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「和ハム®」誕生。

父の時代
ジャンボン・メゾンには3つのブランドがある。
一つは父が立ち上げた「岩出山家庭ハム」で、創業から30年愛され続けている定番であり、ジャンボン・メゾンの味の基本になっているブランドだ。

日本には美味しいシャルキュトリー(豚の加工肉)を作っている方のお店が沢山あり、その規模やスタイルは様々で、たった一人で作っている人、六次化産業の一環の場合というのもあるし、中小企業の場合もある。ジャンボン・メゾンの最初の作り手は父と母の二人だったが、藤崎のギフトを手掛けることになってから、近所の友達に声をかけ手伝ってもらうことになっていった。工房も手狭になり、古い建物をリノベーションして工房を増やしていった。
「岩出山家庭ハム」のブランド名の由来は、”家庭の味”ではなく、「岩出山の家族みたいな仲間と本格的なハムを作るブランド」という意味である。

父と母との記念撮影(左端は姉)

「宮城のシャルキュティエ」
 さて、宮城にはどれくらいのシャルキュティエ(ハムやソーセージを作っている人)又は会社があるのだろうか。勝山酒造、伊豆沼農産、古川ミート、オイタミート、JAPANX(ジャパンエックス)などは規模感が同じくらい。個人や小規模になると、Vienna29(ビエンナ29)、Einberg(アインベルク)、コブレンツ、とんたろう、ノイマルクトなど。飲食店で有名なのは、オー・ペリエ、メゾン・ド・シャルキュトリーリュミエール、ビストロレガリテ、Vin et cuisineヒヒヒがすぐ頭に浮かぶ。
そして石巻の鹿のハンター小野寺さんは、あまりにも有名な方。全国のシャルキュティエが小野寺さんの仕留めた鹿を求めに足を運ぶ場所。小野寺さんも宮城のシャルキュトリーを語る上では、絶対に外せない人だ。
 私が宮城だけでも、パっと思いつく人たちがこれくらいいるとして、全国にはどれだけのシャルキュティエがいるのか。考えるだけで気が遠くなる。

それは試行錯誤の繰り返しだった

「私の作っているシャルキュトリーって、何がどう他と違うの?」
 私がジャンボン・メゾンの跡継ぎになる覚悟を決めた時、初めて「全国」を意識し始めた。自分の作っているシャルキュトリーの立ち位置が、どのレベルなの知りたくなった。要は自分の「スタイル」としてどうありたいかを考えた時、同業者と逢って話をし、その作品であるハムやソーセージ、パテなどを食べて、自分がどの立ち位置なのか自分で判断するしかないという結論に至った。専門店なのか、キッチンカーなのか、リストランテなのか、卸売りなのか。
 そして私は、1週間の旅を計画した。

 一番最初に向かったのは神戸のメツゲライ・クスダだった。日本のシャルキュトリーで一番有名な店はどこかという質問を、自分の周りにいる人たちに質問したところ、80%の人がメツゲライ・クスダと答えたからだ。
その年の夏。石巻市で「リ・ボーンアート展」が開催され、その中の催し物のリ・ボーンレストランに、メツゲライ・クスダの楠田シェフがゲストで来るというので早速会いに行き、近々神戸に行くと伝えた。
 その後まもなく楠田さんに会いに行き、クスダで働いている方にこんな質問をした。

私には広すぎる街だった


「あなたの好きなお勧めのシャルキュトリー店を教えて下さい」
その質問に答えた人におすすめされた店を次の行き先と決め、それをルールにし動くことにした。
 次の行き先は京都。シャルキュトリー・リンデンバーム。その次は楠田さんのお勧めで東京のオーヴォン・ビュータンへ向かった。地域的にどうしても行けなかったところは、岩出山に帰って来てから商品を取り寄せした。
 こうして、全国で有名な店に一通り足を運び、味を確かめ、店の雰囲気、コンセプトなどの話をして帰ってきた。
  さて、自分の目指すハム屋とはどんなハム屋?

  全国津々浦々、47都道府県には、そこに住んでいる人がパッと答えられる美味しいハムやソーセージを作っている人やお店が最低3件あるとして、単純計算で141件だとする。私が目指す立ち位置をまずその、141件の中に入ると決めた。
  具体的に言うと、「宮城県で美味しいハムやソーセージを作っているお店といえばどこ?」という質問に「ジャンボン・メゾンです」と言われるような会社になることだ。その為には、ジャンボン・メゾンのハムやソーセージって、全国で141件ある有名店と比べて、何がどう違うの?を明確にしないといけない。
  実はその答えを私は知っていた。それは今まで父が企業秘密にしていた、あることだった。そのことを世に積極的に発表したいと父に行ったところ、父の答えは「NO」だった。その理由は「真似されるから」だった。「真似される?いや真似なんかできないのでは?」どうしても父の「NO」が腑に落ちなく、私はお取引のスパイス業者の人たちやマイスター、ハム作りに詳しい人に色々な話を聞きに行った。真似ができない答えを探しに。

険しい登山のような、自分との戦い

「真似できない答え、それが『和ハム』」
 そして、答えがついに見つかった。京都に本社がある、添加物を扱う会社の営業の方と話しをしたときに、実に興味深いことを知ることができた。

「例えばジャンボンさんと同じ配合の添加物や調味液などを使って、東京で仕込みをするとします。全く違うものができますよ」
「え、それってどういうことですか?」
「つまり、その土地にしかない空気、微生物、気候、湿度、季節の移り変わり、温度。そういうものが条件となり肉は熟成されるわけです。風土ですよね。つまりハムやソーセージは、味噌や醤油となんら変わらない。だから、ここで熟成を手伝ってくれる微生物を殺してしまわないよう、洗浄剤をみだりに変えてはいけないというのはそういうことなんです」
 風土。なんて響きの良い言葉の響きなのだろうと、この時私は静かに感動していた。
 私が感じていた「真似できないのでは?」という漠然とした「勘」は、この時、信憑性を持った「だから真似できない」に変わった。
 この後、ジャンボン・メゾンの商品全てに「和の天然出汁」が入っていることを、次々に発表していった。それを象徴するブランド「和ハム®」が、5年かかってブランディングされデビューした。

「和ハム®」ブランドコンセプトリーフレット

「宮城県で美味しいハム屋はどこ?その特徴は?他と何が違うの?」

 この問いの答えを、ファンの皆さんが次々と答える日がやってくることを、この時、私は知る由も無かった。


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