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「持続可能な価値」を最大限に引き出すデザイン。信州リンゴのグラノーラ「RINO」開発の裏側

「RINO(リノ)」は「アップルライン」の名称で親しまれるエリアで収穫できる信州リンゴを使ったグラノーラです。

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「アップルライン」はりんご名産地として名高い長野の中でも一大産地でしたが、2019年に台風19号の影響で被害を受けてしまいました。このプロダクトは、同エリアで農園を営む方達を前向きにしたい、という思いで始まったクラウドファンディングの一環として作られたものです。

CIALはプロダクトのコンセプト作りから、パッケージデザインまで商品開発に一貫してサポートしました。

RINOが生まれるまでの道のりを、共にプロジェクトに取り組んだ株式会社CULTA代表の野秋収平さんと、フルプロ農園の徳永虎千代さんと一緒に、CIAL代表の戸塚が振り返りました。

被災した農園に希望の光を。「RINO」プロジェクト始動の背景


野秋さん:全ての始まりは、2019年の10月10日。今でも日付を覚えています。この日に、虎千代さんとお会いしました。CULTAは、アグリビジネスを展開している会社なので、一緒にお仕事できるといいですね、と話していたんです。

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(左:株式会社CULTA代表 野秋 収平さん 右:フルプロ農園 徳永 虎千代さん)

虎千代さん:元々はオペレーションの改善を依頼する予定だったのですが、10月13日に台風19号が上陸して、リンゴの木全てが被災。3メートルくらい浸水してしまいました。

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(台風被害にあった当時の様子)

野秋さん:10月16日に初めて農園を訪れて、その日はボランティアでゴミ拾いなどを手伝っていました。

虎千代さん:被害規模は凄まじく、農園のみんなは農家を続けようか、とても悩んでいる様子でした。無理もないですよね。でも、自分だけは前を向くことができた。それは、野秋さんをはじめとして、多くの方が助言をくれたから。東日本大震災や熊本地震の時に使われた補助金を教えてくれたりと、ちょっとだけ光が見えたんですね。

ある方が提案してくれた助言の中の一つが、クラウドファンディングでした。私の運営するフルプロ農園だけでやることもできたんですが、アップルライン全体を巻き込むことで、少しでもみんなが希望を持つことができたらと思いました。それに、農園の中で自分が最年少だったんですね。これは、やるしかないなと。

そこで、「長野アップルライン復興プロジェクト」というコンセプトではクラウドファンディングを立ち上げたんです。

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目標に置いていた1000万円の支援金と1000人と支援者数は多くの方々のおかげで無事達成できました。このクラウドファンディングのリターンの一つとして用意していたのが、リンゴグラノーラ「RINO」です。

みんなの気持ちが沈んでいく中、前向きに慣れるような明るいニュースを作りたという思いから、新商品の開発を公約に掲げていたんです。

戸塚:CIALが関わりはじめさせていただいたのは、クラウドファンディングを立ち上げる直前くらいでしたね。

野秋さん:CIALに声をかけさせていただいたのは、モノの価値を正しく伝える上で、デザインがいかに大事かをわかっていたからです。CIALは自社でMATERIAというコーヒーのプロダクトを作っていたり、CROKKA(クロッカ)というお菓子の開発を支援していたので、ぴったりだと思ったんです。

リンゴの良さを最大限活かし、継続的に買いたくなる商品とは

戸塚:CIALは、商品のコンセプト開発から携わらせていただきました。

元々のリンゴの価値を最大限に高めなければ、わざわざ加工品で販売する意味がありません。なので、アップルラインのリンゴの良さが損なわないことを第一に考えていました

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(株式会社CIAL代表 戸塚 佑太)

虎千代さん:高齢化や後継不足など、暗いニュースが多い中で、追い討ちをかけるような台風。私としても、自分たちの作っているリンゴがいかに価値のあるものかを、農家の方に知って欲しいという願いがありました。

野秋さん:参考にしていたのは、東日本大震災の被災地、三陸を支援するために作られたサバの缶詰「Ça va(サヴァ)?缶」。

使っているサバの質が高い、というのはもちろんですが、デザイン面がすぐれていました。当時、スーパーで売っているサバ缶は、「鯖」という漢字が前面に押し出されているようなものが多かった。「Ça va?缶」のような思わず手にとりたくなるようなデザインのようなものは新鮮で、売られているのも成城石井のような高価格帯の商品を取り扱っているスーパーでした。

アップルラインのリンゴも、成城石井に置いても良いくらいのリンゴだと思っていました。であれば、高価格帯のスーパーに置いていないリンゴの加工品を作れば、そこのポジションを狙いにいけるだろうと思ったんです。

戸塚:検討の結果、ドレッシング、シリアルバー、グラノーラの三つの候補が上がり、決まったのがグラノーラ。

グラノーラに決めたのは、手にとる人が継続的に日常で楽しむことができる、という基準から。というのも、今回のプロジェクトが打ち上げ花火のように一時的なもので終わっては意味がないと思っていて、買い続けたいな、ともらえるものにしたかったんです。

グラノーラであれば、「週末食べる贅沢な朝ごはん」や「時間がない平日に食べたい朝ごはん」など、朝ごはんという枠組みの中でも、複数の切り口で商品が作れるのも決め手になりました。


タイムリミットが迫る中、日常食から、スペシャリティ路線への変更

野秋さん:グラノーラを作ることが決まって、まずクラウドファンディング用にプロトタイプを作りましたね。

戸塚:「信州産のリンゴを用いたおいしい朝ごはんのための定額で毎月届くリンゴグラノーラ」というステートメントを掲げて、名前とパッケージを決めました。この時、仮の名前として「RINO」と名付けたんですが、それがそのまま浸透して、本採用されました(笑)

野秋さん:その後、プロトタイプが実際にユーザーのニーズに合っているのかを確かめるために、クラウドファンディングのリターンの一つとして試食会を行ったのですが、ここで方向性がガラッと変わりました。

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(試食会の様子)

フィードバックを通じて痛感したのが、市販品の価格の安さ。元々、日常の朝ごはんがコンセプトでしたが、毎日食べるには「RINO」は価格が高すぎた。もちろん、高いのには理由があって、材料とパッケージにかなりこだわっているから。リンゴだけじゃなくて、国産大麦を使ったり、甘さも甘味料をできるだけ使わないようにしたりと、本当に健康で良いものを作っていたんです。

そうした前提で、市販品と戦えるような価格帯に下げようとすると、今度はパッケージに予算を使えなくなる。でも、パッケージデザインへのこだわりは商品自体の魅力を高める上で、不可欠な要素。

背景を何も知らない人が「RINO」を見たときに、「復興のためだから、価格が高くても仕方ない」と思って欲しくありませんでした。「Ça va?缶」も通常の鯖缶に比べると高い値段ですが、復興支援を背景に作られたプロダクトだってことを知って買っている人って、今はそんなに多くないと思うんです。でも、ちゃんと売れ続けていて、三陸の鯖そのものの良さが支持されている。「Ça va?缶」と同じように製品自体がよくて、結果として復興支援になっている、という方向にしたいと3人でよく話していました。

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戸塚:なので、日常で食べ続けるものから、特別感を感じるものにコンセプトを変え、パッケージも一新しました。

特別感を出すために、リンゴのサイズを大きくすることになったので、それが見えるように外の箱に穴を開けたり、パッケージをゴム紐でくくったり。

パッケージデザインも直線や幾何学模様の多い、抽象的なグラフィックから、リンゴの絵を模した砂時計をデザインしたり、赤色の彩度を落としたりと、特別感が一目で伝わるものに変更しました。

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虎千代:いただいたグラフィックを見て、こちらのメンバーも盛り上がりましたね。箱を包装するためのマニュアルまで作っていただいて、助かりました

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包装マニュアル

野秋:今回のプロジェクトは時間との戦いでもありました。プロダクトを作るために政府の助成金を使っていたのですが、これの期限が3月末まで。加えて、アップルラインのリンゴは日に日にダメになっていく。コンセプトを変更したのが2月上旬。予算を確定しないと、動けないことが多く、本当に大変だった記憶があります。

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戸塚:そんな中、デザイン面で妥協できないところはしっかりと交渉してもらって、本当に助かりました。

全国紙にも取り上げられ、農家に希望が戻ってきた

野秋:無事、3月末までに商品が完成して、長野駅前の東急百貨店をはじめとして、いろんなところで取り扱っていただきましたね。価格帯は1200円と高価格にもかかわらず、販売個数は1000個を超えました。メディアにも取り上げていただいて、読売新聞や朝日新聞長野版などで、話題にしていただきました。

虎千代:地域の注目度は本当に高かったですね。取り上げていただく際も本当に復興して欲しいんだ、という思いがマスコミの方から伝わってきて嬉しかった。

農園のみんなもこうした反響を受けて、まだまだ可能性があるんだな、と少し前向きになった気がします。

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野秋:改めてプロジェクトを振り返って見ると、2月にコンセプトが変更になってから、1ヶ月で農園の人たちから一発OKが出るデザインを作って、箱の発注まで終えて、というCIALのスピード感には助けられました。あのスピード感がなかったら、絶対にうまくいっていなかったと思います

虎千代:スピード感もそうですし、私たちとしては、自分たちの思いをしっかりと汲み取って形にしてくださったと思っています。まだコンセプトが固まり切っていないラフの時点から、そこに書かれている言葉にすごく共感できたんです。

野秋さんもおっしゃってましたけど、復興という背景に頼らず、商品そのものが良いから売れ続けるようにしたかった。そこの部分をデザインで落とし込んでくださったと思いますし、売上という結果にも出ている。一緒にお仕事ができて良かったです。

戸塚:僕たちは、今後「衣食住」の領域で、歴史的背景や地質的背景から、その地域にのみ存在し得る「偏り」を発見し、それが自続するためのものづくりや仕組みづくりを行っていきたいんです。「RINO」は、僕らにとっても大切なプロダクトになりました。なので、むしろ僕たちがお礼を言いたいくらいです。今後も、是非一緒にお仕事ができたら嬉しいですね。

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文・写真 / イノウ マサヒロ OGPデザイン / 宮川 時雨

CIALでは企業や商品のアイデンティティデザインを支援しております。ご興味のある方は、お気軽にご連絡ください

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