物事にも、いろんな見方があると知る。




見守るという行為は、他者からは「何もしてない」ように見えてしまう場合もありますよね。

だけど見守るって、本当はものすごく難しい。

その立場になってみて初めてわかる、心の葛藤や苦悩が、たくさんあると思うんです。

今すぐには無理かもしれない。
でもいつか必ず、伝わる日がきます。

5年後、10年後、20年後、もしかしたら、老年期かもしれない。

それでも必ず、伝わります。

あなたのその、大きくてあたたかい愛情は、事実だから。



パンダコパンダの公式ホームページには、子ども達に向けた高畑さんからのメッセージが載っています。


この映画は、こんなことがあったら、こんなことに出あえたら、つまりこんなお客さんが来たらどんなにいいだろうな、ワクワクするだろうな、とぼくたちじしんが思ったことを、できるだけほんとうにあったようなかんじに作ろうとしたものです。
そうすればきっとみなさんにもワクワクしてもらえると考えたからです。
ところで、遠足に行って、とつぜんのにわか雨でさんざんな目にあったことはありませんか。
からっと晴れた日のたのしい遠足ももちろんステキだけれど、どしゃぶりのなかを走ってびしょぬれ、泥だらけになった遠足だっておもしろいんですよ。お客さんといっても人だけじゃないんです。

いつもとおなじでないことならなんでもお客さんです。ちょっとふうがわりだったり、ちょっとイヤなかんじだったりしても、ほんとうはそのなかに、とってもいいことやおもしろいことがかくされているかもしれません。
がっかりしたり、かなしかったり、つらいおもいをしたりすることでさえ、心いっぱいにうけとめれば、きっとあとで、いいお客さんだったことがわかります。


映画のなかで主人公ミミ子の所には、いろんなお客さんが訪れます。
ときには泥棒だってやってきます。
それでもミミ子はそのすべてを受け入れて、ステキ! と笑いとばします。

「お客さん」とはすなわち「経験」なんですよね。

どんな経験だって、全部ステキ。

良いことも悪いこともぜんぶが、自分の人生を豊かにしてくれる大切なもの。

それをこの映画はていねいに、ユーモラスに教えてくれます。


子どもだったことを忘れてしまったとき。

自分が昔からずっと大人であったかのように錯覚してしまったとき。

パンダコパンダを観て、頭をからっぽにするのもいいかもしれません。


昨日の失敗も明日の不安も、ミミ子たちと一緒に「 ステキ! 」と笑いとばしてやりましょう。

やまない雨さえも、いつかきっと大切なお客さんだったと思えますように。

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