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ビジネス用語を哲学する #○○ベース

普段なにげなく使っているビジネス用語も、真剣に考察すれば深遠な世界が見えてくる。そんな思いで書く超適当ビジネス用語哲学の世界へようこそ。

仕事をしてると何かと「○○ベース」という表現を耳にする。ぱっと思いついた「本音ベース」について、まずは考えてみたい。

部下のモチベーションが上がらない理由に悩む上司が、「本音ベースで話し合おう」みたいなことを言う場面。「本音で話し合おう」と何が違うのかが不明である。おれの本音を聞きたいのか…?いや、あくまで本音をベースとした話し合い(何だそれは…)がしたいだけで本音を言えと言われてはいないのかもしれない…と部下は混迷に陥り、ますますモチベーションを下げる可能性がある。

取引先が「正直ベースで申し上げると」と切り出してきたら、何かを断りたいなど、厳しい交渉を迫られている。使用例を耳にしたことがない「嘘ベース」は漏れなくただの嘘つきだろうが、「ベース」を添えることで少しやわらかい、ぼかした印象を与えたいのだと思われる。

この点は、「温度感」や「スケジュール感」の「感」と類似している。なくても伝わるのにまとわりついてくる存在意義の不可解な「感」の一文字。温度感のアクセントについては、コッペパン(↑↑↑↓↓)派と中華まん(↑↑↑↑↑)派が長らく対立している。後者のアクセントだと俄然チャラくなるという通称「中華まん問題」があり、保育園の「お遊戯会」を両方のアクセントで声に出してみればおわかりいただけると思う。

「打合せの前に先方の温度感を確認しておいて」とか「このメールだけじゃ先方の依頼の温度感わからないですね」のような形で使われる。案件に対する真剣度や優先順位の高さをぼかして伝えられる便利な言葉なのだろう。「スケジュールを教えてください」では案件の具体的な進め方や期日を回答しなければいけなさそうだが、「スケジュール感を教えてください」なら「年度末までには終わらせたい★」でも許される気がする。

話をベースに戻すと、「担当者ベースで構わないので回答をお願いします」と言われることがある。最終的には組織としての回答を伝えなければいけないが、現時点では一担当者の見解で問題ないといったように、追って高次ないし正式な答えが求められる場面で見かける表現だ。

重要なのは「〜でも構わない」の意図がある点ではないかと思っている。だから担当者が「この問題は早めにエスカレーションして部長ベースで話し合ってもらおう」とはあまり言わない。逆に、役員同士が「まずは部長ベースで話し合ってもらえないか」とは言ってそうである。岸田首相はきっと「それは大臣ベースで」とか言う。

ここに「本音ベース」との共通項があるように思うのだ。普段は上司・部下の関係だから建前の会話も多いかもしれないが、今日は本音で意見をぶつけてもらっても「構わない」ときに「本音ベース」が使われるのではないだろうか。最終的にPDFとして提出する資料について、「WORDベースでいいので送ってもらえますか?」とドラフトを見せてほしいと頼まれる場面も、同様の用法と考えられる。

しかし、媒体を示す際の「ベース」を考え始めると、問題はそう一筋縄では解決しないとわかる。

最も典型的な用法である「紙ベース」を例に挙げよう。なぜ社会人は「紙でください」と言わないのか世界七不思議にも程があると思っていたが、真っさらなA4用紙を大量に送りつけられる可能性を危惧し、自然と媒体の意を込めて「ベース」を添えたくなるのではないかと思っている。

「資料は紙ベースでください」という台詞が伝えたいメッセージは「紙で構わない」ではなく、むしろ「紙がいい(印刷してほしい)」である。「ベース(base)」の本来的な語義である「基礎、土台」の意味に近い用法だからではないかと思われるが、この点では、前述の「WORDベースでいいので送ってもらえますか?」は「でも構わない」と「媒体」の両義を兼ねていると言えるのかもしれない。

ビジネス用語の謎は尽きない。から面白い。なお、このnoteは勢いベースで書いている。


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