ヒューマンドラマなホラー小説「コトノハコダマ奇譚」を書き終えて

――まず初めに、「コトノハコダマ奇譚」の宣伝を

 そうですね、この文章は俗に言う「編集後記」というものになると思います。なので、私の執筆したホラー短編小説「コトノハコダマ奇譚」を読まれた方に向けて書いた文章になるのですが。

――と言っても。世の中、あとがきから読み始める人も結構いますので、そう決めつける訳にもいかないのですが。

 でも、書く側としては、できれば作品を読んだ上でこの文章を読み進めてほしいかな、なんて思う訳でして。なので、まずはホラー短編小説「コトノハコダマ奇譚」をご紹介させてもらいます。

――感情を込めた言葉には力を宿し。その言霊は人を蠱惑し、その運命を左右する。

 
小説投稿サイトの片隅で、細々と投稿を続ける影仁は、ある日、ひとつの連載小説を書き始める。彼が投稿を始めた頃からの読者であるコトノハと画面越しの交流を楽しみながら、物語を書き進める影仁。

 だが、彼がその作品の投稿を始めてから、奇妙な夢を見るようになって……

 拙作「コトノハコダマ奇譚」は、こんな宣伝文から始まる、ヒューマンドラマの要素を多分に含んだ約三万字程度(約一時間程度)の短編ホラー小説です。
 小説家になろうに2019年10月25日から投稿を開始して、その二日後の10月27日に完結した、短期集中連載作品とでもいうべき感じの作品ですね。

 ちなみに。つい先日、この「コトノハコダマ奇譚」を note にも転載しました。なので、未読の方は今からでも遅くありません。じっくりお読みいただけると嬉しいです。

――まあ、「コトノハコダマ奇譚」本編を読まずに後書きである本作をここまで読み進めてくるような、そんな意表を突いてくるような人はいないのかもしれませんが(笑)

 ですがこの先、激しくネタバレしていますからね。ネタバレを嫌う方は先に読んでおいてくださいと、そう注意を促しておいた方が良いよねなんてことを思いつつ。

――それでは、一度お読みいただいた方やネタバレを厭わない方で興味のある方は、この先を読み進めて頂ければ、なんて思います。

1.書こうとしたきっかけ

 では、まずこの作品を書こうとしたきっかけですが。「小説家になろう」で付き合いのある作家さんが、「ホラー短編小説」というお題で小説を書くという企画を立てまして。
 私の方も、二年間ほど投稿を続けていた連載小説を完結させたところでして。少し時間も空いたことだし話に乗ってみようと執筆を始めた、そんな感じです。

 で、ちょっと長めなこの作品を書き上げた訳です。

……まあ、正直に言うとですね。ここでいう「ホラー短編小説」というのは、どちらかというと「目次無しで誰でも一気読みできる程度の分量」つまり数千字程度を想定していたと思います。

 間違ってもその方は、3万字近くある「この文字数ならギリギリ短編だな」なんていう作品を求めていた訳ではないのかなと(笑)

――でもまあ、その方には快く読んで頂いて、紹介までしてもらいましたからね。この作品を書く機会を頂いたことも含めて、改めて感謝の意をここに書き残しておこうかなと、なんて思います。

閑話休題 ――各サイトの違いについて――

 本作品は、さまざまなサイトに転載をしていますが。その中でも一番最初に投稿したサイトは「小説家になろう」と「星空文庫」の二つです。この二つはどちらも小説投稿サイトだけあって、使える表現が似通っています。
 具体的には、太字みたいな文字装飾は使えない、そのかわりルビが使えると、そんな感じでしょうか。この辺りの感覚は、webというよりは原稿用紙に近いのでしょうね。使える表現が限定されている訳ですが、小説を書くには十分だと思います。

 それに比べると note は少し特殊で、まずルビが振れません。その代わり文字飾りが使えますし、最低限ですがレイアウトを整えることもできます。
 これを利用して作中作を作品の中に埋め込んだ訳ですが。元々、ルビをそこまで使用する必要のない作品ということもあって、もしかすると note 版が一番読みやすくなっているかもしれません。

 で、最後に個人HPに載せた電子書庫版ですね。星空文庫版をベースに、作中作の部分を罫線で囲って明確化しています。このあたり、余白とかを駆使すればもう少し見やすくなる気もしますが、ちょっと力尽きていまいまして(笑)
 でもまあ、小説家になろうや星空文庫みたいに「――」で区切るよりは見やすくなったと思います。

 とまあ、どれも同じ小説なのに、細かいところで違いが出てきてます。まあ、機能が無いからダメとは言いませんが、それでも、縦書きができてルビが振れて、こんな感じで地の文を区別できて読者も付く、そんなサイトがあると良いなぁなんてことを、今回は少し感じてしまいました(笑)

2.物語の内容について

 実はこの作品、小説家になろうで「心あたたまるホラー」とか「ヒューマンドラマ」とか、そんな感想をいただいてしまっているのですが。

――そうですね、私もそう思います(笑)

 なにせこの話、ホラーと銘打っているにも関わらず、悪人がいないどころか、誰一人として読者を怖がらせようとしませんからね(笑)

 みんな良い人で、すれ違いばかりが起こる、そんな話です。うん、ホラーにあるまじき話ですね(笑)

 ただ、この「怖くないホラー」を書くにあたって「ゴースト/ニューヨークの幻」とか「霊幻道士」とかを少しだけ意識しまして。

ロマンス、コメディ、ファンタジー、ホラーといったいくつかのジャンルに含まれる。愛する人が幽霊となって目の前に現れるというアイデアは、この映画のメガヒットで多くの亜流映画・小説を生む。
――wikipedia「ゴースト/ニューヨークの幻」より。
19世期中期-20世紀初頭中国を舞台としたチャイニーズアクションホラーコメディ。
――wikipedia「霊幻道士」より。

――チャイニーズアクションホラーコメディって何ぞや(笑)

……とまあ、この辺りの作品をホラーと言っていいのならこの作品だってホラーって言って良いよねと、そんな言い訳めいたことを考えながら執筆していたのです(笑)
 まあ、それでもホラーとして書いた作品ですからね。ホラー要素が皆無にならないよう意識はしました。結末も少しホラーに寄せています。

 それでも、言葉や感情に振り回された人たちの傷跡をテーマとしたヒューマンドラマみたいなものを意識して書いたのも事実ですし、途方もない妄想力を働かせれば、自分には無い言葉と感情を持った人に憧れて、普通とは違う形で結ばれる恋愛話に見えなくないかもしれません。

――つまり、最終話にチラリと出てきた「影仁らしくない話」は、実は影仁と儚がイチャイチャしながら書いた話で、正真正銘ハッピーエンドだったかもしれないよねと、そんな話です(笑)

……ちょっと無理があるかなぁ。儚視点で書けばそういう話にもできると、結構本気で思うのですが。誰か書いてくれないかな(笑)

 ホラーとして見るのであれば、テーマは「境界」と「呪い」かな。この物語、影仁が意識しない内に儚さんが人でなくなって、気が付いたときには儚さんの声が頭の中に「それとなく」浮かび上がってくるようになっている訳ですが。

――はっきりと声として聞こえてくるのなら、そんなにも怖くないと思いますが。これが、自分の思考として浮かび上がってくる形だとちょっと怖く感じる人も出てくるかなと、そんな感じでしょうか。

 とはいっても、その思考が「儚さんの声」だと自覚もできる訳ですから。自分をしっかりと持っていればそこまで怖くない気もします。
……これが自覚できないようなら完全に「呪い」になると思いますし、ホラーとしてはそちらの方が怖いのは間違いないと思いますが。でも、儚さんという人をそんな「ホラーみたいな人」にはしたくなかったのも事実でして(爆)
 うん、中途半端だなぁと自分でも思います。

――まあ、作者がどう銘打とうが、読者が自由に読み取ればいいかなと、そこは結構真面目にそう思います。

3.コトノハコダマ、儚(はかな)という人について。

 コトノハコダマ、漢字で書くと言葉木霊、山に登って大きな声で叫ぶと帰ってくる木霊(コダマ)をイメージして名前をつけました。結構そのまんまです(笑)

――木霊って、人の発した「強い声」に樹木に宿る精霊が反応した、そんな「人ならざる者の声」なんですよね。

 そして、人の夢と書いて儚。これはもう、この物語にはね、「人の夢」を示唆する名前が似合ってると思っているのですが、どうでしょうか。

 この物語は、どこにでもいる一人のweb作家である影仁が全身全霊を込めて放った言葉に、儚という「言霊をわが身に受けてしまう」そんな体質の女性が反応してしまい、声だけの存在になってしまう。
 そんな彼女が、その言葉の主である影仁のところに、まるで木霊のように自らの言葉を届ける、そんな物語です。

 だから、この物語はコトノハコダマ、儚さんの物語で。同時に、言葉木霊奇譚、誰かの言葉を木霊が受け取って、木霊の声として帰ってくる、そんな物語でもあるのかなと。

――ちょっとこじつけかなぁ(笑)

 ただ、「コトノハコダマ奇譚」というタイトルも「コトノハコダマ」というハンドルネームも、さらには「儚」という名前も、一度この名前を思いついたらちょっと他の名前にしたくないなと、そんな愛着のある名前だったりします。

……そんな儚という人なのですが。うん、こうやって書くと不幸でミステリアスな女性のはずなのですが。実際、相当に不幸なはずなんですよね、設定だけ見れば。

――その割に彼女、なんか超自然体じゃね(笑)

 あれだよね、彼女自身がこれっぽっちも不幸を主張しないから、なんというか、設定上彼女の持っていたはずの「ホラー要素」がことごとく吹き飛んでしまっているという(笑)

 ちなみに、このあたりはいろんな方がいるとは思いますが。私はこう、筆が走ってくるとキャラが勝手に予定とは違うことをしゃべったり行動したりすることがある、そんな作家でして。

――そうですね。思えば今までの中で一番好き勝手に動いてくれたとあるヒロインさんも、どんなことがあっても不幸になってくれない、そんな前向きな人だったような気がします。

 うん、脳内に直接話しかけてくる人を書こうとしたらね、やっぱりそういう人に寄せると書きやすい訳でして。何せ似たようなことを体験済みですからね! ……いやまあ、ほとんど冗談ですが(笑)
 ちなみに、作品の要所要所で影仁が突拍子もなく「これ、ご都合主義じゃね」みたいな感じのことを思いついたりする場面がありますが。彼女が亡くなってから、そういう場面が一気に書きやすくなったのは事実です。

――意外とね、彼女はこの物語の支配者だったりするのです。

 そうやって考えると、彼女の存在って、結構なホラーの筈なんだけどなぁ。なんでこうなったんだろ。

――やっぱり彼女の性格、ホラーには向かなかったのかな(笑)

 うん、いい感じでオチがついてしまいました(笑)

作中作「刺さり続けた小さな棘」について

 この作品で登場した作中作、「刺さり続けた小さな棘」ですが。実は一つの作品として書くつもりの作品でした。なので、キャラやプロット、作品のテーマ等は結構前から存在していたりします。
 特に、物語中盤の瑞葉が殺意を抱く場面なんかは、ずっと温めていた場面です。

――その割には、こう全体的に迫力が無い気もしますが。ああ、もう少し筆力が欲しい(笑)

 まあ、まだそこまで練り込んでなかったのも事実でして。冒頭のメールで告白されて振る場面とか結末の同窓会の場面とかは、なんだかんだでほとんど新規に書いたようなものです。

 というか、そもそも主人公は「真直」と「瑞葉」の二人にする予定だったのですよね。まあ、作中作でそれをやるとわかりにくくなるかなと、主人公を瑞葉一人にした訳ですが。
 瑞葉の相手のことをうすうす気づきながらメールで告白した真直にも、心に何か棘のような物は刺さってた訳です。ずっと気になっていて、噂話で瑞葉が遊と付き合い始めたことを聞いてホッとしてたりとか、そんな話を書く予定だったのです。

 まあ、テーマはそのままですし。作中作にすることで、儚という物語の良い理解者も生まれましたからね。伝えたいことを表現するという意味では今の形の方が良かったのかなと、そう思っています。

 なお、遊之助がクリスマスの一週間前に勝負をかけるという話は、かなり早い段階からありました。ホントは同窓会の前に結婚式があって、そこで神父様や瑞葉の親族までをも巻き込んだ一大余興を繰り広げたりとか、そんな話もあったのですが。その辺りは全て立ち消えとなりました(笑)

 つまりアレです。構想を練る段階で、チャラマジメな遊之助とああ見えて押しに弱い瑞葉の掛け合いを考えるのが楽しくなって、そっちのネタばかり考えていた訳です。
 で、その結果いつまでたっても形にならなかったと(笑)

 うん、でもまあ、最初に想定していた話とは違うけど、こんな形もありかなあ、なんて今となっては思います。多分、この話があったからこそ影仁や儚は生き生きとしたキャラになったと思うし、その彼らが瑞葉たちの魅力を引き出したのかなと。

――そしてその結果、良いヒューマンドラマになったと(笑)

 で、最終的には「それってホラーとしてどうなのか」という問いかけに行き着く訳ですが。まあそれはそれとして、書いた方としては結構、これはこれでアリかな、なんて思っています。

最後に

 とりとめもなく、色んなことを書きましたが。この手の文章って、書こうと思えばいくらでも出てきてしまいそうなんですよね。
 でもまあ、あまり長々と書いてもアレですし。この辺りで一度筆を置こうと思います。

 ただ、自分にとってこの作品は、こんな文章を書いて残そうと思うくらいには書いていて楽しい、書き上げたことに満足できる、そんな作品でした。

――なので、未読なのにここまで読んでしまったという想像を絶するほどに意表を突いてきた方には、ぜひとも読んで欲しいなぁと(笑)

 と、オチを付けたところで、以上です。最後までお読みいただきありがとうございます。

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