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5年分の思いを捉え直す。「EVERY DENIM」から「ITONAMI」、リブランディングの道のり

“デニム兄弟”の愛称で親しまれる山脇耀平さんと島田舜介さんによって、2015年に誕生したデニムブランド「EVERY DENIM」が「ITONAMI」へと生まれ変わりました。

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立ち上げから5年で5回のクラウドファンディングを行い、47都道府県を巡り、沢山の縁を育んできたEVERY DENIM。

今回CIALは、そんな数多くの方から愛されているブランドのリブランディングを全面的にサポートさせていただきました。

5年間使ってきた名前はどのような過程を経て「ITONAMI」へと編み直されたのか。改めて振り返りたいと思います。

ことの始まり

ある日、島田さんから、CIAL代表の戸塚に一通のメッセージが届きました。

「名前とロゴを変えたいと思っているんだよね」

その相談を皮切りに、リブランディングのプロジェクトがスタートしました。

元々、島田さんと戸塚は同じ大学出身。戸塚が運営していたコーヒースタンド「Colored Life Coffee」はEVERY DENIMのイベントに出店したこともあり、何かと縁がある関係。依頼が来たときのことを、「めちゃくちゃ嬉しいという気持ちと、強いプレッシャーの両方が一気に降りかかってきた」と戸塚は振り返ります。

そもそも、 二人はなぜリブランディングをしようと思ったのか。

その理由は、デニム兄弟の取り組みがEVERY DENIMという名前に込められた思いを”追い越してしまった”からでした。

元々、EVERY DENIMは、二人が、デニムの作り手を伝えるメディアを立ち上げたときにつけた名前。ロゴも、その時に作ったもの。5年間たくさんの人に愛されてきたEVERY DENIMという名前は、その役割を全うしたのではなないかと、二人は思ったそうです。

詳しい経緯は是非、このnoteをご覧ください

依頼から完成までの期間は3ヶ月。

リブランディングは、リサーチ、アイデンティティデザイン、ブランディングの三つのプロセスで行われました。

過去と未来からアイデンティティを探る

EVERY DENIMが拠点を構えた場所の”空気”を知りたいという思いから、リブランディングは岡山への弾丸出張から始まりました。

王子が岳や児島ジーンズストリートなどの観光名所、二人の運営する宿泊施設「float」、そして普段の生活が垣間見える場所など、いろいろなところへ連れていってもらいました。

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(王子が岳からの景色)

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(児島ジーンズストリート)

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(floatのフロントの様子)


一通り街を回った後、まず着手したのは、EVERY DENIMの歴史を振り返り、年表を作ること。二人にとって印象的だった出来事を深堀り、なぜ心に残っているのか、その時の気持ちを丁寧に言語化していきます。

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過去を振り返る年表の次は、未来のEVERY DENIMの姿について考えました。

出てきた言葉は一つひとつ付箋に書き出していき、言葉が持つ意味ごとに分け、未来の青地図となるブランドの思考をマッピングした「vision map」として落とし込んでいきます。

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vision mapは、歴史を踏まえた上で、これからに視線を向けるための二つの問い「EVERY DENIMはこれから何を象徴するか?」「EVERY DENIMはどんな世の中、社会をこれから目指すのか?」について発散、統合して作られます。

ここで出てきた言葉をベースにアイデンティティデザインに取り組んでいきました。

デニム兄弟から見出した、「誇り」と「縁り」

CIALでは、アイデンティティデザインは企業や個人の思想や哲学を言語化するプロセス、ブランディングは、アイデンティティを外向きの「テキスト」と「ビジュアル」で表現し、「ブランド」を形づくるプロセスと定義しています。

アイデンティティはビジョン・ミッション・コンテクストの三つの要素で構成します。

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アイデンティティを形作る言葉は、デニム兄弟の思考・思想に由来するものではなくてはありません。

振り返ってきた歴史とこれからの未来を考える中で出てきた言葉から、それぞれ次のように定義しました。

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ビジョンで使った「誇り」という言葉は、過去と未来を振り返る過程のどちらでも出てきた言葉であり、これまでの取材やクラウドファンディング、二人からの発信の中でも幾度となく使われていた言葉でした。

だから、「誇り」という言葉には、二人の強い思いが宿っていると感じました。

「縁り」は、二人がデニムを持って日本全国を周り、各所で「縁」を作り、持ち帰っている姿勢から着想得ました。正しい使い方では「縁り」に送り仮名はつかないのですが、「誇り」と字面を揃えるために、あえてつけています。

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余談ですが、EVERY DENIMの岡山の店舗の入り口には「縁」という文字が書かれた額縁があったそうです。(ビジョンができるまでまで二人とも意識していなかったそう)

ITONAMIという名前が生まれた理由

アイデンティティが決まり、次はブランディングです。

まず、ブランドの核となるブランドコンセプトを作ります。

コンセプトは、ブランドのアイデンティティを伝える上での視点です。それを作るためには、ものづくりに対する覚悟や姿勢を向き合わなければなりません。

どんな視点でアイデンティティを見つめれば良いのか。まず、4つのブランドコンセプトを提案しました。

てっきり、ロゴと名前が提案されると思っていた二人からは「意外だった」という言葉が。

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この中から選ばれたのが、左上の「arch」と左下の「ことからデニム」。

「『arch』は工場と小売店、岡山と全国、海外など僕らと何かを橋渡しするイメージを感じました。どんどん遠くまでいける信頼感。それは、これまでとこれからの自分たちに近い気がしたんですね。

『ことからデニム』には、親近感やカジュアルさがあって、そういう距離の近さも、今後新しい名前に触れる方々に伝えたいものでした」(山脇さん)

どっちの要素も入れたい。だから、どちらかに絞るのは難しい。それがこの時点でのデニム兄弟の答えでした。

より多くの縁を結び、活動の幅は広げつつ、出会った人にはこれまでとは変わらない親しみやすさを感じてもらう。

そんな名前をつけるため、そもそもEVERY DENIMはどんな意味を持っていたのかを改めて考えることにしました。

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ブランドの担い手だけでなく、一緒に作る工場の方や、手に取ってくれたお客さん、縁を結んできた人たち。各方面からどう呼ばれ、どんな印象を与えられてきたのか。

たどり着いたのが「生きる」、「生活する」といった印象を想起させる「いとなみ」でした。archで示した「越えていく、ムーブメントを起こす」といったイメージをどう表現するか、「ことから」の日本語的なやわらかい語感をどう残すか。そんなことを考える中で生まれた言葉です。

そして生まれたのが、「Itonami Denim」。

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では、なぜ名前から「デニム」を取ったのか。

当初、二人が携わるのはデニム産業なので、デニムという言葉は残すつもりでした。一方、民泊「float」やオンラインの街「えぶりシティ」のように、二人の活動はデニム屋さんの領域を超え始めていました。

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(floatの一室、瀬戸内海が一望できる個室「Hanada」)

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(えぶりシティのトップページ)

であるならば、「ITONAMI」という言葉自体にデニムが持つ意味を内包し、デニムと同じように、時間が経ってもずっと愛される言葉として育てていくのが良いのでは、と思ったのです。

こうして、アイデンティティにぴったりの服「ITONAMI」が生まれました。

「信頼感」と「親しみ」を両取りしたロゴ

最後に、ITONAMIのロゴがどのように生まれたのかを紹介します。

ロゴ作りは、ブランドの輪郭を掴むところから始まります。『エブリさん』という人がいたときに、その人はどんなパーソナリティなのかを考えていきます。

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エブリさんを外側へと見せるとき、どんな視点で見せれば良いかというブランドコンセプトは先ほど紹介した通り。

「信頼感」と「親しみやすさ」の二つの要素は、デニム兄弟自体を表しています。これまでは、彼らを通じて感じていた印象も、今後ITONAMIが外へ外へと広がっていった先には、商品やロゴが先行してこの印象を伝えていく必要があります。

二つの要素を内包するだけでなく、面に立ち、引っ張っていく力強さのようなものを表すロゴとは何か。答えが出ない中で、ふっと頭に浮かんだのが、岡山に訪れた日に見た、王子が岳からの瀬戸内海の景色でした。

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瀬戸内海の景色や、そこにかかる橋にインスパイアを得て、ロゴの素案を考えていきます。

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抽象と具体を行き来しながらたどり着いたのが、橋を支える鉄線を残したものでした。

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明らかに”橋”だとイメージされてしまうロゴだと、意味を入れる器としての役割が果たせません。ITONAMIに込められた”人々の意の交わり”や”波”、”糸”など、大切にしていることをできるだけ表現できるロゴにしたいという思いから、このロゴが生まれました。

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大枠が決まった後は、さらにディテールを詰めていきます。

グラフィックだけでなく、タイポグラフィも。

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デニムの革ラベル部分に縫い付けてもロゴが潰れないかも検証しました。細かいところですが、重要です。

最後に、ブランドブックを制作し、3ヶ月という短くも、濃い時間を経て、EVERY DENIMからITONAMIへの編み直しは、無事終わりを迎えました。

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終わりに

名前もロゴもビジョンも全てを一新して、デニム兄弟の二人は今どんな気持ちなのか。これからITONAMIと共にどんな道を歩もうと思っているのか。そんなことを聞いてみました。

ブランドというのは今を記すものに留まらず先を示すものであると気づかされました。ITONAMIに関わる全ての人にとって大切なブランドにしてゆきたいです。

リニューアルの過程を通じてCIALのメンバーと深いレベルで思想の共有ができたことが何より嬉しいです。全てにおいて想像を上回るアウトプットを提案いただいて本当に感謝しています。

一層『意』を大切に、個人の強い想いが尊重され人の心を動かし、より生きやすい社会を目指して活動していきます。(山脇さん)
今までは山脇と2人3脚で進めてきましたが、これからはよりたくさんの人たちと一緒にブランドを育てていく意識が強くなりました。組織的にも法人格が芽生え、一層引き締まる思いです。

ロゴは、いろんな意味が込もっている絶妙なバランスの抽象度、ありそうでない具象にとても新鮮さを覚えました。また、自分たちが発したような言葉選び、表現方法にとても驚きました。価値観を入念に調べ上げ、僕らが使いやすさを意図してくれたんだと考えています。

場所を構え、そこから見える景色を大切にしながら事業に取り入れ表現していきたいです。(島田さん)

最後に、今回リニューアルに携わった戸塚と加藤からITONAMIとITONAMIを愛してくれている方達へ向けての言葉で締め括りたいと思います。

2020年6月に私たちは『思想・哲学が力になる世の中へ』をビジョンに据えました。そんなCIALにとってデニム兄弟とのプロジェクトはまさに、EVERY DENIMの活動を通じて育んできた感情や思考の集積をいま一度紐解き、真ん中にあるものに意志を添えて形にし、思想・哲学として世の中に伝えることでした。

ITONAMIという名前や姿が、これから世の中に働きかけていく力の源になってくれたらと願っています。(加藤)
これまでの5年分の思いをのせて。積み重ねてきた過去の記憶から自分たちが大切にしてきたことを認識し直して、新しいこれからを歩むことができる。そんな、ブランド自体を引っ張ってくれるようなロゴになってくれるようデザインを進めました。

ここからのEVERY DENIM改めITONAMIのものづくりをこれからもよろしくお願いいたします。(戸塚)

CIALではITONAMIのように自分のたちの思想や哲学を今一度振り返り、次の歩みを考えている企業やブランドの支援をしています。ご興味のある方は、是非ご連絡ください!

執筆・編集:イノウマサヒロ



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