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惑星WATER。



第一章 目覚めるとそこは違う惑星だった


顔に、少し涼しい風を感じる。僕はあくびをしながら、ふと目を覚ました。
「ふぁ~、良く寝たなぁ~、今何時だろう?」
いつも、枕元に置いてあるアラームを手で探る、だが、いくら手を伸ばしても、机もアラームもどこにもない。
「あれ?おかしいな?」それどころか、彼の手の指の間をサラサラの何かが通り抜けて行く事に彼は気が付いた。
「ん?何だろう?」

寝ぼけながら、ようやく身体を起こし、周りを見渡してみると、目の前にはとても穏やかな海が広がっている。どうやらここは砂浜のようだ。心地がいい風とさざ波の音。

でも、どうして。

昨日は自分の部屋のベットで眠りについたはずである。
「あ~、まだ夢を見てるんだな。それにしても、すごく心地がいい夢だ。もういっそ、覚めてほしくないなぁ。」僕はそう思った。

不思議なことに、夢の中だけれど、自由に動くことができたので、身体を起こして、浜辺に座り、ただ海を眺めていた。30分ほどたっただろうか、だんだんと意識の解像度が上がってきた。

春の始まり、冬の終わりの様な少し涼しい風、潮の香り、海鳥たちも飛んでいる。さざ波の音も穏やかで、なんて気持ちがいいのだろう。
「でも、夢にしては妙にリアルだな、意識もはっきりしているし、、。このまま、こうしていたいけど、そろそろ起きないと、予定もあるしな、よし、目を覚まそう!」僕は、この夢が覚めるように、現実の自分の目を覚まそうと試みる。だが、一向に目の前の景色は変わらない。

「困ったな」ここまで意識のはっきりした夢を見たことがないから、現実への戻り方が分からなかった。その後、頬をつねってみたり、もう一度寝ようとしたり、色々試したが、やはり駄目だった。
「まあ、そのうち目が覚めるだろう!」僕は無理やりこの夢を終わらせることをあきらめて、もう少しこの世界を楽しむことにした。

「まずは、海で泳いでみようかな!」穏やかだけれど広大な海をめがけて走り出す。
ジャバジャバと音を立てながら、海に入り、僕はまたも驚いた。
「まるで本当に海で泳いでいるみたいだ。」海水の温度や香り、全て現実のものとしか思えない。
「これ、本当に夢なのか?」そんな思いが、頭をよぎった。とても不思議な気持ちのまま、しばらく海で遊んだ後、陸にあがり、足にまとわりつく砂を厄介に思いながら、しばらく海に沿って浜辺を歩いていた。

また、30分ほど歩いたとき、遠くに人影が見えた。
「誰かいるのかな、まぁせっかくの夢だし、よし、話しかけてみよう!」僕は、小走りでその人影に近づいて行く。その人は、浜辺に座り、海の遠くを見つめているようだった。

第二章 空との出会い

「あの~、こんにちは。何にしてるんですか?」思い切って話しかけてみると、その人はゆっくりとこちらを振り返る。
「ああ、海を眺めているんだよ。」その人は、特に僕に驚くこともなく答えた。僕と同じくらいの青年だ。

「どうして眺めているんですか?何か探しているんですか?」
僕はそう質問をしたが、すぐに彼の服に目が自然と引き付けられた。そして同時に驚いた。

なんと彼の服は、毎秒色を変えてゆくのだ。さっき、彼に話しかけたときは、緑色だったのに、瞬く間に輝くような銀色に変わった。
形は古代アテネの哲人たちの様に片方の肩が出ている。

そうこうしている間にも、また服の色が変わり、今は海と同じ、薄い水色になっている。まるでカメレオンの様に周囲の様々な色を取り入れているようだった。服に気を取られている僕の驚きをよそに、その人は答えた。

「どうしてここにいるか?理由なんてないよ。」僕は彼の服に釘付けになりつつも、質問を続ける。

「え、でも、理由もないのになぜ海を眺めてるんですか?ストレス発散とか?」

「ストレス、、、ああ、聞いたことあるよ、遠い星の人々の物なんだろ?君は物知りだね。」彼は笑った。そしてこう続けた。

「海を眺めるのが僕にとっては自然だからだよ。そこに意味も目的もないさ。」

僕は彼の言っていることがあまりよく理解できなかったが、ひとまず、
「そうなんですね。」と受け流す。それよりも聞きたいことがあるからだ。

そう、その不思議な服について、そしてよく見ると頭の上の髪飾りも、同じように色を変えてゆくじゃないか!出会ったときは、透明の石の冠だったのに、今はすごく暖かな、オレンジ色だ。もう質問せずにはいられない。

「その服も冠もすごいですね!どうなってるんですか?最新のLEDとかですか?」僕は前のめりになる。

「LED?。それが何かは分からないけど、この服も冠も普通のものだよ。そんなに驚くことかな。」とその人は、答えた。

「いやいや!普通なわけないよ、こんな服みたことがないよ!」僕の興奮した様子に、その人は少し圧倒されていたが、そのあと、しばらく僕をじっと見て何かに気が付いたようにつづけた。

「君、、もしかして、、、地球人かい?」

予想外の質問だった。
「え、うん、、地球人に決まってるじゃん。。。」そう答えた後、僕は思い出した。

「ん、待てよ?あ、そうか!ここはたぶん僕の夢の中だから、君もこの服も、全部僕の創造の物だよね、感覚がリアルすぎてすっかり忘れてたよ!」

「夢?」その人は首をかしげる。

「君には分からないかもだけど、これは僕の夢なのさ、だって昨日僕は自分のベットで寝たんだから。ホントはもう起きなきゃだけどね、この夢、案外楽しそうだから、朝起きるまでの時間を楽しもうと思ってるところだよ!、それにしても、他のキャラクターまで出てくるなんて、僕の想像力も捨てたもんじゃないなぁ~!」僕は、我ながら自らのイマジネーションに感心していた。

「何を言ってるんだい?僕はここにいるさ、君の創造なんかじゃないよ。」その人は言った。

・・・まぁ、そうか、キャラクター自身は気が付かないよね。その方が現実味があって楽しいや!!・・・僕は心の中でそう思った。

「あ~、ごめんごめん。気にしないで、それより君の名前は?」
「僕は、空(くう)。」
「くう。いい名前だね。よろしくね!僕に地球人か聞くってことは、ここは地球じゃないの?」
「うん。ここは惑星WATERだよ。それで、やっぱり君は地球人なんだね。初めて会ったよ。地球については本で読んだことがあるくらいかな。」

「地球の本があるの?」

「うん。小さい頃に読んだんだ。たしか、その本によると、ここは地球からは見えないんだ。僕たちから地球は見えるけどね。この星の大気がほかの星からは観測できない様にしてくれてるんだよ。ほら、あそこを見て。」空は海の向こうを指さした。地平線の少し上に、ぼんやり星が浮かんでいる。

「あれが地球だよ。」

「あれが、地球?」地球と思しきその星は、青く優しく輝いている。でもかなり遠くにあるようであまりはっきりとは見えなかった。

「うん。この星からは毎日見えるよ。」空は言った。

「へぇ、そうなんだ。確かに今まで、惑星WATERなんて聞いた事なかったよ。」僕はこの星のことをもっと知りたいと思った。これが夢だなんてこの時には、もう忘れかけていた。というより、もはやこちらが現実の様な気さえしてきていた。

「僕そろそろ、移動するけど、ついてくるかい?」空は言う。
「うん、もちろんついていくさ!もっとこの星を見てみたいと思ってたんだ、ありがとう!」ふたりは、目の前に広がる、広大で穏やかな海に背を向けて、それとは反対に広がる、大きな森に入っていった。

第三章 惑星WATERの生き物たち


その森は見たこともないような植物や生き物であふれていた。
全ての木々や草花は、空の服や髪飾りと同じように、刻一刻と様々な色に変化する。だが、その光は蛍の様に、とてもやさしく輝くので、ずっと見ていても疲れることはない。木々の葉は海からの、穏やかな風に揺れている。

植物だけでなく、虫や動物などの全てが、ユニークなものばかりだった。
手のひらよりもずっと大きい透明な蝶やカブトムシ、僕たちより大きなラベンダー色のウサギ、翼の生えた子豚やリス、手のひらサイズのユニコーンなど、出会うものどれもが地球では見たことがないものばかりだ。どんどんと進む空に、置いていかれないようにしつつ、僕は、終始、その幻想的な森の姿に目を奪われていた。

そうしていると、ふとどこからか音楽が聞こえていることに気が付く。思い返してみると、森に入ってからずっと聞こえていたと思う。だが目の前の光景に魅了され、今まで気が付かなかったようだ。

「ねぇ、くう、この音は何?キラキラした鈴の音楽みたいなのが聞こえる。」
「あぁ、これは森の音だよ。」
「森の音?」
「そうさ、この森の植物は風に揺らぐと音が鳴るのさ。」
「そうなんだ。綺麗だね。」どうして音が鳴るのか、少し不思議だったが、もはやそんなことはどうでもいい。

僕は、穏やかだけれど、少し怪しげで幻想的な、この森にずっといたいと思った。

不思議な森に陶酔している僕をよそに、空はどんどん進んでゆく。すると彼はふと足を止め、地面に落ちていた石を二つ拾ってそのうち一つを僕に手渡した。

「はい、君も。」
「ありがとう。これは石?」
「うん。地球にもあるだろ?」そういうと、空は自分の分の石を、口に運び、かじり始めた。

「え!?何してるの!」僕は、空の行動を疑った。

「おいしいよ、あ、これは、ラズベリー味だな。」
「おいしいって、これ石だよ。食べるものじゃないよ!」空は必死で止める僕にかまわず、あっという間に石一つを食べ終えてしまった。
「君も食べなよ、この星の全てのものは食べられるんだ。でも、どんな味かは食べてみないとわからないのさ。僕のさっきの石は、ラズベリー味だったよ、君のは?」

空は、石を食べてしまったのに、何ともないようだ。
僕はまだ、石を食べる事への抵抗はぬぐえないが、恐る恐る、手の中の石をかじってみた。ガリガリと口の中で音を立てる石。だが不思議だ。だんだん、ラムネのように溶けてゆく。

「おいしい、、かもしれない。」初めての感覚だったが、本当に食べられるようだ。
「どう?何味?」空はとにかく味が気になるようだ。
「ん~?甘い。」記憶の中の様々な味の指標と照らし合わせ、やっと答えがわかった。

「キャラメルだ!!」なんと、何の変哲もない石がキャラメル味だったのだ。

「いいな!キャラメル味、僕も好きだよ」そういうと空は、隣に生えている木の枝をいきなり折った。
普段から優しく光っているその木だが、折ったところはひときわ強く輝き、折れたところからは、まるで水道の蛇口をひねったように、冷たく澄んだ水が流れ出した。あふれる水を、足元に咲いた花びらがコップの様になっている花をちぎって、受け止め、空は一息で飲み干した。

「へー、水もたくさん出るんだね、ただの枝なのに。」ここまでくるとあまり驚かない僕がいる。

「この花びらのコップは、まるでガラスでできているみたいだし、木は水道みたいだな。」そうつぶやきながら、僕も空に習い、水を一杯飲み干した。

「この花の種は、ガラスなんだ。」空は答える。
「どういうこと?」

「割れてしまったガラスをこの森の土に埋めると、しばらくしてこのガラスの花が咲いて、また使えるようになるんだよ。」

「へー、自然にリサイクルされるんだ!よくできてるね!」
「ガラスだけじゃないよ、この星では、壊れてしまったものをこの森の土に埋めると新しい花が咲いて、また使えるようになるんだよ。」

どういう仕組みかは、わからないが、実に、よくできた星である。

僕たちは、そんな話をしながら、森を歩いていると、大きな岩を見つけた。
「すごく大きな岩だね」僕が言うと、
「今日はここかな。毎日寝るところは変わるんだ。決めてないって言った方がいいかな。」空は、そう言って、その岩によじ登った。

「空は、家がないの?」僕も、岩に上りながら聞いた。

「家?ああ、そうか、地球では、決まった家があるんだよね。でも、この星の人は、家を持ってる人はいないよ、みんな好きなところで過ごすんだ。さっき僕が海にいたのも、そこに居たかったからさ。いつどこで過ごしてもいいんだよ。惑星全体が家っていう感覚かな。」
「なるほど、だから理由もなく海にいたんだね。それにしても、いい場所だね。ここだけ、あまり木が茂ってないから、星空がよく見えるね。」

見上げると、少し暗くなった空に、たくさんの大小の星が輝いていた。ふたりは、その大きな岩に並んで寝転び、休むことにした。

第四章 お互いの星について

「そういえば、君の名前を聞いていなかったね。」空が言う。
「あ、ごめん。すっかり忘れてたよ。僕は行(ゆき)っていうんだ。」
「ゆき!いい名だね。ゆき、もっと地球のことを教えてよ、本で読んでからずっと興味があるんだ。」
「もちろん。僕も、もっとこの星を知りたい。」二人は、星空を眺めながら、お互いの惑星について、話すことにした。

だが、その前に僕はここに来てから、どのくらいの時間がたったのか気になった。

「あ、その前に今何時かわかる?ここに来てからずいぶん経ったのに、さっきから少し暗くなっただけで全然夜にならないからさ。」

「時間、、、時間はここにはないよ。」空は少しの間を開けて答えた。

「え?」どういうことだろう。

空は続ける。

「あるのは現在だけさ、それぞれの人によって時の長さは変わるからね。退屈していたらゆっくりと時が流れ、楽しければ一瞬さ。ないというより、自分で決めていいって言った方がいいかな。」

この星には時間が存在しないらしい。

「時間がないの?よくわからないけど、でも、ここに来てから一瞬で時がたってる気がする。だって全然退屈してないからさ!」
「そうさ、人によって時の進み方が違うから、共通の時間は存在しないんだよ。まあ無理に理解しなくてもいい。ここで過ごせば、そのうちわかるよ。」

「でも時間が存在しなかったら、どうやって仕事とか学校とかの予定立てるの?」

「地球人らしい質問だね。ここには、仕事も学校もないんだ。皆ただ生きているだけさ、生きる意味も目的も決まってない。やらなくちゃいけないことも何もない。ただ自分のしたいことを、気分のままに、自由なときにするだけさ。」

「え、でも、仕事も学校も何もなかったら、どうやってお金を稼ぐの?みんな働いていなかったら、社会が回っていかないんじゃない?家族がいる人は、養えないと思うし。」

次々、疑問があふれ出した。

「行(ゆき)はここにはないものばかり質問するんだね。まあ、それもそうか、君の星とここは、全く違うからね。」空は、さらりと微笑んだ。

「まず、お金はないよ。地球ではお金があるらしいね?でもここは違う。欲しいものは大体、森に行けば手に入るし、やりたいことも大抵は自分の体一つあればできることだからね、たとえば、海を眺める、歌う、歩く、とか。ここにはモノを売ったり買ったりする場所もないから。お金なんていらないのさ。」さらに、空は続ける。

「ただ、社会や家族はあるよ。生き物がいれば必ず社会や家族は存在するからね。他の人に何かしてもらったときは、こちらも相手にお返しをするんだ。でも、お金じゃない。もらった「愛や優しさ」と同じくらいの「愛や優しさ」を返すんだ。」

「なるほど、じゃあ、例えば、道でけがをしたとき、誰かに助けてもらったら、その人に同じくらいの優しさを返すんだね!その人の頼みを一つ聞くとか!」

「そうさ、だから家族がいる人も他の人を助けることで、自分の家族も助けてもらえるんだよ。人だけじゃなく、全ての生き物がそうだよ。優しくしてあげた、動物や植物は、かならず、こちらにもそれを返してくれるんだ。」

「人以外も?たとえば?」

「さっき、僕たち森で水を飲んだよね。」
「うん。水道みたいな枝と、コップみたいな花びらのやつ?」
「そう、彼らは、僕が普段から水をやって育ててるんだよ。だから、いつも、ああして水を与えてくれるのさ。」

「なるほど!ということは、僕が枝を切っても水が出ないってこと?

「うん。でも、枝を切る前に、先に何か、彼らに親切にすれば、お返しをくれるから平気だよ。例えば、光がよく当たるように周りの植物をよけてあげたりとか。水を少し上げたりとか。そうすれば君にも、水をくれるさ。」

「なるほど。うまくできてるね!そうか、つまり、みんなが利他に目覚めたら、お金なんていらない社会になるんだね。」とても新しい社会の在り方だった。僕は感動するとともに、ここに来る前の生活のこと。地球での憂鬱な気分を思い出した。

「僕さ、実は地球があんまり楽しくなかったんだ。毎日やらなきゃいけないことがあって、やりたくないこともやらなくちゃいけない。それに、地球は、ここと違ってお金がとても大切って言われるんだ。学校に行くのも、結局どこかに就職するためさ。父さんは、稼げない職業につくのをとても嫌がるんだ。たとえそれが僕の好きな事でもね。やっていて楽しい事ではなく、楽しくないけどお金になる事をやらなきゃいけないって教えなんだよ。でも、僕は、お金があっても幸せじゃない人もたくさん見てきたし、父さんだってそうさ、僕から見たら、楽しそうには見えない。いつも怒ってるんだ。昔は僕をバイクの後ろに乗せて色々なところに連れて行ってくれたのに。最近は仕事ばかりなんだ。でも、やっぱり僕は、楽しい事をやっている方が絶対いいと思う!長い目で見たら。まぁ、周りの友達はみんなどうやってお金を稼ぐかを一番に考えているみたいだけどね。」

空は少し考えた後に、口を開いた。

「それが行の悩みってやつかい?。地球人は常に悩みがあるんだろ?これも本に書いてあったさ。でも、ここには、悩みもないんだ。」

「悩みもないの?なんか生きていて嫌な事とか、大変な事とか、本当に何もないの?」

「ないよ。だって、さっきも言ったように、もともと、人生に意味なんてないさ。たまたま、生まれさせられただけだよ。だから、少し大変なこともあるけど、それを悩みだとは思わない、意味のない人生では、少しの障害があった方が、退屈しないからね。楽しい事も、大変なことも、それ以上でも以下でもないさ。それに大変なことがあっても、必ず誰かが力を貸してくれるんだ。ここの住人たちは、自分が助けてほしいときのために、機会があれば、誰かを助けるのさ。」

この星の考え方は新しかった。なんというか、肩の力が程よく抜けているがとても合理的だった。

「そうか。意味なんてないのか。まぁ、そうはいっても、何事にも悩まなくなるにはまだ時間がかかりそうだけど、、だいぶ軽くなったよ!ありがとう。」

「でも、僕は君が少しうらやましいよ。」空がつぶやく。

「どうして?この星の方が何倍も暮らしやすいじゃないか。」

「だって、悩みがあるということは、一生懸命生きているってことだよ。この星の人々は、悩みもないし、毎日穏やかだけれど、一生懸命生きている人はいないよ、だって意味がないってみんな知っているからね。僕も生まれてからずっと悩みはないけど、一生懸命になったこともないさ。」僕は、空がそんなことを言うなんて意外だった。そして僕は続けた。

「じゃあ、、、今度一生懸命に何かをしてみたら?だって何してもいいんだろ?ここでは。」

「。。。。確かに。そうだね。でも、地球人の様に、目的に向かって何かをするのと、心のどこかで意味がないって思いながらするのとでは、全然違うよ。知らない方がいいこともあるのかもしれないね。」空は少し寂しげに見えた。何か伝えようと思ったが、ここに来てからずっと動いていたこともあって、僕は自分の瞼が自然と閉じていくのを感じた。

二人はそのまま、大きな岩の上で、森の音のゆりかごに揺られるように、眠りについた。

「ゆき。」空の声だ。
「ん~?あ、おはよう。」すっかり次の日になっていた。

まぁ、ここには時間がないから、人によっては昨日かもしれないが地球で言えば次の日だ。

周りの様子は、昨日と変わっていない。穏やかで、少し薄暗い夕方と夜の間のようである。だが、一晩たっても、相変わらず、森は幻想的に輝き、キラキラと音を立てていた。

「僕今から、あっちに行くけど、行は?」
「えっと、僕も行くよ。この星では、やることないし。」
僕は、眠い目をこすり、起き上がると、空は、僕たちが今まで寝ていた大きな岩を少し砕き、手渡した。

「はい。これはりんご味だったよ。僕もう食べたから。」やはりこの岩も食べられるようだ。朝ごはんに、りんご味の岩をかじりながら、僕は空とともに、移動を始める。

「どこに行くの?」
「槃(はん)のところだよ。僕に地球の本を貸してくれたのも、槃だよ。僕の父親だよ。」
「へぇ~、空のお父さんか。会うの楽しみだな。」そういうと、僕は思い出した。

「あのさ。前に、この世界は僕の夢の中って、言ったけどさ、これきっと夢じゃない気がするよ、だって空のことを架空の存在だなんて思いたくないし、君は確かに存在していて、僕にたくさんのことを教えてくれいるからね。」

「ああ、そんなこと言っていたね。そういえば。行はここに来た理由がわからないんだよね?」

「うん。目が覚めたらさっきの砂浜にいたんだ。」

「なるほど。もしかしたら、槃(はん)なら、行が何でここに来たのか知ってるかも。槃は地球のことに詳しいんだ。だから、聞いてみるといいよ。」

二人は、そんな話をしながら、森を進んだ。空が言うには、この森では、何かを探している時、周りの生き物たちに尋ねるとその居場所を教えてくれるらしい。

第五章 槃との出会い

様々な生き物に彼の居場所を尋ね、最後に案内をお願いしたのは、金色の綿毛のタンポポだった。

「槃のところに行きたいんだ。居場所を教えてくれるかい?」空が尋ねる。
するとそのタンポポは、綿毛一つを飛ばしてくれた。

ゆらゆらと漂っていく綿毛をしばらく追いかけると、小さな木の小屋があった。

「ありがとう。」空がそう告げると、綿毛はきた道をゆらゆらと戻っていった。

「あの小屋にいるの?」僕は聞く。
「そうみたいだね。」二人は小屋の扉まで歩き、扉をノックした。
コンコンコン。

「空だよ。父さんに合わせたい人がいるんだ。」

しばらくすると、扉があいた。

「おお、空。久しぶりだな。」濃い茶色の髪に黒いひげの優しそうな人だった。その首には、何の変哲もないただの石にひもを通したネックレスが下がっていた。

「父さん。行だよ。友達になったんだ。地球から来たんだよ。」空がそういうと、彼は、少し驚いたようだった。でもすぐに、優しい顔に戻り、つづけた。

「地球から来たのかい?おお、それは何とも珍しいな。さあ、上がっていきな。」

「お邪魔します。」僕は少し緊張していたが、彼の小屋はどこか懐かしい雰囲気があり、とても落ち着いた。

僕たちは暖炉のそばにある、暖かな木のテーブルにつき、槃はお茶とクッキーを出してくれた。

「父さんのクッキー久々だな。このお茶も、星の花から作るんだよ。」空は父との久々の再開に、安心したのか、いつもより嬉しそうだ。そして、槃も空と会えてうれしそうだった。

「それで、君は、地球人なんだろ?」しばらくして、槃が僕に尋ねる。
「はい。でも、どうしてここに来たのかわからないんです。」

「目が覚めたら、浜辺だったんだって。父さん、地球のこと詳しいから、理由が分かるかなと思って。」と、空が付け足した。

「なるほど。それはね、、、」槃は少しの間を空けてこう続けた。

「実は私も、昔、地球に行ったことがあるんだよ。」

「ふ~ん、、、え!?え?!そんなのきいたことないよ!」空はクッキーを食べようとした手を途中で止め、目を見開いた。

「そうなんですか?!」僕も予想外の言葉に驚いた。

「ああ。もうずいぶん前だね。でも時間では言えないな。ここには時間がないからね。でも、そのころの地球は、1980年代っていう区分だったと思うよ。」

「なんで?どうやって、地球に行ったの?」空は前のめりになった。
「それが、分からないんだよ。だって、君と同じだからね。」と槃。

「同じ?、、ということは、目が覚めたら、地球だったんですか?」

「ああ、そうだよ。だから、最初は何がどうなっているのか、理解ができなくてね、、でもある人が助けてくれたんだ。」

なんと、槃も少年時代に、地球を訪れたことがあるというのだ。

「驚いたよ、父さんが地球に行ったことがあるなんて、、でも、そのある人って?」

「ああ。その時の私と同じくらいの少年でね、目覚めた浜辺を歩いていたら、出会ったんだよ。彼はとても親切だった。地球のことをたくさん教えてくれたよ。彼の家族にもお世話になって、色々なことを一緒にしたよ。古い、懐かしい思い出さ。」

「なるほど、だから父さんは、昔から地球についてよく知っているんだね。」空は、槃が地球についてよく知っていた理由をしり、納得しているようだ。

「空よ。お前に授けた、地球についての本があっただろ。」
「うん。僕あの本のおかげで、行が地球人かもしれないって気が付いたんだよ。」

「あれはね、私が書いた物なんだよ。」槃は首に下がった石を見つめながら言った。

「え!?そうなの?、、てっきり、昔の人が書いた本だと思ってた。そうか、父さんが地球で見たものをまとめたんだね。少し待っていて、今持ってくるよ。」空はそういうと、槃の書いたその本を探しにどこかへ、消えた。

僕は槃さんと二人きりになった。一口、お茶を飲んでから、こう聞いた。

「それで、槃さんは、地球でどんなことしたんですか?」僕は、彼の地球での体験をもっと知りたかった。そして、どうやって、自分の星に戻ってきたのかも、教えてほしかった。

「街を散歩して、気になった場所に立ち寄ったり、人々と一緒に食事をしたり、僕の星について教えたり、地球のことを聞いたり、いろいろさ。全てが新しくてね、植物も動物も目に映るもの全てが、ここの物とは違うだろ?君もきっと驚いただろうね、ここに来たときは。」と槃さんは笑った。

「はい。ホントですよね。。だから、ここは夢なのかな?って初めは思いました。でも、全てが鮮明な記憶なので、夢だとは思えないんです。」

「。。夢ではないさ。君は確かにここにいるよ。私のあの時も夢ではないさ、確かに私は、地球にいたよ。間違いない。今でも時折、戻りたくなるんだ。地球での生活に、確かに、地球では、大変なことがたくさんあるさ、人々はいつも悩み、苦しみ、生きている。だけど皆、一生懸命だよ、うらやましい。それまで悩みなどなかった私だけれど、地球に行ってから、刺激的な経験と引き換えに、悩みができてしまったね。」槃は笑いながら語ったが、その瞳は少し寂しげだった。

「でもどうやって、戻ってきたんですか?」

「はっきりとはわからない。ただ、あの時、戻りたいと思ったんだ、この星に。地球は楽しかったけれど、やはり、自分の故郷が懐かしくなったのさ。そう思ったと同時に、だんだんと瞼が重くなって、いつの間にか眠っていたよ。そして、目を覚ましたら、この星の浜辺にいたのさ。」どうやら、自らが帰りたいと望んだときに戻れるようだ。

「なるほど、でも、僕戻りたいか分からないです。だって、ここでの生活はとても快適で楽しいし、地球に戻ったらまた、父さんとけんかになるし、、う~ん。もう少しここに居たいかな。」僕と槃がそんな話をしていると、空が本を片手に戻ってきた。

「待たせたね。森の中の僕の本棚まで取りに行ってたんだ。この本だよ。」
空は、本をテーブルに置いた。その本も彼らの服や森の様に、キラキラと光り、大きさは、A4くらいで、少し大きめだ。パラパラとめくると、文章と少しの写真や挿絵が見えた。

そして、本の中盤のあるページのある写真に目が留まる。槃らしき少年と、地球の少年とその家族の様だ。民家の前でとった集合写真の様だった。だが、僕はその場所に見覚えがある気がした。

「あの、これがその少年と家族ですよね?」
「ああ、そうだよ、ここは彼らの家の前さ。地球人は固定の家を持つからね。」槃はとても懐かしそうに、写真をながめている。
「いやぁ、それにしても懐かしいね。和之(かずゆき)は元気にしているかな?」

「、、、、、かずゆき、、、。」僕の耳に、聞きなじみのあるその名が入った。

「ああ、この子の名だよ、僕たちは浜辺で出会ってね、後はさっき話した通りさ。和之は音楽が好きなんだよ。部屋には彼が好きなバンド?とかいうやつのポスターがたくさんあったよ。。この写真を見たら色々なことが思い出されるなぁ。」

。。。音楽、バンド、、そしてこの家、それに、和之?。。。

僕の頭にはある人が浮かぶ。でも、まさか。。そして、槃に尋ねた。

「その、もしかして、和之君の家で、犬飼ってたりしましたか?」

「犬?ああ、飼っていたよ、そういえば、名前は、、確か、、フミヤだったかな?」

。。犬のフミヤ。。

僕はもう一度写真に写るその少年を見た。そして、

「父さん。」

そう。僕の父の名は、和之。そして、彼は少年時代、当時、流行っていたチェッカーズというバンドの大ファンで、そのボーカルの名前をとり、犬にもフミヤと名付けていたのだ。そして、写真に写るその家は、父の実家だ。今でも定期的に祖父母の家を訪ねるので間違いはない。それに、写真の右端に、黒いバイクが写っている。

父の部屋には、黒いバイクを映した、一枚の写真が飾ってある。これはそのバイクに違いない。その黒いバイクは、僕の祖父が父に譲ったものだと、小さいころに教えてもらったのを思い出した。

信じられないが、まぎれもなくその地球人の少年は、僕の父だった。

「槃さん。その、、、和之は僕の父です。」

「え?」槃さんと空は二人とも同じ顔をして僕を見た。

「僕も驚いたんですけど、これは、僕の父です。」

僕は、写真に写る場所や、バイク、犬のフミヤのことなど、槃さんと空に説明した。

説明を聞き終わった後も、二人は信じられない様子だったが、少しして槃さんが口を開いた。

「そうなのか。君は和之の息子なのか。何という偶然だろう。でも、とてもうれしいよ、そしてよく見ると、彼に似ているね。目元や口元が特に。」

「父さんと行の父親が友達だったなんて。そして今はその息子の僕たちが出会って友達になるなんて、、すごいよ。」と空は感心していた。

「行君、それで、和之は元気かい?」槃さんが僕に尋ねた。

「はい。元気ですよ。僕たちのために毎日一生懸命働いています。あと、この黒いバイクの写真も父さんの部屋に飾ってあります!」

「そうか、それはよかった。」槃さんは、父の近況を知り、嬉しそうだった。

「でも、、僕と父は、仲がいいとは言えません。」父のことを思い浮かべると同時に、最近の父さんとはそりが合わないことも思い出した。

「どうして?」空が聞く。

「だって、毎日朝早く会社に行って、遅く帰ってきて、やっと僕と話してくれたと思ったら、学校の成績についていろいろ言ってくるし、父さん楽しそうじゃないんだよ、毎日。僕が小さいころは、バイクに乗って海に行ったり、一緒に音楽を聞いたりしていたのに。」

「そうなんだ。大変そうだね。僕は父さんと喧嘩をしたことなんてないよ。それぞれ好きな事をして、余り干渉しないからね。でも、どうでもいいわけじゃないさ、だってさっきも言ったけど、この星では、お金ではなく優しさや愛を交換するからね。父さんに何かしてもらったら、僕も何かお返しをするよ。」

「お返しか。僕は父さんに育ててもらっているのは分かっているよ、でも、最近の父さんは僕のことを叱ってばかりで、お返しをする気にはなれないよ。」

「なるほど。じゃあ、君は和之のことが嫌いなのかい?」この槃さんの質問に対する答えは、少し難しかった。

「嫌い、、ではないけど、、でもすぐにけんかになるから話したくないんだ。頑固なんだよ。僕の話は聞いてくれないんだ。」

「ああ、変わっていないんだな。あの頃も和之は、とても親切で優しかったけれど、少し頑固でね、一度こうと決めたらなかなか譲らない少年だったよ。それで、和之は僕のことを覚えているのかな?」

「う~ん。どうでしょう。父さんから槃さんのことを聞いたことは一度もないし、この星についても何も言っていなかったです。でも、忘れるはずないと思います、違う星から来た友達と会った事を。」

「そうだといいな。」槃は感慨深そうだった。

「じゃあ、行が話してみたら?覚えてるかどうか。父さんのこと。」と空が提案した。

「確かにそうだね、聞いてみたいよ!その時のこと、どんな場所に行ったのかとか、何を話したのかとか。」

ここにきてしばらくたち、1人の自由な時間を過ごし、とても満足していたが、三人で父さんの話をしていると、少しずつ、帰りたい気持ちが芽生えてきた。

「槃さん、僕地球に帰って、父さんに話したいです、ここで二人にあったことを。」

「そうか。では、そろそろ、戻れるかもしれないね。さあ、少し外を散歩しようか。」槃さんと僕たちは、小屋を出て、散歩することにした。

しばらく歩いて、森を抜け、浜辺に出ると、来たときと同じようにとても穏やかで広大な海が広がっている。僕たちは三人で腰を下ろし、海を少し眺めることにした。

「ほんとにきれいですね。人も全然いないし。」僕は改めて、つかの間の現実世界からのエスケープに感謝した。

「ああ、人の数より動植物の数の方が多いからね、でも、今度来たら他の人にも合うといいよ、木々に聞けばわかるさ。」という槃さんに続いて空も続ける。

「今度来たら、僕の母さんにも会うといいよ。今は、どこにいるんだろう、分からないけど、どこかにいるさ、とてもやさしい人だよ。」

「うん。ぜひ会いたいな。ここに来られてよかったよ。本当に夢のような時間だった。2人にも合えたし、色んな事を学んだ気がするよ。地球の生活は大変だけど、頑張って生きてゆく勇気が、少しだけわいてきたよ。空、槃さん、本当にありがとう。帰ったら、絶対、二人のこと父さんに、話すね!」そういうと、だんだんと瞼が重くなり、深い眠りについていた。

第六章 地球に戻る。父との再開。

どのくらいたっただろう。目を覚ますとそこは、僕の部屋のベットの上だった。

ー戻ってこられたんだなー

心の中でそうつぶやき、携帯を開く。朝の8時30分。日付は、僕が最後に地球で眠りについた翌朝だ。つまり、向こうでは数日間過ごしたが、地球では一晩しかたっていないようだ。

僕の部屋は二階。階段を降りると、母がキッチンで朝ご飯を作っていた。

「おはよう。今日はテストでしょ?朝ごはんちゃんと食べて、遅刻しないようにね!」と母さん。テーブルについて、目の前に出された味噌汁を一口飲んで、納豆のパックをあけたとき、玄関から声がした。

「母さん、今日は遅くなるから夜はいらないよ。」とっくに支度を済ませ、会社に行こうとしている父さんが、そう言いながら、ネクタイを締め靴を履いていた。

ーそうだ、父さんと話さなきゃ。ー そう思いだし、玄関へ走った。

「父さん!槃、覚えてる?昔あったことあるでしょ!僕も、」だが、僕の言葉を遮って、父はいつものように眉間にしわを寄せた。

「なんだよ、朝から、おはようも言わないで。もう、今急いでるんだから後にしなさい!」
そうゆうと、振り向きもせず、出て行ってしまった。

ーはぁ。しかたない。帰ってきたら話そう。ーそう思い、僕はテーブルに戻って、朝ごはんを食べ終え、学校に行く準備を済ませた。

支度を終えて、玄関に向かうと、
「ゆき~!お弁当わすれてるよ~!」と母さんが走ってきた。

それを受け取った時僕は聞いてみた。

「母さん、父さんてさ、違う惑星から来た友達がいるとか話してなかった?昔。」

「え?何言ってるの?勉強しすぎて寝ぼけているの?」母はそう笑った。

「ううん。何でもない。気にしないで。」僕はそう言って、足早に靴を履き、玄関の扉を開けたとき、母が何か思い出したように言った。

「あ、でも、かんさん?はんさん?みたいな名前の友達がいたって、出会ったばかりの頃言ってた気がするわ。韓国人のお友達なのかな?」

その言葉を聞いたとたん、あの星が夢ではない事、父さんと槃さんは、昔会っていたことが確信に変わり、とてもうれしかった。

「行ってきまーす!」僕は、勢いよく出発し、学校に行った。テスト中も昼休みも、家に帰るのが待ちきれなかった。

ーはやく話さなきゃ!ー 学校が終わり、いつもは寄り道するところを、今日ばかりはどこにもよらずに帰り、父さんの帰りを待った。

そして、夜の10時くらいに玄関扉が開く音がした。

ガチャ。「ただいま~。」僕は玄関に走った。

「おかえりなさい!」
「おお、ただいま。今日はやけに元気がいいな。いつもは出迎えたりしないのに。」父さんは少し驚いていた。

「父さん!聞きたいことがあるんだ!朝の続きだよ。」
「ああ、悪いが、今日は父さんも疲れているから、明日きくよ。明日は土曜だから時間もあるさ。」僕は、そういって、自分の部屋に行こうとする父さんを、引き留めた。

「今聞いてほしいんだ!」僕は父さんの腕をつかんだ。
「しつこいな、明日聞くって言ってるだろ。」そういって、僕がつかんだ手を父さんは振り払おうとする。

「槃!!槃さん!知ってるでしょ!!」その名を聞いたとき、父さんの動きがとまった。そして、ゆっくりと僕の方を振り返った。

「今何て?」
「僕も会ったんだよ!槃さんとその息子の空と友達になったんだ。」

「槃、、、」しばらく父さんは黙った。

そして、
「少し待っていなさい。」そういうと、自分の部屋に行き、スーツから部屋着に替えてから戻ってきた。

「ここに座りなさい。」僕は、リビングのテーブルに二人で向かい合って座った。

「それで、槃って、あの槃かい?」父さんは、真剣な顔でそう聞いた。
「そうだよ、惑星WATERから来た子だよ。1980年代父さんがまだ学生だった頃に会ったって言ってた。槃さんが、父さんたちの写真を持ってたんだ。」

それから僕は、目覚めたら向こうにいたことや、空との出会い、不思議な森や、槃さんのことなど、全てを父さんに話した。

全部聞き終えて、父さんは、何も言わずに黙っていたが、しばらくたって、口を開いた。

「そうか。」父さんは、心なしか嬉しそうだった。あの頃のことを思い出したのだろうか。

「槃とは、色んな事をしたさ。楽しかったな。懐かしいよ。」そう、笑いながら、父さんも槃さんとの事を色々話してくれた。

夏休みのある日に、浜辺にいったら、見たこともない服を着た少年が近づいてきて、色々話を聞くうちに、父さんの家に来ることになったらしい。それから、父さんは、自分の部屋のチェッカーズのコレクションを見せたり、一緒にフミヤの散歩もしたそうだ。槃は、地球の食べ物の中で、かき氷がお気に入りだったそうだ。そして、父さんも槃から、むこうの星のいろんなことを教えてもらい、それは僕があちらで見たものと一致していた。

僕たちは、時間を忘れ話した。気が付くと朝になっていた。

「お、もう朝だな。」
「そうだね。」

「少し待ってなさい。」そういうと父さんは、自分の部屋に行った。
しばらくして戻ってきたその手には、小さな石が握られていた。

「これ何?」
「ただの石だよ。河原に落ちてるやつさ。でも、槃はこれをかじろうとしたんだよ。
父さんびっくりして、必死で止めたんだ。これを見ると思い出すな。だから、この石は、河原に戻さずにとっておいたのさ。今日までこれのこと忘れていたな。」

「ああ、だって、向こうの星では食べられるからね!」石をかじろうとする槃さんと、それを必死で止める父さんの光景が目に浮かび、まるで僕と空だなと思った。

「ありがとう。最近お前と話す時間がとれてなかったな。父さん、仕事ばかりで。」

「ううん。いいんだ。父さんが家族のために一生懸命なことに気が付いたんだ。向こうにいる間に。でも、もう少し、自分の好きな事もして、楽しんでる父さんも見たいけど。」父さんはその僕の言葉に、微笑みながら少し涙を浮かべているようにも見えた。

「そうだな。。そうだ!これから海行くか?」
「うん!行こう!」

僕たちは、テーブルから立ち上がると、それぞれの部屋に上着を取りに行った。

そのあと、玄関を出て、ガレージにあったバイクに二人でまたがり、小さいころの様に海へと走った。

海につくと、朝の浜辺には人があまりいなかった。僕たちは浜辺に腰を下ろし、最近の学校や会社でのこと、将来の夢や好きな事についてしばらく語り、これからはお互い、趣味の時間を大切にしつつ、仕事や勉強を頑張る事を約束した。

僕は、昔の父さんが戻ってきたようでうれしかった。僕たちはしばらく浜辺を歩いた後、家に帰り、朝ごはんを食べた後、父さんの部屋に眠っていた、チェッカーズの名盤を二人で聞いた。どれもいい曲ばかりだった。それから、犬のフミヤの名前を付けるとき、家族に犬の名前にふさわしくないと、猛反対されたけれど、絶対に父さんは譲らなかったことなども教えてくれた。槃の言っていた通り、昔から少し頑固だったのだなとおもった。

そして、父さんはもう一つ教えてくれた。それは、地球からあっちの星に手紙を出せるらしいということだ。槃と父さんが別れたあと、数週間後に、ポストに一枚の大きな葉っぱが入っていたそうだ。そこには何か書いてあったが、日本語ではなく読めなかった。父さんは、何気なくその葉を部屋に持ちかえると、不思議と眠気に襲われ、昼寝をしてしまったそうだ。すると、夢の中では、その葉っぱの文字が読めたのだ。それは、槃からの感謝の手紙だったらしい。槃は、地球での体験を本にしたことや、地球から持って帰ってきた石をネックレスにして、首から下げていることを教えてくれたらしい。槃の首のネックレスは、この時のものだった。

そこで、僕も空に手紙を出すことにした。家の近くの公園で、大きな葉っぱをとり、その葉に爪楊枝でメッセージを書いた。

父さんも一言だけ、槃へのメッセージを添えた。そして、どうやってこれを向こうに届けるかわからなかったが、父さんが言うには、川に流すらしい。なぜなら、父さんは夢の中で槃が葉っぱを川に流す様子を見た気がするらしいのだ。半信半疑だったが、他に方法もないので、僕は、近くの川に葉っぱを流した。

惑星WATERでの体験や、空や槃との出会いは、僕にたくさんのことを教えてくれた。この不思議で、貴重な体験を忘れることは一生ないと思う。地球での生活に悩みは尽きない。だが、空が言っていっていたように、一生懸命生きるからこそ、悩みが生まれるのだ。これからも、地球での生活を全うしようと思う。

最終章 行が去った後のWATERで。

一方、惑星WATERの空は、行と別れた後は、またいつも通りの生活を送っていた。そして、ある日、森を散歩していると、せせらぎを見つけた。しばらく流れを眺めていると、大きな葉っぱが流れてきた。空はそれを手に取った。それは、行からの手紙だった。どうやらしっかりと届いたようだ。

~空へ~
僕は地球に戻りました。父さんも槃さんのことを覚えていたよ。僕たちが仲直りできたのは、君たちのおかげだよ。本当にありがとう。それと、きみは僕がうらやましいって言っていたよね。悩みがあるのがうらやましいって。でも僕思ったんだけど、それが君の悩みなんじゃない?おめでとう!君にも悩みができたね、一生懸命生き始めた証拠だよ。そっちの生活が恋しくなることもあるけれど、また会えることを信じて、僕は生きていくよ。では、また会う日まで。行より。P.S. 槃。旧友よ。息子が世話になったな。ありがとう。和之。

手紙を読み終え、空はつぶやいた。

「行。ありがとう。」

そして、その手紙を槃にも見せに行った。

槃は空が手渡した手紙を読んで、首の石をしっかりと握り、微笑んだ。

「父さん。僕、今日は、一生懸命に生きるってことをやってみようと思うよ。たとえ意味がなくてもね。意味はきっと自分で決めるものだと思うから。」

「そうか。父さんも今日はそうしてみようかな。」空と槃は晴れやかな面持ちで、空を見上げるのであった。


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