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おてんとさまが見てるよ



いよいよ、本が出るやら、何やらでてんやわんやな毎日です。

そう、いよいよ、今月25日に出るのです。先に関係者への献本が送られているのですが、なんてったって半生を綴ったエッセイ本。裸のまま人前に出ているようなもんで、読んで欲しいけど、読まないで欲しい。評価されたくないけれど、やっぱり評価されたい。あぁややこしい、めんどくさい、みぐるしい。

ふと気を抜けば承認欲求のバケモノと化してしまいそうになる自分に、なんとか手綱を握っておきたい……と、冷静になったり、興奮したり、反省したり、舞い上がったり、落ち込んだり……。(大丈夫?)


と同時に、実は今ネットでも話題になっている『広告』という雑誌に、寄稿させていただいておりまして。特集は「流通」。表紙はまさかのAmazon包装? と思わされるようなダンボール装。ペリペリとめくればそのまま表紙になるという!

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▼取り扱い書店が少ないのですが、このサイトに飛ぶと、スマホの現在地情報により、最寄りの取り扱い書店が表示されます。表紙にはこの雑誌の流通経路が印刷されているので、販売店によって異なるそうです。
https://kohkoku.jp/detail/

▼といいつつ、Amazonでも買えますよ。Amazonの梱包みたいな表紙の上から、さらにAmazonの梱包が……というマトリョーシカ状態になるのかが気になるところ。


これは是非とも、雑誌の実物を手に取られることをおすすめしたいレア物なのですが、なのですが。

私の寄稿に関しては、どうしても『視点』購読者の方にも読んでいただきたい内容にも仕上がってしまったので、特別に許可をいただき、ここにも掲載させてもらえることになりました。(『広告』編集部さま、ありがとうございます……!)日頃の消費行動について、悩んで、想像して、書いています。肉厚です。

「環境問題に関心はあるけど、でも……」という方は、ぜひ。そうでない方も、ぜひ。読んでいただければ嬉しいです。




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「おてんとさまが見てるよ」

そんな母の台詞が脳裏に浮かべば、わるいことはよそう、と踏みとどまれるものだった。

誰かのお菓子を食べるとか、親の財布から少しねこばばするとか、道端にゴミをすてるとか。そうした類の悪事には極力手を染めない、そんな子どもだった気がする。目の前に誰もいなくたって、おてんとさまが見ているんだから。

しかしここ最近、おてんとさまの守備範囲がずいぶんと手広くなり、ついには日陰の果てまで行き渡ってしまったように感じている。ゴミはゴミ箱へ、だけじゃヨシとされない世の中になってきているんだもの。



下水にまで配慮してこそ、真のファッショニスタ


数年前、地球や社会が抱える問題の深刻さに気づいた私は、あまりにもショックを受けた。これまで「悪いことはよそう」と生きてきたにもかかわらず、自分は無知なだけで、どうやらかなり、搾取に加担していたらしい。ショッキングな現実にひとしきり落ち込み、しばらく停滞したのち、「理想的な消費者」になろうと志した。

何かを買いたくなったときはひと呼吸置き、まずは手持ちの品で、うまいことやりくりする。壊れたものは直せばいいし、ないものはつくればいいし、誰かのおさがりを受け継ぐのもいい。そのうえでどうしても必要であれば、できるだけよい消費を心がける。

「よい消費」の内訳は、生産背景や流通過程や素材や環境負荷、そして経営者の思想や従業員のワークライフバランスに至るまで多岐に渡ってくるのだけれど、それらをいちいち調べるのは正直、めんどくさい。サクラではなさそうなレビューを総当りし、従業員の声を探し、不安なことがあれば企業に問合せ……そうしてスマホにかじりついているうちに夜が更けてしまう。ただ、あれもこれもと調べていくなかで、これは素晴らしいぞ! と惚れ惚れするような一品もあったりする。そうした「よい消費」たりうるものをツイッターやインスタグラムで紹介したりするのが、ここ数年の日課にもなっていた。

たとえばハロウィンなんかでキラキラのメイクをするのに、多くの若者はラメを使う。けれども通常のラメだとシャワーを浴びればそのまま排水溝に、そしてあまりにも粒が小さいので途中で回収されず海まで辿り着き、マイクロプラスチックとして漂ってしまうことから、最近はユーカリの葉でできたラメを提供するブランド「ビオグリッツ(BioGlitz)」なども登場している。顔面デコるなら、そっちのほうがずっといい。いつの時代も「見えないところまでお洒落」するのが真のファッショニスタだと言われていたけれど、昨今のファッショニスタたるもの、下水の果てまで考える責務があるのだ。

目の前に並ぶ商品のきらびやかな魅力だけではなく、裏側までしっかり知ってから購入すること。買い物は投票だということ。透明性の高い、真摯な企業を支持すること。それは、これからを生きる消費者があたりまえに認識していくべき、地球に生きる者としての責任でもある。慣れきった生活様式を変えていくのはめんどくさいが、必要なことなのだ。

……と、そんな理想を掲げつつも、実情を白状させていただくと、いまは猫背になってこの原稿を書きながら、冷凍食品をレンチンして食べる朝の5時。原稿の締め切り前になると、料理する暇もなく、デリバリーや冷凍食品についつい依存してしまい、もちろん目の前にはゴミが増えていく。「ゼロウェイスト」といって、徹底的にゴミを出さない活動をしている模範的な生活者も多いなかで、私はときに劣等生だ。しかもよいことばかりSNSに書いて、やましいことは書かずにだんまり。二枚舌を使い分けてのうのうと暮らす私を、おてんとさまは見ているのだろうか?


チキンの生前に思いを馳せて

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新刊『小さな声の向こうに』を文藝春秋から4月9日に上梓します。noteには載せていない書き下ろしも沢山ありますので、ご興味があれば読んでいただけると、とても嬉しいです。