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夏は怖いものだから、はやく暮らしを整えて


好きな季節は? と問われたら迷うことなく秋と答える。空が高くなり、虫の鳴き声は心地良く、枯れゆく木々が美しい。その次は冬。葉を落とした木々の枝ぶりが、白く寂しい空によく映えるのは気持ちがいい。春は少し眩しすぎるのだけれど、まぁ花粉を除けば過ごしやすい。しかし夏……夏だけはアカン。


ビーチ、キャンプ、プール、バーベキュー、フェス……いずれも私には縁遠い言葉である。夏は、夏であることだけを理由に、理性を投げ捨てることを許されるきらいがある。肌を露出し、頭はのぼせ、人との距離感が否が応でも近くなる。いや、こちらは陰のある場所で、人との距離をそれなりに保って生きていたいのだ。


だから夏が来るまでに、家を過ごしやすく整えておかなきゃいけない。夏の日差しやまぶしさから逃れられる安全地帯を……というのは話を大げさにしすぎではあるのだけれど、それでもやっぱり、夏にはそれなりの準備は必要だ。だって外は暑いのだから。



さて、今の家に越してきて1ヶ月半。先月の記録はこちら。

そして今月。ずっと暮らしの中に取り入れたい……と思っていた赤穂緞通がやって来た。


中国の緞通に影響を受け、兵庫県の赤穂市で児島なかという女性が織り始めた敷物がひとつの産業となった赤穂緞通。木綿で織られたそれは毛が短いのだけれど、これが高温多湿な日本の暮らしによく馴染む。

これまではずっとトライバルラグを気に入って使っていたのだけれど、あれはウールで毛が長く、夏には少々不向きであった。この緞通は畳の上に置いて、室内で使うことを想定しているから、薄くて軽い。

私が手に入れた赤穂緞通は100年以上前のもので、より薄くなっているところもあるのだろうけれど。ただそこまで古い敷物を受け継いで使えるというのも、土足禁止な文化圏ならでは、なのかもしれない。

……という100年以上前のものと時を同じくして導入したのが、あたらしい空気清浄機。涼しい日は出来るだけ窓を開けておきたいものの、近くにそれなりに大きな道路がある立地上、どうしても夕方には口の中がホコリっぽくなる。

これは空気清浄機が必須だ……と探した中で、居住空間にあっても景観を損なわなさそうなCOWAYのシンプルなものを購入。

加湿機能も、アプリ連携も、声優の音声でのアナウンス機能などもなく、本当にただ空気を清浄するのみ。持ち手すらないのは少々不便ではあるものの、潔いそのフォルムは不快感が限りなく少ない。稼働音もかなり静か。

もひとつ、夏らしいものが能作の風鈴。もともと夫が持っていたものなのだけれど、前の家では風鈴をつけられるような場所がなくてしばらく封印していた。自然の風で鳴るのは趣深いものがあるけれど、ときどき、空気清浄機がフル稼働してこれを鳴らすこともある。

サーキュレーターも新調した。スイスの家電メーカーStadler Formの、バンブーサーキュレーター

実はこれまでにもStedlerのサーキュレーターは持っていたのだけれど、亜鉛合金やアルミニウムで出来たそれはあまりにも起動音がやかましく、見た目は良くても、あまり愛せるものではなかった。

けれどもこちらの竹で包まれたものは、かなり音がマシ……と聞いて中古品を購入。確かにかなりマシ。曲げられた竹も美しい。友人には「肉まんが蒸せそうな扇風機」と言われた。蒸籠せいろかよ。

とはいえもう1つ、より実用的なものも欲しくて購入した無印のサーキュレーター。こちらは首が360度回転する上に、動かしているのを忘れるほどに静かで、寝室の空気を循環させるのに重宝している。けれど見た目のことを言えば、ただただよく動くプラスチックの塊である。これを見ていると、谷崎潤一郎が扇風機にキレ散らかしていたのを思い出す。

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新刊『小さな声の向こうに』を文藝春秋から4月9日に上梓します。noteには載せていない書き下ろしも沢山ありますので、ご興味があれば読んでいただけると、とても嬉しいです。