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劇伴について考えてみたいと思います。
劇伴とはドラマやその他全般の映像においてのBGM、フィクションやノンフィクション問わず物語や筋を際立たせていくための音楽の事を指します。
サウンドトラックとも言い換えられます。
この劇伴の良し悪しが観るものの感情を揺さぶり、トータルでの映像作品についての印象を決定づける役割を果たすのです。その点で音楽は非常に映像との結びつきが強いが故に、映像を作る側は音楽への造詣が深いに越した事はないと理解できます。

そこで、劇伴の音楽ジャンルについて、敢えて私見として比較的という抽象表現ではありますが、相性から取り上げるとした場合、メロディを強調するタイプのジャンルカテゴリーより、あくまでも映像作品における行間を音楽化するカテゴリーの方を私は好みます。
冒頭で解説した劇伴の主張が強すぎると音楽がドラマを引っ張る流れとなり、映像本体の印象が薄くなる効果が生じるのです。ミュージッククリップはその効果を活かした音楽主体の映像表現である事が分かります。
実は良い映画とされるものについて、案外音楽の印象が薄い特徴となる理由は、音楽自体がアブストラクト(抽象的)に上手く映像をサポートする役割に徹している感が見て取れます。

その意味合いでは、
・クラシックでは現代音楽、前衛スタイル
・ジャズではモダン且つフリー
・ポップミュージックではアンビエント、エレクトロニカ
・ロックではノイズ、プログレ、ブルース系統

総じて、もしかすると単体で聴くと、人によっては退屈や冗長的に感じてしまう可能性があるかもしれない音楽群かもしれません。ですが、映像と合わさる心象風景を先に挙げた分かり易くない音楽表現が多分に威力を発揮するのは、偶然ではありません。
心象風景とはある意味、行間を表しているので、観ている側の解釈に委ねられている方法論を採ります。これは意図的に仕組まれます。くだいて解説すると、どちらに行くか分からない事を示唆しているのです。そこに劇伴を当てる場合を考えてみます。
・無音
・音数の少ない構成で
・遠くで鳴っている(場面によりますが、限りなく雑音に近い感覚)

心象風景なので、主体が誰かではあるものの、何でも分かりやすさを求めるテレビドラマタイプであれば、各登場人物のテーマ曲が劇伴作成上、用意しなければいけないケースが殆どですので、誰かのテーマ曲が流れる可能性はあります。
それはさておきとしまして、劇伴を当てると言いながら何と‘無音’の選択肢が設けられています。この無音こそ、最強の劇伴であるという発想に着眼して欲しいのです。厳密には完全に無音にする場合と背景からの環境音(効果音)のみが使用される場合があります。
最も効果的と思えるシーンについて、この場合を心象風景として、無音を選択する判断もあるのです。
次の音数が少ない構成、これは楽器の数が少ない点と単音と隙間で組み立てる劇伴です。私の視点がややアート寄りかもしれませんが、もう少し大仰な構成でもテンポを落とすなり、逆にフリーなアンサンブルにまとめる方法もあり得ると思います。
最後は‘遠くで鳴っている’というのは、走行車、カーステレオからの漏れた音楽や行き交う人たちの会話といったもので、心象風景をサポートする判断もあり得るという意味になります。

映像に音を付けるという意味合いは、あくまでも映像が主体となりますので、音を道具化できるスキルが大事になってきます。つまりポップミュージックしか音楽として興味がなければ、劇伴については音楽プロデューサーが担う必要があります。
映像における音楽造詣も必須であるのは確かとしても、今回の映像におけるアブストラクトミュージックの起用、この相性理論は実際、予算的な前提に左右される苦肉の策の面もあるのですが、私には結果的に功を奏していると見受けられます。

最後に私のオススメのサウンドトラックをご紹介します。

『死刑台のエレベーター』サウンドトラック

ヌーヴェルヴァーグの金字塔の一つとして名高いルイ・マル監督作品。
劇伴はモダン・ジャズの帝王、マイルス・デイビスが手掛けた即興による録音制作と云われています。映像のセンスと音楽のセンスが融合し合うスリリングさは真骨頂です。

https://wmg.jp/ry-cooder/discography/6496/

『パリ・テキサス』サウンドトラック

ロードムービーの金字塔としてヴィム・ヴェンダースが手掛けた歴史的傑作。
劇伴はスライドギターの名手、ロックギタリストのライ・クーダー。
ボトルネック奏法を駆使したギターフレーズが場面の余韻を引き立てます。
ライ・クーダーの創造性がいかんなく発揮された名盤。

『寝ても覚めても』サウンドトラック

アカデミー賞等の受賞で世界的に評価の高い濱口竜介監督の商業映画初作品。
劇伴はエレクトロニカ・アーティストのtofubeatsが手掛けています。自身のポップセンスを活かしながら映画空気感を醸成していくことに成功。アルバムとしても秀逸です。

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