見出し画像

絵本と音楽と映画のプレイリスト 02:家

音楽/

Paul Simon & Ladysmith Black Mambazo - Homeless

災害で家と仲間を失ったアフリカ人の嘆きを歌にした、ポール・サイモンのアルバム『グレイスランド』の収録曲。悲しいのにどこまでも優しいコーラスは、レディスミス・ブラック・マンバーゾ。本稿のBGMに。

矢野顕子 - Home Sweet Home
https://www.youtube.com/watch?v=gr15YHlo_jU

ハナレグミ - 家族の風景
https://www.youtube.com/watch?v=E93zsGUiPb8

先日、ひとり暮らしの父親が住む実家の屋根をまるごと修理してもらった。高額なリフォーム業者の飛び込み営業を断るため、相見積を頼んだ別の業者が、誠実で適正な値段で引き受けてくれるというので、そのままお願いすることになったのだ。30年以上雨風にさらされてボロボロになった屋根が、たった3日の作業と新品の資材でぴかぴかに生まれ変わった。

最初の悪徳(?)業者の訪問がなかったら、父親も屋根を直そうなんてきっと思いもしなかっただろう。しかし高齢の父としては、それをきっかけに、屋根を直すこと=子孫(うちの家族)に家を残すこと、だと考えるようになったそうだ。勘当同然の状態で家を出てから、十年近く全く帰らない時期もあったあの小さな家に、いつか自分たちが住むことになるのかと思うと、急に家という存在の重みが肩にのしかかってくるのを感じた。そしてそれから、「家」についていろいろと考えるようになった。

絵本に出てくる「いえ」には、「わたしの」という所有や帰属を表す言葉が前につくことが多い。わたしのいえ、わたしのおうち……。かつて多くの人が満足な家を持てずに身を寄せ合っていた時代からの、大人たちのささやかな願いもそこには込められていたのではないかと思う。


絵本/

あなたのいえ わたしのいえ

加古里子/文・絵
福音館書店 (1969) 4歳から/小学低学年から

雨や日差しをさえぎるために屋根が生まれ、風を防ぐために壁が生まれ、人が出入りできるように出入口が作られ、今度は泥棒が入らないように出入口に扉と鍵が作られて……。簡易なしくみから始まった家に、しだいにたくさんの工夫が加えられ、便利な暮らしの道具になっていくまでの成り立ちを、子どもでもわかるやさしい絵と文章で解説した絵本。

巻末には、東日本大震災以降に書かれたと思われる著者からのメッセージも添えられていた。曰く、戦後、浴室や台所やトイレのない寄宿舎などに住む人がたくさんいた。そういう所の子にも最小限の要素でも立派な家だと思ってもらえるよう、この絵本を描いた。東日本大震災以降、体育館や仮設住宅で居住する子どもたちの様子を見て当時と比べて、胸を痛めている、とも。

──あなたのいえ わたしのいえ|福音館書店


わたしのいえ

カーソン・エリス/作・絵 木坂涼/訳
偕成社 (2016) 5歳から

わたしのいえ カーソン・エリス/作・絵 木坂涼/訳

いなかの一軒家、壁にグラフィティが書き散らされた街の集合住宅、船の家、革で作られた家、動物たちの家、ファンタジーや歴史の中の家、世界中の様々な国の家、不思議な家……大小や身分の高低にかかわらず、いろんな人や動物がいろんな家に住んでいる。家の多様なあり方を、グラフィカルなイラストレーションとやさしく楽しげな目線で描く。原題は「Home」。

──わたしのいえ|偕成社


おうちくん

カワダクニコ/作・絵
303BOOKS (2022)

おうちくん カワダクニコ/作・絵

きいろいおうちくんとあかいおうちくんは、隣どうしの2軒のおうち。ある日、あかいおうちくんの一家が新しい家に引っ越すことに。空き家になったあかいおうちくんは、住む人が見つからず取り壊されてしまう。やがてきいろいおうちくんも、長年暮らしたおばあちゃんの引っ越しにより空き家となり、それから長い年月がすぎていく……。

それまで住んでいた家が手狭になって引っ越すのは、小さな子のいる家庭にはよくあること。元のおうちが恋しくて帰りたくなった子どもたちに読んであげるのに、きっとぴったりの絵本。

──おうちくん|303BOOKS


たびいえさん

北川チハル/作 青山邦彦/絵
くもん出版 (2015) 小学低学年から

たびいえさん 北川チハル/作 青山邦彦/絵

森の中の川沿いに建つ一軒の古い丸太の家が、ひとりぼっちでいるのが寂しくなり、川をながれて旅をする「たびいえさん」になる。旅先で出会った動物たちから元気をもらい、訪れた人々に勇気を与える体験を通して、家は自ら強く成長していく。

サイズ的にも長さ的にも児童書のカテゴリに入る本だが、見開きごとに配された絵の一枚一枚が美しく、絵本と同等のクオリティ。お話にも、児童文学としてのボリュームを生かした展開の面白さがある。

──たびいえさん|くもん出版


おうち

中川ひろたか/作 岡本よしろう/絵
金の星社 (2018) 幼児から

おうち 中川ひろたか/作 岡本よしろう/絵

人はなぜおうちに帰るんだろう。朝ごはんをたべて、学校や仕事にでかけ、帰ったら晩ごはんをたべ、家族と過ごし、夜になったらふとんに入って眠りにつく。毎日の当たり前のくりかえしの中で気づく、家に帰ることの不思議。動物たちも巣に帰ろうとする本能がある。特別な事情で家に帰れない人もたくさんいる。疑問と想像はわたしのおうちを飛び越えて、世界の実像へと広がっていく。

──おうち|金の星社


つみきのいえ

加藤久仁生/絵 平田研也/文
白泉社 (2008)

つみきのいえ 加藤久仁生/絵 平田研也/文

アカデミー賞短編アニメーション部門賞など、数々の賞を受賞した短編アニメ作品を、監督自身の絵によって絵本化。

刻々と水面が上昇していく海の上の家。床が水に浸かってしまう前に、住人は新しい家を上の階にひとつずつ建てていく。妻を3年前に亡くした一人暮らしのおじいさんが、新しい家を建てるための大工道具を、誤って海に沈んだ下の階に落としてしまう。道具を探しに潜ったおじいさんが、そこで見つけたものは……? 家は、屋根や壁や窓などの建材だけでなく、その中で暮らした人々のたくさんの想い出で作られている。

──つみきのいえ|白泉社


他にも……
(今回、手にとって読んだ絵本)
100かいだてのえほん 
いわいとしお/作・絵 偕成社
わたしのおうち 
かんざわとしこ/作 やまわきゆりこ/絵 あかね書房
ちいさいおうち 
バージニア・リー・バートン/文・絵 石井桃子/訳 岩波書店


映画/

ハッピー・オールド・イヤー
ナワポン・タムロンラタナリット/監督 (2019、タイ)


スウェーデン留学から帰国した建築デザイナーのジーンが、自宅をミニマルスタイルのデザイン事務所に作り変えることを思い立ち、家中にあふれる不用品を残さず捨て去る「断捨離」を決行する。”こんまり”の教えに従い、兄とともに、想い出の品々も躊躇なく片っ端からゴミ袋に放り込んでいくジーン。しかし、それらのゴミの中にどうしても捨てられないものがあることに気づく。元恋人から借りたままのカメラと、母が捨てることを断固として拒む、家族を捨てた父のグランドピアノ……。ジーンはこれまで見ようともしなかった自らの過去に、否応なしに直面させられていく。

家が建材や家具だけでなく、想い出や人との関係によって作られていることを、強く実感させられる。育った家と、大切にして/されていた人や物から離れなければならない時が、誰の身にもいつか訪れる。

──映画『ハッピー・オールド・イヤー』公式サイト


➡ 絵本と音楽と映画のプレイリスト について

この記事が参加している募集

私のプレイリスト

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?