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関西を地盤とする食品スーパー、関西スーパーマーケットの買収問題

 関西を地盤とする食品スーパー、関西スーパーマーケットを巡る買収合戦で、一般株主や投資家から「判断材料が足りない」との声が出ている。

 2つの買収提案に関する関西スーパー側の説明だけでは、どちらが株主に有利かわかりにくいためだ。

 M&A(合併・買収)の際の企業の説明責任について、日本のルールなどが曖昧だとの指摘もある。

■比べられない価格■
 「エイチ・ツー・オーリテイリング(H2O)の提案では関西スーパーの1株当たりの価値がわかりにくい」。

 「きちんと2つの買収提案を評価したのか」。

 買収合戦が表面化した8月末以降、関西スーパーの株主や投資家が集まるネット上の掲示板には、不満を示す書き込みが連なる。

 関西スーパーには、H2Oと関東が地盤のオーケー(横浜市)がそれぞれ買収提案を出した。

 オーケーの提案は、上場来高値である1株当たり2250円でTOB(株式公開買い付け)を実施するもの。

 H2O案は同社の子会社の株式と関西スーパー株を交換するものだ。

 異なる構図の提案がぶつかる珍しいケースのうえ、H2Oの子会社が非上場のため市場価格がつかないことが比較を難しくしている。

 関西スーパーは、H2Oの提案を受け入れる方針だ。

 社外取締役と外部の弁護士で構成する特別委員会が両提案を検討し、「(オーケーの提案と比べ)これを上回るか少なくとも遜色ないもの」として、H2Oとの経営統合を進めるよう取締役会に勧告した。

 関西スーパーは勧告内容や経緯を公表しており、「現段階で株主への説明責任は果たしていると考えている」(同社広報)とする。

 ただ特別委員会も、H2O案が関西スーパー株を2250円よりも高く評価したといえるのかまでは言及していない。

 一般株主や投資家の戸惑いが消えない理由でもある。

■不明確な説明責任■
 そもそもM&Aについての適切な情報開示とは何か。

 日本には詳細なルールがないのが実情だ。

 企業法務に詳しい弁護士は「各提案について、現金に換算してどちらが高値をつけているかまで株主に示さなければいけないという法令はない」と解説する。

 法律ではないが、経済産業省は2019年に「公正なM&Aの在り方に関する指針」を策定した。

 同指針は、買われる側の企業が対価が低い買収提案の方が企業の価値を向上させると判断する場合は「判断の合理性について十分な説明責任を果たすことが望ましい」とする。

 九州大学大学院の徳本穣教授は、同指針などを踏まえ、関西スーパーの取締役が十分に説明することは「民法や会社法で定める善管注意義務・忠実義務の内容になってくる」とみる。

 会社に損害を与えないよう十分に注意を払って業務を行う法的な義務のことで、過去の判例でも、適正な情報開示をその義務の範囲に含むとするものがある。

 ただ指針も、何をもって「十分な説明」とするのかまでは詳しく示していない。

 結局、関西スーパーの情報開示が妥当といえるのかどうかは、はっきりしない。

■米国は訴訟リスクが後押し■
 米国との差を指摘する声もある。

 米国では1986年の判例で定着した「レブロン義務」により、企業経営者は株主のために最善の買収価格を獲得する努力を尽くす義務を負う。

 複数の買収提案が出された場合、会社側はどの提案が最も株主の利益になるのか、株主にしっかり説明しなければならない。

 株価の算定が難しい複雑なスキームでも、説明責任の重さは同じだ。

 米国のM&Aに詳しい植松貴史弁護士は「株式交換において、非上場会社の株式の算定価格の公表まで踏み切る例はまれとみられるが、少なくとも、どの提案が最も評価が高かったかを判断した根拠は丁寧に説明することが求められる」と話す。

 説明不足となれば、反対する株主から多額の賠償金を求める訴訟を起こされるリスクもある。

 関西スーパーは10月末の臨時株主総会に、H2O側との経営統合案を提出する。

 総会では、3月末時点で約35%を保有していた個人株主の動向も影響を与えそうだ。

 関西スーパーが今後、どれだけ説得力のある説明を続けるのか。

 それは買収合戦の行方を占うだけでなく、日本のM&Aにおける情報開示のあり方にも一石を投じる。


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