16歳最後の夜、NUMBER GIRLと私。

執筆開始、2021/11/17、18:29。

16歳、最後の夜である。

またひとつ若さと青さを失ってしまうんだなあ、と、
NUMBER GIRLのライブ盤、「サッポロOMOIDE IN MY HEAD状態」を聴きながらぼんやり思った。

少女と、焦燥、繰り返される諸行無常が詰め込まれたこのバンドの音楽を聴いていると、自然とそう思えてしまう。

14歳でNUMBER GIRLというバンドに出逢ってから、
16歳最後の日に、ようやく初めて手に入れた、NUMBER GIRLのCD。

そのCDがナンバガのラストライブの様子を収めたものであるなんて、何だか不思議だ。

遡ること、執筆の3時間ほど前、私は山奥にある家からバスに揺られて市街地に出かけ、某CDショップに足を運んだ。

中古CDコーナーの ” な ” 行の棚を指でなぞり、ナンバガのCDを探す。

棚の真ん中あたりでCDを追いかける指が止まる。

たった1枚だけ、あった。

それが「サッポロOMOIDE IN MY HEAD状態」だったのである。

迷わずそれを手に取り、レジに進む。

手に持つCDに目線を落とすだけで心臓が高鳴った。

中古、税込550円。

小銭を握りしめてCDをレジに出した瞬間から、一刻も早く
CDプレイヤーに突っ込んで聴きたい衝動に駆られた。

私が産まれる前の、私が知らないライブ。

NUMBER GIRLの歴史が終了した瞬間、は何だったのか。

ただ、知りたかったのだ。

それから長い距離を歩いて帰宅する間も、頭から彼らの音楽は頭から離れなかった。

ナンバガの世界に引き摺り込まれたきっかけ、「鉄風 鋭くなって」がずっと脳内でループしていた。

11月中旬の、冷えた鋭い風は、まさしく鉄風だった。


帰宅して封を開ける。丁寧にディスクを取り出し、父が使っていた古いCDプレイヤーにセットする。

Disc1の1曲目、「I Don't Know」が再生開始される。

ただ耳を澄ませて聴き、

脳にただ流れ込む音に身を任せる。

観客の熱気と、ナンバガの演奏の迫力、
それらを内包した会場の空気感が手に取るように分かるほど、音に込められた力は凄かった。

気付けば5曲目の「透明少女」が流れ始める。

向井秀徳の鬼気迫るボーカルに思わず驚いた。

MVで聴くより、ボーカルの音量が大きい。

明瞭に、はっきりと聴こえるボーカル。

言語化できないほどの、強さを感じた。

けれど、敢えて言葉にするなら、
” 殺傷力を持った ” 歌声だった。

例えるなら鋭いナイフ。また或いは、鋭い棘。

そんな、明確に聴く者を突き刺し貫かんとする向井のボーカルに、田渕ひさ子の迫力あるテクニカルなギター、中尾憲太郎の重厚感あるベース、アヒトイナザワの駆け抜けるようなドラムが合わさった時、NUMBER GIRLの世界は爆発し、それを耳にする全ての者を丸呑みにしてしまうのだ。

ただ呆然とCDを聴きながら、私もまた、NUMBER GIRLというバンドが繰り出す世界に呑み込まれた一人なのだ、と強く思った。

気付けば既にDisc1は終了しており、音に突き刺されたままの私は余韻に浸りながら、Disc2をプレイヤーにセットした。

それからの時間はもはや光速に感じた。

向井のMC、観客のメンバーを呼ぶ声。

私の歌詞カードを追う目。尚も生々しく再生されるライブ。

それら全てが、ただ絡まって、絡まって、
私の中の言い知れない、不明の衝動に火が点いた。

オルタナティブロック、の本当の意味が解った気がした。

新進気鋭のロック、を記録したディスクは、私の若い心に勢い良く着火してから、風のように流れ、そして、

Disc2、最後の曲、「IGGY POP FAN CLUB」を鳴らした。

私の心はもはや、2002年11月30日の札幌ペニーレインにいた。

私が産まれる前の、私が知らないライブを、紛れもなく追体験していた。

CDでありながら、音のみでありながら、
鮮明に脳に広がるライブハウスの光景。

「IGGY POP FAN CLUB」の最後の一音が鳴り切った時、

それはNUMBER GIRLの歴史が終了した瞬間。

それを耳に焼き付けた私は、改めて、このバンドは凄いバンドだ、と強く思った。

「サッポロOMOIDE IN MY HEAD状態」、収録時間100分。

その100分には、演奏と人間の真髄が、確かに記録されていた。

そこで終了したNUMBER GIRLの歴史は、2019年に再び動き出した。

再結成。リアルタイムでナンバガを知ることができなかった私にとって、それがどれだけ嬉しいことか。

私は再結成したナンバガの音を、早く生で浴びたいと思った。今の彼らの、さらに磨かれた音を。

私はNUMBER GIRLの行く先を、彼らの行き着く真の終着点を、この眼で見届けたい。

そんな中、ふと時計に目をやると、既に日付が変わっていた。

ああ、また、若さと青さを失ってしまった、

2021/11/18、0:12。17歳になった私は、16歳最後の夜に酷く焼き付けたNUMBER GIRLの音を脳内でリフレインさせながら、独り、そう思う。

来年の誕生日前夜も、きっとこうして感傷に浸るのだろう。

だが、例え若さと青さを忘れようと、
思い出は私の頭の中に、必ず有る。

まさしくこれは、OMOIDE IN MY HEAD、である。

私はそれを大切に抱きかかえながら、ひとつずつ、若さを、青さを棄てていくと誓ったのだった。

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